9.私と姉(後編)
月明かりに照らされた私と姉の二人の間には長い沈黙だけがあった。
姉は、何を言うべきか考えてばかりでなかなか口から言葉を出せないでいる。
私の方は、溢れてくる涙を手の甲で拭ってばかりで言葉を発することができていなかった。
――そして、最初に長い沈黙を破ったのは姉の方であった・・・
「あのさ、楓・・・。もう充分、楓の気持ちは伝わってきたから。だから、泣かないで元気な可愛い顔を私に見せてちょうだい・・・」
「んぐっ・・・だっで、お姉ちゃん・・・さっぎ明らかに顔が引きつってたじゃん。どうせ、私のこと気持ち悪いって思ったでしょ?」
「・・・楓、そんなことはあり得ないわよ。だって、私達は姉妹じゃないの。お姉ちゃんってのは、妹の思いを受けとめてこそお姉ちゃんでしょ?」
「・・・だったら、私と付き合ってくれるの、お姉ちゃん?」
「それは・・・」
「ほら、即答できないじゃん。心のどっかで私のこと拒絶してるんでしょ?だったらそう、正直に言ってほしい・・・」
「そんな・・・すぐには答えられないわよ。私も楓の想いに対して真剣に向き合って悩みたいし。それから答えを出すのじゃダメかしら?」
姉が、私の想いに対して一生懸命に向き合って考えようとしてくれているということがひしひしと伝わってくる。
「・・・わかった、お姉ちゃん。だから、今は軽くでいいから私のことを抱きしめてくれる?」
「えぇ。楓の頼みだからね・・・」
そうして、私と姉は人通りの少ない道の真ん中で身体を寄せ合った。
姉との抱擁は、温かみが伝わってくるだけでなく、姉の汗混じりの髪のにおい等も感じることができた。
私にとっては、最高の時間でしかなかったのだ。
・・・・・・・・・・・・
「ねぇ、楓・・・今日は勇気を出して私に想いを伝えてくれてありがとね。私、いつになったら答えが伝えられるのか分からないけども気長に待ってくれたら嬉しいわ。それにその間は、楓との時間をできるだけ優先するからさ・・・」
「有りがと・・・お姉ちゃん」
私は、姉が私のために自分の時間を割いてくれようとしていること、私のことを考えようとしてくれていること、それら全てが嬉しかった。
そして、もしかしたら私の叶わないと思っていた『恋』がいつの日か成就するかもしれないと思うだけで勇気を出して告白してみてよかったと感じられた。
「ねぇ、楓・・・そろそろ家に帰らない?それで朝まで私の布団で眠りましょ・・・」
「うん、お姉ちゃん・・・」
私と姉の二人は手の指と指を絡めながら自宅へと戻っていく。少しずつだが、姉との関係が変わっていくように感じられた・・・。
最後まで読んでくださり有り難うございました。次話は、番外編のような本編の続きになります。ぜひに次回も宜しくお願いします・・・