出来心
金髪エルフの言う通り、2日で世界樹のふもとにたどり着いた。世界樹のふもとまで行くと、世界樹の大きさが嫌と言うほどわかった。もうこれは木じゃねえ、壁だ。俺の前に聳え立つ世界樹の幹は、日本一高いタワーの前に立っている気分だ。いや、それよりも大きいかもしれない。あまりに大きすぎて、正確にはわからない。
金髪エルフはリュックから鉤爪のようなものを取り出し、スルスルと世界樹の幹をロッククライミングのように登り出した。どうやらあのリュックはアイテムボックスだな。明らかに内容量が見た目と違いすぎる。
1時間もすると、金髪エルフが世界樹から降りて来た。
「私の用事は終わらせた。貴様を街に案内しよう」
「……おう」
「ただ、速度は少し落として欲しい。貴様のスタミナは異常だ。疲れないのか?」
「鍛えているからな」
どうやら常時全力ダッシュに着いてくるのは、魔法チートのエルフでも辛いらしい。
すると突然大きな狼が俺の前に現れた。金髪エルフは剣の柄に手をかけ、最大限の警戒をする。だが俺にはこの大狼が攻撃する気がないように見える。
「足、治ったのか」
千切れ飛んでいた右の前足は、肉が盛り上がって生えてきているように修復されていた。いや、まだ修復途中のようだ、新しく生えてきた箇所には体毛が生えておらず、爪もまだ完成していないようだ。
「お前の縄張りだったんだろ?邪魔したな」
大狼は黙って俺を見つめていた。試しに大狼に向かって手を伸ばしてみると、大狼は前足を折り、まるで俺に頭を撫でられようとしているかのように頭を下げた。俺は頭を撫でてやる。
「どっかの金髪エルフより狼の方がよっぽど素直だな」
「括り付けないと女も抱けない臆病者に言われたくはないな」
「クソが」
大狼から手を離すと、大狼は世界樹の幹の下で横になった。
「行くぞ、案内しろ。クソ女」
「偉そうに言うな、玉無し勇者」
俺たちは世界樹を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
金髪エルフに先導させているが、最高速度は金髪エルフの方が早い。それはそうだ、いくら鎧の重さを感じないと言っても俺は普通の成人男子。鎧の力で疲労がないから常時同じ速度を保てるが、走る速さにバフはかからないのだから。
金髪エルフが俺に風のバフをかけると言ってきた。試してみたい気持ちもあったのでバフを貰うと、なんとバフは鎧に弾かれた。回復魔法もあるらしく、それも試してみたけど、どうやら魔法は種類関係なく完全無効らしい。
世界樹を出発して4日目、金髪エルフの為の飯休憩、
「貴様、やはり魔族なのか?」
「魔族?なわけねえだろ」
「だが人間ではない」
「人間だよ」
「私は貴様が飲み食いしているのを一切見てないのだが?」
「俺はお前がうんこしてるのを見てないぞ」
金髪エルフはゲッと言う顔をして、
「見たいのか?」
「アホか」
「そう言う変態も居ると聞いたこと────」
「俺はスカじゃねえ!!!」
むしろドノーマルだと思われる。コスプレより裸の方が好きだし。
「流石に倒れられると困るのだが」
「大丈夫だ、鎧を着ている限り水もいらない」
金髪エルフはカッと目を見開いた。やべっ、余計な情報を与えてしまった。一緒にいる時間が増えたからか、少し警戒心が薄れつつある。気をつけなければ。
「流石神の鎧と言うわけか」
「うるせえ、黙ってろ」
数分の沈黙の後、
「そう言えば名前を聞いてなかったな。勇者よ」
「人に名前を聞く時は自分から名乗るものだ、セレスティア=キッシュヘラルド」
金髪エルフは剣に手をかけ、中腰になった。
情報を与えないようにって言ってすぐにこんなことをしたのは、俺を見縊ると痛い目に遭うぞって脅しのためだ。
「……何故私を知っている」
「まあ、お前の予想通りだよ。俺にはそう言う力がある」
「……それも神の力なのか?」
「知らねえよ。鑑定ってないのか?」
「カンテイ?」
「スキルとか魔法は?」
「魔術と精霊魔法のことか?」
「スキルは?」
「……スキル《能力》など誰もが何かしらは持っているだろう」
「全員持っているのか?」
「当たり前だ。確かに駆け出しの者は能力とは呼べんだろうが、誰もが────」
「あー、違う違う。そう言うんじゃなくて。例えば魔物を倒すと経験値が増えてレベルが上がって鍛錬無しで自動で強くなるとか、生まれつき剣術のスキルが高い奴は、子供の頃から達人並みの剣術が使えるとか」
「どんな御伽話だそれは。そんなことが可能なら、誰も修行しないではないか」
「あー、なるほどね。じゃあ例えば、国の機関や冒険者ギルドに行くと、名前やら能力などが数値化されて見える魔導具とかあったりとか」
「勇者の国ではそうなのか?」
「いや、そうじゃねえけど。例えば筋力50とかで、修行するとそれが60に増えたりとか」
「その50とは全身の筋肉の総量なのか?それとも腕を鍛えたら腕の筋肉の数値が変わるのか?」
「あー、もういい。大体わかった」
要はそれ系やレベルはないと。そう言う異世界もマンガで見たわ。魔法はあるらしいが。
「なら魔法は?魔法があるなら魔力があるんだろ?」
「魔力はある。魔物の体内には魔石と呼ばれる貯蔵器官があり、そこに魔力を貯めているから魔物は強いと言われているな」
「え?人間は?」
「人間に魔石があるのか?」
「いや、俺が聞いてんだよ」
なんか上手いこと話が噛み合わない。
「…………、知らないものとして説明するが、医学の進歩により、人間の体内の全容は広く知られている。人間の体内には魔石はない」
「ならどうやって魔法を使うんだよ」
「魔法は精霊魔法のみだ。魔術のことか?」
「あー、もう!あーそうだよ!」
話が進みづらくてイライラする。
「魔術には魔法陣と魔石かプラーナを使う」
「プラーナ?」
「プラーナを知らないのか?」
「うるせえ!話が進まねえからとにかく説明しろ!!」
俺が怒鳴ると金髪エルフは渋々と説明を再開する。
プラーナとは人間の細胞から出るものであり、魔法陣により体内から体外に排出することが出来るエネルギーらしい。細胞から生み出されたプラーナは、血管を通り魔法陣に排出され、プラーナを動力エネルギーとして魔法陣により構築された術式に従って、現象を起こすと言うのが魔術とのこと。プラーナは体内に溜めて置くとかはなく、都度細胞から生み出されるとのこと。
「じゃあ、魔法陣で吸い取らなければ体内にプラーナは生まれないのか?」
「そんなことはない。細胞内にあるし、血管を通って常に循環している分もある。ただ、魔石のように特別プラーナだけを凝縮して貯蔵するような内臓器官はない」
「ちなみに魔術の使いすぎで魔力────、あー、プラーナを使いすぎるとどうなる?」
「疲れるな。あまりに疲労がかさめば気絶したりすることもある。また、普通の魔法陣には安全装置の代わりになる術式が組み込まれているのでありえないが、安全術式無しで無理やりプラーナを限界以上に抽出すると死に至ることもある」
「なるほどな」
細かい設定と呼び名の違いはありそうだが、要は人間にも魔力があると。体内の魔力袋みたいな設定はないけど、大体マンガと同じような設定だ。
それとプラーナの代わりに魔石を使い、魔法陣と魔石を使って魔術を行使することも出来るらしい。これが魔導具と言うことになる。
「あー、じゃあお前のリュックは魔導具だろ?それはどうやって動かしてるんだ?」
「よく分かったな。このポケットの内側に魔法陣が書かれていて、このポケットの中に魔石を入れて置くことで機能する。もし、リュックの中に物が入っている状態で魔石が切れたら」
金髪エルフは、手のひらを上に向けて「パア」と開いた。なるほど。中身の維持にも魔石の魔力が使われていて、魔力が切れたら中身ごとおじゃんか。確かにリュックの外ポケットの中を見せてもらうと、ゴルフボールぐらいの赤い魔石がごろごろ入っていて、そのうちの数個の色が黒くなっている。
「勇者の国にもあったのか?」
「ねえよ。ただ、俺のとの違いを確認してただけだ」
「ん?マジックポーチを持っているのか?どこにマジックポーチがあるのだ?」
「あー、じゃあ、ちょっとだけな」
俺はアイテムボックスと念じて、ドアを出現させる。そしてドアを開いて金髪エルフを見ると、金髪エルフは立ち上がって目が落ちそうなほど見開き、あんぐりと口を開けている。
ぶはっ!面白え顔だ。美人も台無しだな。
ちょっと面白かったので調子に乗り、ドアの中に入り、ドアを閉める。外から見たらドアは消えた筈だ。そして30秒ほどしてから再度ドアを出現させて、森の中へと出る。
金髪エルフは立ち上がって俺をキョロキョロと探していたようだ。面白えぇぇぇぇ!!
「な、なんだこれは!!今何をした!!」
「俺のマジックポーチだ」
「マジックポーチに生物は入れん!!!」
「お前も入ってみるか?」
俺がドヤ顔でドアを開けてやると、金髪エルフは恐る恐る歩み寄り、中を覗きながらも室内には入らなかった。
「どうした?入れよ」
金髪エルフはギギギギと聞こえそうなほどゆっくりとこっちを向き、
「魔石がないな……、ならばプラーナ式なんだろう。プラーナの抽出を止めたら中身はどうなる?」
なるほど、マジックポーチに当てはめるとそうなるか。だがこれはシルクハット製の不思議パワーのアイテムボックスだから心配いらないと思う。俺は悪戯を思いつく。
そして腰がひけて、アイテムボックスの中を覗き見ている金髪エルフをドンと押して、アイテムボックスの中に突き飛ばした。
「なっ!!」
「あばよ」
そしてドアを閉めてドアを消す。
金髪エルフは、中に倒れ込みながら絶望の表情で俺を見ていたな。あー、面白え。さて、何時間で出してやろうか。
あっ、酸素濃度。やべえ、死ぬかな?だけどいつかは実験しなければいけなかったし、でも実験で死んだら流石に可哀想か?
……、いやいや、俺はあいつに本気で魔法をぶつけられたし、何度も剣で切りつけられた。てことはあいつは俺に殺意があったと言うことだ。
なら良いだろ。確実に殺すつもりではないと言う意味と、下手したら死んでしまうかもしれないと言う意味では俺が今していることと、あいつが俺にしたことは同じ事だ。
「よし、24時間にしよう」
まあ、死なんだろ、多分。