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彼氏募集中 期間限定

オクタヴィアは、いつも急かされていた。

お前はなんてのろまなんだ。父にはよくそう言われた。

やり手の父からすると、自分のペースは遅くて、歯がゆく思えるのだろう。

逃げて逃げてやり過ごそうとしていたものだから、つけが来たんだわ。


本来恋人探しというのは楽しいものだと思うのに、三か月以内と言われると、単なる悩みの種だ。

それに、いま私がしようとしていることは、自分以外の誰かを父の生贄に差し出そうとしてるだけではないかしら。

自分が教師を辞めたくないからって、他人の生き方を変えるようなことをしていいはずがない。


ああ。悩むばかりで、どんどん日が過ぎていく。何とかしないと。


テレサのレストラン試食会の前日、オクタヴィアはテレサから電話を受けた。


「彼氏探しは、その後どうですか」


「いえ、何も進展はなくて」


「じつは、紹介したい人がいまして。名前はルキウス・セーレだそうです」


テレサはてきぱきと説明を始めた。


「その人は、夫の経営するレストランでアルバイトしてたこともあるんです。社員にならないかって誘ってみたけれど断られたんですって。ベリアル大学の文学部を卒業してどこかの会社に就職したらしいんですけれど、半年ほどでふらっとやめてしまって、その後職を転々としていたんですって。教師とか船乗りとか。

なんか優秀な人なんだけれど、とらえどころがないというか。

この九月に大学にもどろうとしていたんだけれど学部が決まらないって。モラトリアムというかニートというか」


話を聞く限り、ダメ人間だ。だが、他にあてもない。

だが、教師をしていたことがあるなら、少しは話が合うかもしれない。

とりあえず何か月か彼氏のふりをしてもらえばいい。


「紹介してください。お願いします」


「じゃあ、オープン試食会の日にお引き合わせします」



試食会の日になった。

なんだか違う自分になったような気分で、オクタヴィアはショッピングモールへ向かった。

テレサに紹介してもらったお店で、すすめられたのは花模様のワンピースと淡い色のジャケット

だった。自分には似合わないと思っていたのに、試着してみると買わずにはいられなくなった。


髪も少しルーズにまとめた。よく考えたら、オクタヴィアは学校を卒業した後でも、何となく校則に従った髪型ばかりしていたのだ。


ショッピングモールの駐車場は何百台も止められそうなほど広い。

こういう時にオクタヴィアは、周りに車が少なく、場所を覚えやすいところに停めることにしている。建物の正面のエリアにおあつらえ向きの場所を見つけ、車を止めた。

まわりをぐるぐる見回し、場所を覚えたオクタヴィアが歩き出すと、すぐ隣に青い車が止まり、見知らぬ男が声をかけてきた。


「やあ。もしかしてオクタヴィア・レウケーさん?」


「そうですが」


「僕ルキウス・セーレです。今日紹介される予定の。初めまして。やあ。写真より美人ですね」


「まあ」


なんかチャラい感じだわ。ちょっと反感を持ったはずなのに、ほほ笑みかけられただけでオクタヴィアの心臓は高鳴った。連れ立って歩きながら、何度も彼の顔を見上げてしまい、目が合うたびにハシバミ色のその目に引き込まれてしまいそうになった。


まだ開店前とあって、お店の正面扉にはシャッターが下りていて、招待客は関係者用入り口から会場に入った。

料理も素晴らしかった。

エビ、イクラ、アボカドや卵を散らした色とりどりの寿司、

テリーヌはひと切れひと切れが抽象画を見るような見事さだった。

一色一色が自然の色なのだそうだ。サーモン、カモ、エビ、他色々な野菜。

何だかすべてが輝いて見える。


そして、ルキウスさんのこちらを見る目ときたら。まるで恋されているみたい。

これで美味しいワインがなくてよかった。危ない。危ない。

オクタヴィアは正面から頼んでみることにした。


「私と半年ほどお付き合いをしていただけないでしょうか」


ルキウスさんは楽し気に笑った。


「それはぜひとも。でも半年だけ?」


「その方が気楽かな、と思って」


オクタヴィアが事情を説明しようかどうか迷っていると、横合いから素っとん狂な声が響いた。


「あれ?セーレ君?」


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