久し振りの帰省、背後に迫る陰
「なぁ、今日帰るわ」
「あら、急にどうしたの?」
友人との電話の後、俺は実家に電話した。出たのは母親で息子の突然の帰省に驚いていた。無理もない、今まで全くと言っていいほど実家に寄りつかなかったのに急に帰ると言ってきたのだから。
「なんだよ。帰ったらまずいのかよ」
でも俺の口からは不機嫌な声がもれた。頭ではわかっているのにさっきまでの友人の態度がちらついて、母親まで俺に何か隠しているのではないかと思えてくる。
「何言ってるの。まずいことなんて無いわよ。あっ、まさか彼女? 連れてくるの? えっ、やだ美容院いかなきゃ」
お門違いな母親の勘ぐりにフッと肩の力が抜ける。
「ちげぇよ。丁度、時間ができただけ。別に何もねぇから」
「なぁんだ、つまらない。お布団干しておくわね。気を付けて帰ってくるのよ」
口では残念だと言いながら、ちょっとホッとした声で答える母親に俺は苦笑しながら電話を切った。
実家に向かう電車の中、俺は今朝がたの夢を思い出していた。
年若い先生、彼女は確か六年生の時の担任だ。
そう、時期は卒業間近の春。場所は校庭の片隅にあるプールの裏手、普段はほとんど人がこない場所にある桜の木の下。
間違いない。俺たちは担任の先生に言われて、その桜の木の下にこっそり何かを埋めたのだ。
でも、何を? そこだけが記憶からすっぽりと抜け落ちていた。
駅に着き、まっすぐ小学校に向かう。春休みの学校に人影はなく、誰にも見とがめられることなく校庭の片隅、プールの裏手に辿り着く。
「あった……」
そこには見事な桜の木が一本、夢の中と同じように今が盛りとばかりに咲き誇っていた。
思わず根本を見つめるが、当然掘り起こした跡など残っていない。と、掘る道具を何も持ってこなかったことに今更気が付いた。
「確か用具小屋があったはず」
微かな記憶を頼りにプールの反対側に回ると果たしてそこに用具小屋があった。鍵もかかっていないそこからスコップを一つ拝借する。
「よしっ」
誰に聞かせるでもなく呟くと俺は桜の木の根元を掘り始めた。
カツンッ
掘り進めること数分、明らかに土とは違う手ごたえに俺は凍り付く。恐る恐る覗き込もうとしたその時。
「全く、君は悪い子だね」
バッ!
背後からの声に俺は慌てて振り返る。そこには記憶よりも少し年齢を重ねた先生が、夢の中と同じ薄っすらとした微笑みを湛えて静かに立っていた。
「あっ……」
突然のことに頭が回らない。早鐘のように打つ心臓の音、暑くもないはずなのに背中を冷たい汗がつたう。からからに乾いた喉からは掠れた息だけがもれた。
そんな俺をあざ笑うかのように先生がゆっくりと近づいてくる。
「あらら、間に合わなかったか」
先生の背後から更に別の誰かの声がする。声の主を確認した俺は自分の目を疑った。
「ごめんね。折角連絡くれたのに」
「仕方ないっすよ。さっさと片付けましょ」
そこには今朝電話した友人が立っていた。
次の話で完結です。
どんでん返しがあるので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。