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オクタヴィア

オクタヴィアさんはロザリンドと同じくパールベル・カレッジの卒業生だった。

同じ敷地内とはいえ、法学部と教育学部のキャンパスは離れていたから顔を合わせたことも無いが、卒業年次によれば、ロザリンドと二年ほどかぶっている。もしかしたら、学園祭などですれ違ったことがあるかもしれない。

現在はここのパールベル学院付属小学校で教師をしているとのこと。


待ち合わせ場所のカフェテリアに付き、ロザリンドはオクタヴィア嬢の写真を見なおした。

清楚な感じの美女だ。

その人はすぐに見つかった。

髪をひっつめに結って、白いブラウス、紺のスカートという、目立たないいで立ちなのだが、なんだか雑誌のグラビア撮影みたいにみえる。


「オクタヴィア・レウケーさんですか」


「ええ」


オクタヴィアさんは読んでいた本から目を上げてほほ笑んだ。


ロザリンドはてきぱきと現状を説明した。オクタヴィアさんは驚いたように言った。


「婚約してたの?私が?」


「御存じなかったですか」


「まったく。お父様ったら何をしているのかしらね。ミダス君なんてもう十年くらいあっていないわ。今の連絡先も知らないくらいよ。婚約破棄させようだなんて」


オクタヴィアさんは眉間を押さえたまま嘆息した。


「証拠の書類も、多分5歳の時のいたずら書きよ。私ったら、名前が書けるようになったのがうれしくて、さし出されればどんな紙にもサインしていた時期があって。ミダス君と並んで名前を書いたことがあるわ」


「ほほえましいですね」


「どうかしら。父とは折り合いが悪くてね。就職して家を出て以来口もきいていないの。2年になるかしら。今週末に実家へ行って話し合ってみるわ」


「ええ。では、早めに結果をしらせてください」


あの様子なら、ぱっぱと一件落着かも。ロザリンドは期待したが、話し合いはうまくいかなかったらしい。

週明け早々に、至急会いたいというメールが届き、前と同じカフェテリアで会うことになった。オクタヴィアさんは憔悴しきった表情でロザリンドの前に分厚い書類を出した。


「大学入学時に、教育学部への進学を反対されていたの。でも、これにサインをしたら学費を出すって言われたから、サインをしたの。こんな分厚い書類だったからよく読んでいなかったのだけれど、よく読んだら婚約についての一文があったの」


オクタヴィアさんはコピーをめくると、蛍光ペンで塗られた箇所を示した。


『私、オクタヴィア・レウケーはミダス・ベリアルと結婚します。そうしない場合は父の望む人と結婚します』


「うわあ」


胸糞悪い一文にロザリンドは思わず顔をしかめた。


「いやなら3か月以内に自分で婿を見つけてこいって。そうしたらミダス君を訴えないでやるって。そんなことできるわけないって言ったら」


オクタヴィアさんは涙ぐんだ。


「なら、一人娘のお前が仕事をやめて、あとを継げって。来年4月のお父様の誕生日に後継者として紹介するからって。あと半年よ」


「なんというか」


ロザリンドはなんだかイライラしてきた。他人の父親にこれをいうのは何だが。

クソオヤジだわ。

娘の人生を何だと思っているのかしら。

オクタヴィアさんはハンカチを取り出して、滲んだ涙をふいた。


「父は要するに後継ぎが欲しいだけなの。それも、身内じゃないと嫌なのよ。自分の秘書として雇ってゆくゆくは地盤を継いで議員にしてやるって。私は嫌なの。せっかく教師に成れたのですもの。やめたくない。でも父はとても強引な人だから、手段を択ばないわ。学校に迷惑がかかったらと思うと、どうしたらいいか」


うつむくオクタヴィアさんを前に、ロザリンドは、かける言葉もなかった。


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