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エルピスの箱庭  作者: はがき
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エルフ

「待て!待て!」

「……」


 全力ダッシュをしている俺に、金髪エルフが走って着いてきていた。俺はそれを無視して、振り切るように1時間程走ったが、金髪エルフはずっと俺を追って来た。


「止まれ!頼む!止まってくれ!」


 面倒くせえ。ヤレねえ女に用はねえんだよ。確かにみてくれは良いかもしれねえけど、この程度の顔面偏差値ならいくらでもいるだろう。異世界なんだし。今の俺にとってはこいつは無価値だ。

 ……、まあ、2、3発殴れば居なくなるかな。


 俺は足を止めて、振り返りざまにパンチを放つ。


「なっ!くっ!」


 金髪エルフは「はあ、はあ」と息を切らしつつ驚愕の表情を浮かべ、俺のパンチを易々と躱した。続け様にキックとパンチもお見舞いする。


「うらぁ!」

「くっ!……、ん?」

「らぁ!」

「……、遅いな」


 何度も攻撃するも、金髪エルフにかすりもしない。相変わらず肩で息をしている状態なのに、悠々と避けられている。

 俺のパンチが遅えだと?遅くはねえはずだ。中学高校と空手道場にも通っていたし、大会で優勝したこともある。……県大会だが。それでも普通の成人男性よりはマシなはすだ。


「クソチート野郎が!!」

「私はクソではない!!」


 1発もかすりもしない。クソ女が……、これが異世界チートかよ。どうせ魔法とかでバフしてんだろ?チートじゃねーか!

 

「仕方ない!話を聞いてもらうためだ、少々痛い目を見てもらうぞ!」

「やってみろゴラァ!!」


 金髪エルフは剣を腰から抜き、俺に向かって切り付けてきた。


キン!


「馬鹿が!効くかよ!」

「だろうな!予想通りだ!」

「はあ?」


キンキンキンキン!


 何度か斬撃を貰うも、当然この鎧には無傷。その間も俺も反撃しているが、俺の攻撃は1発も当たらない。


「ここ!」


キン!


「なっ!」


 金髪エルフは俺の膝を狙って剣を突き入れた。馬鹿が!俺の無敵鎧に繋ぎ目の隙間なんてねえんだよ!


「らあ!」

「ぐっ」


 やっと1発腹に蹴りが当たった、だが浅かったみたいだ。後ろに自ら飛んで、威力を殺しやがった。チート野郎が。

 金髪エルフが足を止める。俺も手を止めた。


「重い……、力は殺したはずだが……」

「はっ、わかったか?お前じゃ俺には勝てねえよ。わかったら消えろ」

「元より勝つ気などない」

「は?」

大狼ダーランを退けた貴様に、私が勝てないなどわかり切っている」

「……開き直りやがって、負け惜しみかよ。性格悪ぃな」

「なに!?、それだけは貴様に言われたくはない!!」


 俺はしっしっと手を振る。


「どうでもいいから着いて来んなよ。お前はいらねえよ」


 すると金髪エルフはその場で土下座した。


「頼む、話を聞いてくれ」


 だからなんだよ。土下座如きで何故俺が話を聞かなきゃならねえ。こっちには用はねえ。

 俺が振り返って歩き出すと、金髪エルフは俺の前にまた来て、土下座した。


「き、貴様!普通ここまですれば話くらいは聞くだろう!!」

「悪りぃな、俺は普通じゃねえ。あばよ」


 俺は金髪エルフを無視して走りだ────


「そっちに街はないぞ!!」


ピタ。


 俺は足を止めて、金髪エルフに振り返る。金髪エルフは頭はあげてはいるが、両手と膝は地面についたままだ。


「街の場所も知らないんだろう!金はあるのか?!身分証は?!」

「……」

「私なら貴様を助けてやれる!だから話を聞いてくれ!!」

「…………」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 金髪エルフは背負っていたリュックから、キャンプ用品セットみたいなものを出し、焚き火を作りお湯を沸かし始めた。そして香りからしてコーヒーと思われるものを作り、俺に差し出してくる。


「飲め」

「いらねえ」


 兜は外せないから、コーヒーを飲むことは出来ない。この鎧は《着装》か《脱装》しかなく、部品ごとに外せないのは確認した。《脱装》した後は部品ごとに手に取ることは出来るが、全体で500kgある為、部品一つでも死ぬほど重い。


「毒など入ってないぞ」

「なんでわかった」


 当然こいつの前で鎧は脱げない。脱ぐことが出来るくらいならレイプしている。

 俺の質問に、金髪エルフは質問で返して来た。


「それは街の場所を知らないことか?それとも貴様が勇者だと言うことか?」

「勇者?」

「勇者なんだろう?しかもこの一帯に来たばかりの」

「……」


 どうする。しらばっくれるか?

 いや、何もしてねえのにバレてるくらいなら、どのみちこの先秘密にするのは不可能だろう。ならば情報が欲しい。


「勇者じゃない。だけどなんでそう思った?答えろ」

「答えよう。そのかわり、その後私の話も聞いて欲しい」

「……、わぁーったよ」


 金髪エルフは焚き火に薪を投げ入れながら、ゆっくりと話し出した。


「一つ目はその鎧だ」

「鎧がなんで勇者に繋がる。昔の勇者が着てたのか?」


 金髪エルフは鼻で笑うように息を吐き、


「まさか。これも知らないのだな?」

「もったいぶるならもう行くぞ」

「待て!悪かった!」


 俺が立ち上がると、金髪エルフは慌てて止めて来た。俺が切り株に座り直すと、金髪エルフはため息を吐く。


「やっかいな御仁だ」

「早くしろ」

「それはな、その鎧が神鋼だからだ」

「……神鋼?」

「ああ、文字通り神の鋼だ。この世界では採掘されたことがない」

「なんで神鋼だとわかる?」


 金髪エルフは少し笑い、


「ははっ、何を言ってる。真銀色の鋼で黄金の光沢を放つ金属など、神鋼しかないではないか!」

「マジかよ……」

「神鋼は今までに2回発見されている。1000年前に現れたと言う勇者の剣、500年前に存在した最強の冒険者が持ち帰った天竜からの贈り物だと言う盾。剣はシュツルテン帝国の、盾はエルファリア王国の国宝だ」

「……」

「神鋼は、何を持ってしても折れず、溶けず、劣化せず。ゆえに加工も出来ない。しかし最高の金属だ」


 マジかよ。それじゃあこの鎧を着ているだけで、どこに行っても勇者勇者と言われるってことかよ。


「いや待て。神鋼の鎧を着ているからって勇者とは限らないだろ。俺の鎧は海の中のドラゴンに貰ったんだよ」

「ふふっ。私の言葉が聞こえるか?」


 金髪エルフは余裕の笑みを浮かべる。


「馬鹿にしてんなら話は終わりだ」

「ならば貴様はハイエルフなのか?」

「なわけねえだろ、俺は普通の人間だ」

「今私が話している言葉は古エルフ語だ。教えてやろう、この世界で人間とは人族、エルフ族、バーバリアン族、ドワーフ族、小人族のことを指す。貴様が人間と言うのなら、人族と言わなければならない」


 クソ、やっぱ金髪エルフのペースで話されるのがムカつくわ。こいつの話し方は周りくどくてイラつく。


「そんなんどうだって────」

「ああ、どうだって良い。問題はそこじゃない。問題はエルフでも極一部しか話せない古エルフ語を貴様がスラスラと口にしていることだ」

「……マジかよ……」

「エルフの文献にはその記載もあるぞ。過去の勇者様は全ての言葉を理解して話せたと。それは神から授けられた特別な力らしいな。これが二つ目の理由だ」

「………」


 俺が呆けていると、金髪エルフはたたみかけるように話を続ける。


「三つ目だ。ここは世界樹の森、ここから1番近い街まで森の中を走って1週間以上かかる。そして貴様が目印にしているであろう木は世界樹で、街へ向かうなら逆方向だ。さらにここから世界樹に着くまでに2日。もちろん世界樹の森は魔物の宝庫だ、人など住んでいない」

「…………」

「見たところ貴様は手ぶらだ。当然水や食料が必要なはずなのに。まともな人間が見れば自殺志願者にしか見えない。だが、何も知らないなら納得だ、迷子になり、闇雲に走って街を探す。当てがないから見つけた大きな木に向かって走っている。こんなところではないか?」

「…………」


 こりゃだめだ。流石に否定する材料がない。

 いや、待てよ?俺は世界を救う為にこの世界に来たんだ。ならば勇者と名乗っても良いんじゃねえか?勇者になって国にチヤホヤされてやりたい放題すれば良いじゃん!!


「バレちゃ仕方ねえな。まあ、そんなとこだ」

「そうか。では私の話を聞いて欲しい」

「……」


 こいつ……。格好つけて言ったのに、サラッと流しやがった。勇者なんだからありがたがれよ!!

 


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