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4.私の姉がいない一夜

今回は短めです・・・

 この日は、大学の講義が午前のみで終わった。

「あのさー・・・桃花ちゃん、もしよければで全然大丈夫なんだけど三限目の現代社会の資料の空欄、写させてもらえるかな?」

「私のやつでしょ・・・いいよ。楓ちゃん、その講義(コマ)のとき何度も前方にコクンコクン・・・ってしてたもんね」

「いやー・・・あのときは何を私達は聞かされてるんだって思っちゃって。そしたら瞼ともう片方の瞼がこんにちは・・・って感じにね」

「そうだったんだ。てっきり私は、もしかしてまたお姉さんのことでも考えすぎて寝不足気味になったのかなー・・・とかんなわけないよね・・・」

「全くもって桃花ちゃんのおっしゃる通りなの。今日は金曜日でしょ。今日の夜から明日の午後にかけて例の彼氏の家に泊まりに行くんだって。もちろんおばあちゃんには友人宅に泊まってくる、って言ってたけど。そしたらさ、なんか腹がたってきちゃってあれやこれや考えてたらまた、気づけば朝になるっていうね・・・」

「それは、それは・・・妹でありつつ片想いな楓ちゃんにとってはつらい一夜だもんね~・・・」

「そうなんだよ。それでなんだけど、もしよかったら桃花ちゃん、今晩泊まりに来たりしない?」

「えー・・・と、楓ちゃんの気持ちは嬉しいんだよ、けど私の何かが抑えられなくなりそうでさ・・・」

「具体的に言えばどういうことかな?」

「いや、やっぱり気にしないで。とにかく今日は泊まりに行けないや、ごめんよ。それと・・・これ資料一式だから来週の講義のときにでも返して・・・」

「うん、有りがと・・・」

 桃花ちゃんは私に現代社会の資料一式を渡すと私の言葉を最後まで聞くことなく小走りでいなくなってしまった。

 ――桃花ちゃんには、五日前の日曜日に吉淵駅近くのカフェにて私の最近の悩みであった姉に関する思いについて相談したのだが、その日以降、私のなかの姉に対する恋のような気持ちが強くなってきてしまっており、今日みたく寝不足気味で講義を受けたのは今週だけで二回もあった。

 明日は土曜日で大学の講義もないため、特にこれといって気をつけておかないといけない点はないが、きっと今日の夜は眠れずに姉のことばかり考えてしまうのだろう、と思った。


 大学から家に帰ってきた私は、玄関のドアを開き中へと入っていった。

「ただいまー・・・」

「お帰りー・・・楓ちゃん」

 私が元気よく言うと、居間の方から祖母の全てを包み込んでくれそうな声が聞こえてきた。

(お姉ちゃんは・・・?)

 私は靴箱及びその周辺をちらりと見たが、今朝家を出るときに履いていった靴はなく、本当に彼氏の家に泊まるのだ、と実感させられた。

「・・・楓ちゃん、今日のお昼は炒飯でいいかしら?炊飯器に中途半端な量のご飯が残ってるのよ。それに、桜輝ちゃんからは今さっきメールで『今日はお昼も友達と食べるからご飯とか要らないわ、おばあちゃん』って送られてきたの。だから、ね?」

「うん、そういうことなら仕方ないし、おばあちゃんが作ってくれる料理(もの)ならなんだってウェルカムだよ。私も手伝うからさ、その前に手だけ洗ってきちゃうね・・・」

「有り難う、楓ちゃん・・・」

 私は、祖母の感謝の言葉を全て聞き終える前に大学に持っていった荷物と共に洗面所へと向かう。

「何が友達よ、男じゃないの・・・。私がおばあちゃんにバラしてもいいんだから・・・けど、そんなことしたら間違いなくお姉ちゃんには嫌われちゃうんだろうな。そう思うと、このままでいることの方が幸せなのかな・・・?」

 私は、ブツブツと言いながら約三〇秒ほどの手洗いをしていた。

「あー・・・なんか嫌だな。想像したくもないのに、夜になったらあんなことやそんなことにいそしんでるお姉ちゃんの顔が浮かんでくる。お姉ちゃん、早く帰っといでよ・・・」

 私は両手で器の形をつくり、そこに溜まった水でパシャッ・・・と一回顔を洗い流した。

 ――それから少しして・・・

「おばあちゃん、荷物だけ部屋に置いてくるから待っててね・・・」

「あいよ。じゃあ、先に食材だけ用意しとくからね・・・」

 私は、祖母に一言だけ伝えると自分の部屋に荷物を置きにいった。その後は、私と祖母の二人で作った火加減の調度よいパラパラ炒飯をお腹いっぱいになるまで食べるのであった・・・。


 その日の晩のこと・・・

「おばあちゃん、出たよー・・・。気持ち好かったよ。あ、それと今日は『ミルク香る入浴剤』とかいうやつ入れといたから。だから、お肌がすべすべって感じだよ・・・」

「そう・・・。なら私も食器だけ洗い終わったら入るわね」 

「いいってば、そんなの。(あと)は私がやっておくから。ちゃんと節水して洗うし・・・」

 私がそのように伝えると祖母は、じゃあ頼んだわね、とだけ言って風呂場の方へと向かって行った。

「あー・・・まただ、私の脳みその半分以上が『姉』って単語に支配されてる。お姉ちゃん、どうしてるかなー・・・?」

 私はブツブツ言いながら祖母が風呂から出てくる前に残りの食器を洗い終えるようにするのだった。

 ――少し経ち、祖母が風呂から出てきた。祖母の頭にはタオルが巻かれており、家庭科の授業の際の三角巾のような見た目をしていた。

「楓ちゃん・・・お風呂、洗っといたわよ」

「有り難う、おばあちゃん・・・。腰とか痛めなかった?」

「まだ平気みたいね。もうそろそろしたらきつくなってくるのかもしれないけど・・・」

「そっか、それならよかった。でね、今からマッサージしてあげようかなって思うんだけど、どうする?」

「楓ちゃんのマッサージは気持ちが好いからねー・・・。ぜひ頼みたいわ」

「じゃあ、ソファーの上にでも横になって・・・」

「分かったわ・・・」

 祖母は、私の言ったようにある程度の弾力があるソファーの上に横たわった。

「・・・じゃあ、足裏のツボから押してくね・・・」

「いつもみたく弱めの力でお願いね・・・」

「はいはい、了解ですよ・・・っと」

 私は、日々の(ねぎら)いの気持ちも込めて約一時間ほどの長時間にわたるマッサージを行う。

「・・・楓ちゃん、そこよ。もう、少しだけ強くてもいいわよ・・・」

「これくらいでいい?それとも、もう少し強めの方がいいかな?」

 なんていうような私と祖母のツボに関する会話等がしばらく続くのだった・・・。


「おやすみなさい・・・」

「私もそろそろしたら自分の部屋に行くね・・・」

 マッサージも終わり、心なしか関節の動きが滑らかになったように思える祖母は、私に一言だけ残すと(ママ)(パパ)が以前に使っていた寝室の方へと消えていく。

 私も祖母に返事はしたが、とてもまだ眠れそうにない。それもこれも全部、姉のせいだ。

 誰かのせいにしてはならない、と幼い頃から言い聞かされて育ってきた私であるが、このときの私は誰かを悪者にでもしないと心の平穏が保てそうになかったのだ。

 ――そんなこんなで、この日の夜も眠れそうになる瞬間は一度や二度あったが、頭の中は考え事で溢れていたために結局、眠ることができなかった・・・。

最後までお読みいただき有り難うございました。次話では、妄想にアクシデント・・・がある予感。

次回も是非に宜しくお願いします・・・

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