満開の桜の下にはシタイが埋まっている
「今朝の電話を聞いてまさかと思ったけど、やっぱり来ちゃったか」
そう言って友人は俺の掘った穴を覗き込む。
「なんで今更掘っちゃうかな。いつか誰かが掘るかもとは思ったけど、お前だとは思わんかったわ」
「あらそう? 私は掘るなら彼だと思ってたわよ。小さい時から、気になったら即行動、の子だったから」
友人の言葉に先生がおっとりと笑う。場違いなくらい長閑に話す二人を横目に俺は手放してしまったスコップにそっと手を伸ばす。二対一とはいえ一人は女性、素手の友人よりスコップのある俺に分があるはず。
「おい。どうせなら埋め直す前に中身見る?」
「えっ?」
友人の言葉に俺は目を丸くした。一体何のつもりだ。って、その後に続いた先生の言葉に俺は耳を疑った。
「駄目よ。同窓会で開ける約束でしょ。タイムカプセルなんだから、ちゃんと埋めておきなさい」
「ですよねぇ。は~い」
呆れた顔の先生。暢気に返事をする友人。
その姿に俺はたっぷり三十秒は固まっていたと思う。
「はぁ? タイムカプセルだぁ?」
穏やかな春の昼下がり。三人しかいない校庭に俺の絶叫が木霊した。
「うるせぇよ。ほれ、さっさと埋め直すぞ」
「えっ、タイムカプセル? これが?」
わざとらしく耳をおさえた友人に俺は聞き返す。相当間抜けな顔をしていたのだろう。
「あら、何を埋めたか覚えてなかったの?」
「えっ、あっ……はい」
面白そうに笑う先生に俺は仕方なくうなずく。
「なんだそりゃ。俺もスコップ取ってくるわ」
そう言って友人が用具小屋へと向かっていく。その背中を見つめながら徐々に記憶が蘇ってくる。
「そうだ! 俺たち未来の自分への手紙をタイムカプセルに詰めて埋めたんだ。成人式のときに同窓会をやって開けようって」
「やっと思い出したのかよ。本当に人騒がせな奴だな」
スコップを片手に戻ってきた友人が笑いながら俺の掘った穴を埋めていく。
「ほれ、お前もさっさとやれよ」
「あっ、うん」
大人二人でやれば穴はあっという間に埋まった。かつての先生のようにスコップで地面をならす。地面を踏みしめながら俺は友人に尋ねた。
「お前、手紙に何書いたか覚えてる?」
「なんだっけ? 将来したいこととか、そんなの書いたんだよな。いやぁ、忘れたわ。お前は?」
「内緒」
「なんじゃそりゃ」
そう言いながら、俺はしっかりと思い出していた。
未来の自分に宛てた手紙。俺は、小説家になりたい、って書いたんだ。
『満開の桜の下には将来の夢が埋まっている』
ほっこりミステリーを目指して書いたのですが、どうだったでしょうか?
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