厄介事
「貴様!!ころしてやる!!」
「ふはははははは!!」
24時間待ち、ドアを開けてやると、アイテムボックスの中は悲惨なことになっていた。リュックは床に置かれ、ハンマーのような物が二本ポッキリと折れて、乱雑に床に捨てられていた。多分あのハンマーでアイテムボックスの壁とかを殴ったのだろう。金髪エルフの剣も床に転がっていた。金髪エルフの顔は涙でボロボロ、泣き腫らしたのかむくんでいる。それと床に水溜りもところどころに出来ていた。
金髪エルフはドアが開くと、床の剣を拾いドアから飛び出し俺を滅多刺しにしてきた。
「死ねっ!死ねぇぇぇぇ!」
「ふははは!効かーん」
あー、楽しかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
金髪エルフが落ち着くのを待ち、街へと再出発した。
アイテムボックスの中の酸素は、結局わからなかった。ただ、一人の人間が24時間泣き喚いて暴れても、まだ酸素が足りていたと言うことだから、24時間に1回は換気をしておけばほとんど問題ないと言うことだろう。
ちなみに、金髪エルフの精霊魔法でアイテムボックス内は綺麗に掃除した。
アイテムボックス監禁事件?辺りの位置から、街に向かうに連れて魔物に襲われることが増えてきた。どうやらあの辺りまでが大狼のテリトリーと言うことなのだろう。
この辺の魔物ならばセリア《セレスティア》も遅れは取らないようで、魔物はセリアが退治している。魔物の体内から魔石を取れば金にもなると言うことだった。まあ、俺はナイフさえ持っていないのでやらないが。
「リュージ、教えてやるから覚えた方が良いぞ」
「嫌だよ、面倒くせえ」
「城塞都市に着いたら冒険者になるのではないのか?」
「なったらそん時考えるわ」
世界樹を出発してから今日で7日、明日の昼間には城塞都市メギドと言う街に到着するらしい。やっとだ、やっとヤレないエルフから解放される。街に着いたらセリア《セレスティア》に金を貰って、飯を食って風俗に行くぞ。そろそろ鎧の横一文字の視界にも飽きてきた。
「リュージ、ひとつ聞いておきたいのだが」
「なんだよ」
「もしかして、神鋼の鎧のまま城塞都市に入るつもりか?」
「当たり前だろうが」
するとセリアは数秒考えこんで、
「リュージがそれで良いなら私は構わない。だが、万が一の事を考えるとな……」
「なんだよ」
「リュージの話だと、神鋼の鎧を着ている間は水も食料も必要なく、いかなる攻撃も通用しない。しかし鎧を脱いだら戦闘力も極端に下がるのだったな?」
「ああ」
セリアに鎧の簡単な説明をした。アイテムボックス監禁事件の代償だ。
セリアがあまりにも泣きじゃくり、「怖かった。目的も果たせずこのまま死ぬのかと思った」と悲痛な面持ちでぐずるので、何か一つ願いを叶えてやると言ってしまった。そうしたらセリアは鎧のことを教えてくれと言ってきたからだ。
ちなみに名前で呼び合ってるのは、この1週間の間に「名前くらい教えろ」うんぬんのやりとりからだ。
「下手をすると一生鎧を着たまま生きていくことになるかもしれないぞ?」
「は?」
「私が懸念している未来予想を話す。それでどうするかはリュージが決めてくれ」
セリアの説明だと、俺の神鋼の鎧の事を知っている人は少ないが、もしかしたら居る可能性があると言う。それも面倒なことが起こりそうな人ほど知っている可能性があがるらしい。冒険者ギルドならギルドマスター、高位貴族や大店の商人、国の偉い人などだ。そしてそれらの人は勇者を取り込もうとするか鎧を盗もうとするだろう。
当然俺はそれに反発する。鎧のせいで負けないだろうが、鎧を脱いだら戦闘力が下がるなら鎧を脱ぐことが出来なくなる。鎧を脱げないのなら街にいる意味もない。結局街を出て行く羽目になり、行く街行く街で同じことを繰り返すだろう。
「そうなるくらいなら、初めから鎧を脱いで街に入り、鎧を秘密にすれば良いのではないか?」
「どの程度の可能性なんだ?」
「わからない。私の知る限りではシュツルテン帝国もエルファリア王国も、神鋼の剣や盾を人目のつく所には置いていない。常時宝物庫などに置いているだろう。だから知る人は少ない筈だが、実物を知らずとも文献などもあるだろうからな。はっきりとしたことは何とも言えん」
「むう」
正直、鎧を隠すつもりはなかった。だがセリアの言うように、もし鎧を知ってる人がいて、鎧を奪うために毎日のように、昼も夜も暗殺者を送られるような事になったら鎧は脱げない。しかし鎧を脱いで街にいくのは無理だ。ただの成人男子が、セリアみたいなチート異世界人の巣窟に身一つだけで乗り込むなど自殺行為に等しい。
では仮に、暗殺者を送ってくる元凶を殺しに行くとする。だがそれを実行出来る攻撃力が俺にあるか?
「もし本気で私がリュージから鎧を取り上げようとしたら、方法はあるぞ?」
「やってみろよ、あるわけねえだろ」
「いや、今この場で私一人では出来ない。だが私が想定するような面倒な奴らがやるような方法は思いつく」
セリアの方法とは、四人の高位魔術師を用意し、同時に分厚い壁で俺を一瞬で取り囲む。そしてその中に火を放って蒸し焼きにするか水で満たして窒息死させてから鎧を回収すると言う。
こえーわ!そんなことを瞬間で思いつくとかどんだけ性格悪いんだよ!
だが俺には火も水も通用しないとシルクハットは言っていた。どんなことをしようとも鎧を着ている間は死なないと。だからそれで死ぬことはないだろうが、確かにそれをやられたら詰むな。俺には壁の中から抜け出す戦闘力がないからだ。火炙りも水責めも無効化出来たとしても、壁の中に封印されてしまったら、どうにもならなそうだ。
だけど人里には行きたい。飯も食いたいし女も抱きたい。
「いや、これ、どうすっかな……」
ならば初めから街に入って皆殺しにすれば良いのか?いやいや、俺は世界を救いにきたのに滅亡させてどうする。だが、向こうが襲ってくるのに我慢しないといけないのか?
俺が答えの出ない思考の沼に沈んでいると、
「本音を言うと、私の目的はもう達成された。ここからリュージを置いて、一人で城塞都市に帰ることも出来る。だがリュージには恩があるのでなんとか力になりたい。リュージが覚えているかわからないが金も渡すつもりだ」
「覚えてるよ」
「うん。だがリュージは今後の方針がまだ決まってないようだ。そしてすぐに答えが出ないと見た。そこで私から提案だ」
セリアは、俺は城塞都市に入らず、アイテムボックスの中で生活したらどうかと提案してきた。欲しいものはセリアが用意するから、考えが纏まるまではそうした方が良いと。そして鎧を脱ぐ決意が出来たら、再度街の中に案内すると言ってきた。
確かに飯を食いたいのなら、アイテムボックスの中で一人でいれば安全に飯が食える。女は連れてこられる女の事を信用出来ないから無理だが、とりあえず鎧を脱ぐ事は出来そうだ。流石にそろそろ一度は鎧を脱いでみたい。
「わかった。じゃあそうしてくれ」
「決まりだな。では行こう」
俺たちは城塞都市の近くまで歩き始めた。