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エルピスの箱庭  作者: はがき
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狭心

 時計を見ると昼の12時10分を指していた。頭と背中が痛い、どうやら二日酔いになったみたいだ。

 もう細かいことを考えるのが面倒になり、ビーフジャーキーのようなものを齧りながら赤ワインをグビグビやっていたら寝てしまったようだ。背中が痛いのは鎧を着ないで寝た為だろう。早急にベッドが必要だ、セリアに持ってこさせよう。


「……もう来てるかな」


 セリアとの約束の時間は12時だ。俺は頭をボリボリと掻いてアイテムボックスのドアを出現させて徐にドアを開ける。

 すると目の前にセリアが立っていた。何やら落ち込んでるような表情で立っていたセリアは、俺と目が合うと少し驚いた顔をした。


「……そんな顔をしているのだな」

「は?、っ!《着装》!!」


 しまった、鎧を着忘れていた。今の瞬間に殺されて鎧を奪われていたかもしれない。危なかった。


「……まだ私がリュージを襲うと思ってるのか」

「うるせえ。金は持ってきたか?」

「…………、中に入らせてもらっても良いか?」

「……ああ」


 セリアは重い足取りでアイテムボックスの中に入ってくる。セリアを迎え入れてドアを閉める。白い密室空間のワンルームにセリアと二人きりだ。


「金は?」


 セリアは背負っていたリュック型のマジックポーチから、次々と物資を出して部屋の隅に並べていく。

 紙袋に入った数本のバゲット、瓶詰めのジャム、ビーフジャーキーに赤ワインの瓶ボトルが10本以上、小さな木樽を三つに蓋がしてある大鍋。タオルやコップ、歯ブラシ、ティッシュなどの日用品、トランクスタイプのパンツを含めた着替えなどだ。


「金は?」


 セリアは答えない。そして物資を並べ終えると、セリアは床を憎むように見つめたまま、自身の皮鎧に手をかけた。カチャカチャと金具を外す音だけが無言のアイテムボックス内に響き渡る。更に服にも手をかけ、上下の下着も下ろして全裸になる。


「金は?」


 セリアは苦虫を噛み潰したように顔を顰め、マジックポーチの中からロープを取り出し、自分で両足を縛り始めた。足が終わると手にもグルグルとロープを巻きつけ、口も使いながら簡易的に手を縛る。


「セリア、もう一度言う。金は?」

「すまん。本当にすまん」

「ないんだな?金が」


 いきなりこんなことをしてくるんだ、そう言うことだろう。そして払えないから身体で支払うと言うことだろうな。セリアは両手両足を縛られた状態で床に膝をつき、手と頭も床につけた。


「必ず払う。だが今は待って────」

「騙したんだな?」

「っ!」


 セリアは頭を上げ、


「違う!騙してはいない!」

「俺はお前の命を助けた。お前の目的がなんだかは知らなかったが、護衛の代わりのようなこともした。その結果がこれか」

「必ず金貨1000枚は払う!感謝している!リュージのおかげで妹の命も助かる!だがその為に金が必要になってしまったのだ!……、私にはもう何もない、だから利子の代わりに私を好きにして欲しい……」


 騙された。異世界に来て初めて会った女、ハーレム1号になるんじゃと思ったこともあった。なんとなくこの先も一緒に行動するような気もしていた。実際俺はセリアが来るのを待っていた。

 正直金なんてどうでもいい、異世界マンガの主人公は金などすぐに唸るほど手に入れることになる。俺だってそうだろう。たかが豪邸程度の金なんて、一年後ならケツ拭く紙程度だろう。だから金がないと言うのは良い。

 だが、初めて会った女に騙されたと言うことに、頭の中が煮えくりかえっている。

 これはマンガじゃない。少なくとも俺にとっては現実だ。それも命がかかっている現実なのだ。その俺を騙しといて、『男なんて1発ヤラしておけばどうとでもなる』と思われていることが許せない。そんなチョロい男と思われたことが許せない。

 俺は鎧を着たまま、セリアの顔の前にうんこ座りでしゃがみ込み、セリアのアゴを持ってこっちを見させる。


「てめえの穴にどれ程の価値がある」

「っ、なっ!私は処女だぞ!」

「たかが膜だろ。男なら全員がてめえの裸をありがたがると思ったか?馬鹿にしやがって」

「そ、そんなつもりじゃ────」


 俺はセリアが脱いだ服のベルトに付けられている剣の鞘から剣を抜き、カランとセリアの目の前に転がした。


「俺はてめえの命を助けた、妹の命も助けたのか?まあこれは良いや、聞いてなかったことだし興味もねえ。だが命を助けた約束を反故にするなら、てめえの命でツケを払え」

「…………」


 セリアは絶句して目の前に転がされた剣を見つめている。

 数分の時が経っただろうか、


「…………出来ない」

「なら消えろ。二度と俺の前に顔を出すな。てめえは今日から俺の敵だ」

「…………」

「なまじ多少は顔が可愛いから男を舐めたことをするんだろ。覚えておけ。次にあったら二度とそんな勘違いが出来なくなるまでボコボコの顔にしてやる」

「…………」


 俺はセリアの剣を取り、セリアのロープをギリギリと切断した。刃がセリアの腕や足に当たり、血が出てしまったがどうでもいい。

 そしてドアを出現させてドアを開く。


「出て行け」

「……」


 セリアは声を押し殺して泣いていた。とめどなく涙がセリアの頬を伝う。

 

「殺されたくなかったら今すぐ出て行け」

「…………」


 セリアはその場で服を着ることもせず、服や皮鎧などを両手に抱え、最後にマジックポーチを手に取り、全裸のままアイテムボックスの外へと歩き出た。

 俺は無言でアイテムボックスの扉を閉めた。


 部屋の中には食い散らかした物資と新しく並べられた物資、そして乱雑に切り刻まれたロープが寂しく床に散らばっていた。

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