21、俺はもっと訳が分からない
日没前に2つのコンテナはバーラエナ農場のメインハウス前に着地した。
バタンと扉が開き、夫妻が家から飛び出してきた。
「怪我はないかい?」
バーラエナ氏はフラつくレムーヴを支え、コンテナから降ろした。
「俺は若干負傷しましたが、治癒薬があるので大丈夫です。
彼女は、魔力の消耗が激しいです」
「大変! 部屋をお貸しするので休んでください」
レムーヴの腕を取る夫人が言った。バーラエナ氏はメインハウスに走って戻る。
「ありがとうございます。私にはマグナまで戻る余力はありません。今夜は泊まらせてもらえないかしら?」
「もちろんよ。クルーハウスの2階は女性専用なの。
階段室の鍵もお貸しするわ」
再び出てきた氏の手に鍵束があり、夫人がそれを受け取ると女性2人はクルーハウスへ歩いて行った。
俺は採取してきたものの報告をする。2つの袋を広げて見せると、バーラエナ氏の目の色が変わった。
「※※※※※※!(なんてこった!)
こんな上質の素材が手に入るなんて!
従業員とアラウダを呼んできます。あとは我々にお任せください。これならシルバーローズも回復するでしょう。
ドーファンさんも部屋で休まれますか? それともダイニングで食事にしますか?」
「先に飯を食べてから休みます」
バーラエナ氏と俺はメインハウスに入った。
既に食事の準備をしてくれており、俺はダイニングで夕食を頂いた。
日中サンティエが何をしていたかバーラエナ氏に尋ねると、「彼は熱を出して部屋で休んでいました。『解熱剤を持ってきているから大丈夫だ』と言ってました」と返された。
深夜に水を浴びていればそうなるよな、と心の中で呟きながら、俺は席を立ちクルーハウスの個室に戻った。
寝間着に着替え、リュックの中から魔法攻撃用の回復薬を一口飲み、俺はベッドに潜る。外出してる間にシーツを交換してくれたみたいだ。パリッとした感触が心地良い。俺は目を瞑る。
色々聞きたいこと考えなきゃいけないことは山程ある。でも、身体が考えることを赦してくれそうにない。今は休むことを最優先にした。
■■■■■
コンコンコンコン
夢に現実の音が強引に入ってきた。
目を開けても真っ暗な空間で、ドアのノックする音がハッキリと聞こえる。
「ドーファンさん、すみません。開けてくれませんか?」
バーラエナ氏の声だ。
俺は手元灯を点け、のっそり起き上がる。
ドアの向こうで、バーラエナ氏が手持ちランプを持って立っていた。
「お休みのところ申し訳ない。今農場に、エテルネル人女性が来ております。どうやら貴方を頼ってきたようです。会ってもらえませんか?」
俺は首を傾げる。真夜中にアストルムの田舎農場まで訪ねてくる女なんぞ想像もつかない。
とりあえず行くしかないと思い、氏の依頼に応じる。彼は俺に持参していたカーディガンを貸してくれた。
■■■■■
俺達はメインハウスのダイニングに入る。廊下までは暗かったが、ここは点けられる照明は全て最大出力で灯しているかのように明るかった。
バーラエナ氏とお揃いのガウンを羽織った夫人の丸い背中と、強張った表情を浮かべるアラウダの間に、バスタオルに包まった人物が座っている。
向かいの椅子に座ろうとした時、俺は声をあげた。
「君は……レグリス?!」
彼女は顔を上げ、俺を見た途端ブワッと泣き出した。夫人とアラウダが彼女の背中を擦り、優しく声をかける。
バーラエナ氏は、俺の前にカモミールティーを置いてから隣に座る。
「彼女はお知り合いで間違いないですか?」
「俺が所属していた冒険者パーティーのメンバーだ。一緒に活動したことはないが……」
「……慎重に接してください。メインハウスのドアを叩いて、彼女は助けを求めてきました。服がひどく乱れています……」
俺の意識はハッキリ目覚めた。彼女をもう一度よく見る。
全身が濡れており、髪はボサボサで黄色いマントには泥が飛び散っている。バスタオルの隙間から、たゆんとした2つの大きな脂肪の塊が見えた。
まさかウルスが……。
日中のレムーヴとの件で、八つ当たりしたのだろうか。あの男は妻子いる身になった後も、入ってくる若い女性パーティーメンバーに手を出し続けていた。彼女もとっくに手中に収まっていることだろう。それでも冒険の際中にキャンプ地でやらかす程愚かな男じゃなかったはずだ。
レグリスの呼吸が少し落ち着いてきた頃を見計らい、俺は声をかけた。
「東シルワの山は夕方から天気が荒れると聞いていたから。ここまで無事に来れて良かったよ」
「ごめんなさい。他に行く場所が浮かばなくて」
彼女はバスタオルで顔を拭きながら言った。
「良いんだ。ここはバーラエナ農場。
こちらのご夫妻が経営する農場だ。君の隣のお嬢さんは、夫妻の姪のアラウダ。皆さん、とても優しく信頼出来る方々だ」
根掘り葉掘り聞くより先に、彼女を安心させることが優先だ……と、周りのアストルム人3人が目で訴えてくる。
「ありがとうございます……。
私、どうしたら……。ユルティムズから逃げ出してきたんです。錬金術を発動してメンバーを攻撃しちゃって、慌てて飛んできたんです……。私、専門学校で魔法飛行機を作ったことがあるんで、一人乗り位なら作れるんです。雨風がキツくて、凄く飛びにくかったけど……」
早く要件を話せ、と言いたくなるのを何度もこらえて、俺は彼女のボソボソ音を聞き続ける。
「ユルティムズに戻れないですよね。あんなことしたら、でもどうやったら帰れば良いんだろう。ドーファンさん、ごめんなさい。迷惑ですよね……」
「大丈夫だよ。君は冒険中にユルティムズから逃げたことを問題に捉えているんだね。そういう時は現地ギルドに相談すれば良い。エテルネル語は通じるはずだ。何があったのか分からないが、ユルティムズと会わずに帰国するサポートをしてくれるよ。
冒険中にパーティー内でトラブルが起きて、途中でメンバーが脱退することはよくある。後でユルティムズに入り直したいと思ったり、慰謝料請求したりするなら、エテルネルに戻ってから、ギルドを通して面談の場を作れば良い」
俺は冒険者なら誰もが知る知識を教える。パニックに陥っている新人には気付けないことだろう。案の定、レグリスは灰色の瞳をこちらに見せるかのようにパッチリ目を開く。
これでとりあえず安心するだろうと思った矢先、再び彼女の唇が震え、ボトボトと涙をこぼし始めた。
「レグリス?」
「駄目です……! 今回はクエストじゃないんです!
ギルドを通していないんです!」
俺は、先日オブリガシオン新聞に、ユルティムズが海外クエストを受注出来なくなったと書かれていたことを思い出した。
「そういえば。新聞に載ってたね。
じゃあ、どうしてユルティムズは、観光者は入れないドラゴン生息地にいたんだ?」
「プロの冒険コーディネーターに依頼して、ドラゴン狩りの手配をしてもらいました……」
彼女の返答に、俺は一瞬言葉を失った。
■■■■■
レグリスは自分の手元にあったカップを手に取る。少し吐き出せたようで、幾ばくかスッキリした表情になっている。
「冒険コーディネーターって、デトロワリミテッドのことか?」
「はい。社長自ら手配してくださったんです」
レグリスの回答に俺だけではなく、アラウダと夫妻も驚いた反応を見せた。
「俺もエグマリーヌの手配でドラゴン生息地に向かう予定だったんだ。急にキャンセルになったけどな」
今度はレグリスが驚く。
「キャンセル?
でも、ドーファンさんも山にいたじゃないですか」
俺は混乱してきたので整理が必要と思った。
「ああ。エグマリーヌ手配がキャンセルになったから、別の方法で山に行ったんだ。
なぁ、レグリス。ユルティムズがアストルムに来た経緯と、君がバーラエナ農場に来た経緯を順番に教えてくれ。
俺達もこの冒険でトラブルが起きている。もしかしたら互いに関連することかもしれないんだ」
レグリスはギュッと口を閉じ頷いた。
夫人が「無理しないで……」と言うも、彼女は口を開き話し始めた。
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