駐車場
オクタヴィアが店を出て自分の車のところに戻ってみると、隣の車はそのままだった。中をのぞくと、ルキウスは濡らしたタオルを顔にかけ、シートを倒して寝ていた。
オクタヴィアが窓をたたくと、ルキウスは一瞬だけタオルをめくったので、額から頬にかけて蕁麻疹が広がっているのが見えた。ルキウスはすぐにタオルを戻し、窓を開けた。
「もしかしてパーティ終わっちゃったのか」
「ええ。これからディナーの部になるから、入れ替えですって」
ルキウスはタオル越しにもわかるほど、大きなため息をついた。。
「かっこ悪い所みせちゃったな。顔の晴れがひいたら颯爽と戻ろうと思っていたんだけれど、気分が悪くて」
「それより、テリーヌにヘーゼルナッツが入っていたそうよ。大丈夫?」
「舌がピリピリしていたから、嫌な予感はしていた。だが、君という運命の人に出会ったのだから、気合で乗り切ろうと思ったんだ。しかし、武運拙くダウンだ」
「よかったら、私の車で送るわ」
「ありがとう。助かるよ」
セーレ君はタオルで顔を隠したまま、オクタヴィアの車に乗り込んできた。
首のあたりにも、かゆそうな湿疹が出ているのが見えた。
この試食会に来てもらったばかりに、こんなかゆい目に会わせてしまうことになってしまったんだわ。そう思うと、オクタヴィアは、なんだか申し訳ない気持ちで一杯になった。
ルキウスがカーナビに住所を打ち込み、座席に落ち着くのを待って、オクタヴィアは謝った。
「ごめんなさい。半年と期限を決めたのは、・・・・・・」
オクタヴィアは事情を説明した。
「ごめんなさい。自分が教師を辞めたくないばかりに、貴方を利用しようとしていたのだわ。迷惑かけて、ごめんなさい」
全てを聞き終えたルキウスはぽつんと「そうなんだ」と言っただけだった。
怒っているのかしら。タオルで顔を隠しているので、表情はわからない。
でも、怒っている気がする。もう会ってもらえないんだろうな。
オクタヴィアはため息をついて、車をスタートさせた。
セーレ家の門の前についた。
「お客さん。着きましたよ」
オクタヴィアはタクシー運転手ふうに声をかけてみた。セーレ君は顔を隠したままで言った。
「考えたんだけれども。君の苦境は求職中の彼氏がいれば、万事解決する。政治を志していればなおいい」
「まあね。でも、そんな都合のいい人見つかるわけないわ」
「それがいるんだ。詳細を知りたい?」
「ええ」
「明日の予定は?」
「無いわ」
「なら明日の10時、ここへ迎えに来てくれ。待っているから」
ルキウスは顔を隠したままニンジャの様に身軽く外に出ると、オクタヴィアに手を振った。