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3.私の友人

今回は、少し長めです。休みやすみでも読んでみてください・・・

・・・・・・ふわぁ――。

 私は大きく口を(ひろ)げて欠伸(あくび)を一つした。

 結局、今の現在(いま)まで姉に言われたことについて考えてみたのだが答えになりそうなものは出てこなかった。

「・・・で、今って何時だっけ?」

 今にも上下の(まぶた)が出会ってしまいそうなくらいの眠気を感じつつ、私は布団とは少し離れた位置に設置された洋ダンスの上の平らな面に置いてある時計に視線を送る・・・

「へぇ~・・・午前六時か。まだそれくらいって言えばそうなんだけど、もう六時とも言えるのよ。」

(うー・・・ん、どうしたものか・・・?)

 私は頭を抱えて悩んでいた。

 今の時間から寝てしまえば私と姉と祖母の三人で摂る朝食には間に合わないだろうし、このまま寝ないで起き続けていればきっと朝食後に強烈な稲妻のごとく睡魔が襲ってくるだろう。

 もし、朝食後に眠ってしまえば逆流性食道炎のリスクが高くなるというだけでなく肥満(ふとる)要因になってしまいかねない。これらは、うら若き乙女にとって死活問題でしかないのだ。

 だから私は、これから寝るか寝ないかの二択、生きるか死ぬかのような究極の二択で迷っているのだ。

(こんなとき、お姉ちゃんだったらなんて言うのかな・・・?)

 まただ、私は姉のことを頭にすぐ思い浮かべてしまう。姉が私の憧れであるとはいえ、いくらなんでも姉のことを考えすぎな気がした。

 ――ガチャッ・・・という部屋のドアが開く音がした。

 こんな時間に誰よ、と思いながらも私は音のした方向を見た。

「あー・・・やっぱりか、楓。いつ起きたのかなんて野暮なことは聞こうとは思わないけど、もしかして昨日から一睡もできてないんじゃないの?」

 姉だ、音のした方向に立っていたのは私の姉だった。

「お姉ちゃん、どうして私の部屋に来たの?それとどうして私が寝てないことがわかったの?」

 姉が私の部屋に入ってきたことに対しては疑問でしかなかったが、同時に嬉しいとも感じた。

「えー・・・だって楓ってさー昔っから何か悩んだりすると答えが、自分の納得のいく答えが見つかるまで考え続けないと気がすまないじゃない・・・」

「うん、それでわざわざひやかしにでも来たの?」

 私は咄嗟(とっさ)に思いついた言葉を姉にぶつけてみたが、先ほど姉が言ったことは紛れもない事実だった。

 ――私は、ものごころついた頃からなんらかの疑問をみつけると自分の満足できる回答が発見されるまで、時間をどれほどかけたとしても考え続けていた。

 それが、食事のときであれ入浴中であれ勉強に取り組んでいるときであったとしても私の頭の片隅には疑問がいつも張り付いていて何かの作業と同時進行で考えていたのだ。

 そして毎度、考えることに脳の半分以上を費やしていたために、もう(かた)っぽの作業がおろそかになることすらあったのだ。

(そんなことを思い出してみると、中学の『技術』の授業のときなんて大変だったなー・・・)

 それはともかく、姉は私が一睡もできていないことに気がついていた。いや、部屋に来る前から知っていたのかどうかは不明だが、とにかく私の部屋にやって来たのだ。

 「まさかー・・・そんなことないわ。私は昨日ね、楓に対して難しい疑問を与えてしまったなと思って反省の意も込めて見に来てみただけよ。そしたら案の定、楓は起き続けていたっていうね・・・」

 姉の言う『疑問』とは昨日、姉の彼氏が帰った後の出来事のことだろう。たしかにそのことで私は現在まで考え込んでいたのだ。

「じゃあさー・・・お姉ちゃんに尋ねるけど、反省の意を込めて私の部屋に来たのよね?」

「えぇ、そうよ。けど、それがどうかしたのかしら?」

「・・・だったら、責任とってくれるよね!?私を寝かそうとしなかった疑問に代わってお姉ちゃんが」

 私は、どうしてこんなことを言ってしまったのかよく判らない。きっと、脳が疲れているがゆえの事故のようなものなのだろうが・・・。

「えぇ、勿論よ。そのつもりで来たといっても過言ではないもの。で、楓は私にどう責任をとってほしいのかしら?」

「えー・・・っと、少し待って。今、考えるから・・・」

 眉間にしわを寄せて必死に考え始めた私の様子をドア付近に立って眺めている姉は微笑している。

「ねぇ、まだかしら・・・?」

「まだ三〇秒も経ってないでしょ?もう少し待ってて・・・」

 私が発言するのを催促してくる姉のことをなんと表現すればいいのか判らなかったが、まさか本当に責任をとろうとしてくるとは思っていなかったため、私は姉に何をしてもらおうか頭から煙が出てくるくらいの気持ちで考えていた。

「・・・そろそろ、何すればいいのか教えてちょうだい?」

「だ・か・ら、もう少しだけ待ってってばー・・・」

 私は、少しばかり声を張って伝えた。

「そう・・・。だったら私が決めてもいいかしら?」

 姉は続けて・・・

「そうねー・・・朝食の時間まで私が楓の話し相手になってあげるわ。それでいいかしら?」

 姉の提案は、とても拒めるようなものではなく、私にとっては姉のことを独り占めにできるものであったため、それしかないと思い承諾した。

(けど、それだと結局は姉にとってもご褒美みたいなものなんじゃないか・・・?)

 そんなことを思いつつも、私と姉の二人は祖母が朝食を用意し終えて部屋に呼びに来てくれるまでの間、他愛もない会話で盛り上がったのだった。


 朝食後。私は、カラになった三人分の食器を重ねて台所(キッチン)の洗い場へと持っていった。

(それにしても、やっぱり祖母の料理は味付けが雑でなくて、ほっぺたが(とろ)けてしまいそうなくらいの味である)

 私は、思い出しただけで溢れ出てきそうになっている唾液を感じつつカラになった食器に水道の蛇口をひねり流水をかけていく。

 先ほど、唾液が思わず口いっぱいに広がりそうになったのは、それほど祖母の料理が私にとって特別なものなのだろう。

 それも、そうだ。私の(ママ)の料理だってもとは、祖母から教わったものだって私が小学校低学年のときに知ったじゃないか。

「久しぶりに母の手料理も食べたいな・・・」

 そんなことを思わず私は口に出していた。そしてそのことを私の横で耳にしてしまった祖母であった。

「あのー・・・楓ちゃん。やっぱり私の作る料理だけじゃ流石に嫌になってきた?それとも飽きてきちゃった?」

「そんなことあるわけないじゃん。だって、おばあちゃんのご飯は美味しいもの。ただ・・・」

「ただ、どうしたの?」

「ただね、久しぶりに母の料理も食べたいなー・・・なんて思っちゃって。それだけのことなんだよ。だからさ、おばあちゃんが気に病むことないからね・・・」

「そう・・・。なら今晩は私が腕によりをかけて最高の夕飯(ディナー)を用意するから楽しみに待ってね・・・」

「有り難う、おばあちゃん・・・」

「いいのよ、だって楓ちゃんは両親と中学生になる前に離ればなれになっちゃって、それ以来お父さんもお母さんも仕事の都合とかでなかなか日本に戻ってこれてないんだから。けどきっと、海外(あっち)にいる二人だって娘二人に会えないのは寂しいと思うわよ、きっとそうだから・・・。後の片付けは私がやっておくから楓ちゃんは向こうで桜輝ちゃんとゆっくりしてなさいな・・・」

 まるで私のことを包み込んでくれる湯船のように広くて温かい心が祖母からひしひしと伝わってきた。

「・・・じゃあ、お言葉に甘えてあっちでくつろいでくるからね♪」

 私は、軽やかな足どりでその場を後にした。

・・・・・・・・・・・・

「お姉ちゃん、あのさー・・・」

「どうしたの、楓?」

 食後の読書時間(タイム)にひたる姉がソファーの上で足を組みながら私に聞いてきた。

「どうでもいいことなのかもしれないんだけどさ、お姉ちゃんは今朝、何時ごろに起きたのかなー・・・って・・・」

「私も楓みたく一睡もできてないわよ。だから安心してって言うのも変だけど・・・」

「え?お姉ちゃんも何か考えごとでもしてたの?」

「まぁ、ある意味ではそうね。大学三年生にもなると後期からの研究室だって考えておかなきゃならないし。各科目の宿題(レポート)だって書かなきゃだし・・・大変なのよ」

「で、今は全部やり終えたから読書をしてるって感じなの?」

「それはねー・・・違うのよ。まだ半分も終わってないのよ。まぁ、楓も二年生に進級できたら徐々に大変になってくると思うから、そのときにでも私の気持ちが理解できるわ、きっとね・・・」

(あー・・・姉のしているこれは、現実逃避というやつではないのか?)

 もしそうでなかったにしても姉にもこういった一面がある、と知ることができたため好かった。

「で、今度は私から楓に聞くんだけれど・・・」

「え、何?お姉ちゃん・・・」

「楓、少しずつ眠たくなってきたんじゃないかしら?」

「まだ大丈夫だけど。それならお姉ちゃんこそ眠たくないの?徹夜明けで・・・」

「まぁ、私ほどにもなれば眠気なんて気にもならないわ。とりあえず私の隣にでも座ったら?」

 そう言うと姉は、必死に欠伸をしないように我慢しているそぶりを見せた。

 やっぱり姉も眠くなるよなー・・・なんてことを思いながらも言わないことにした。

「しょうがないなー・・・。今回だけだよ・・・」

 私は姉に言われたことが嬉しくてたまらなかった。そして、私は姉の隣に腰を下ろした。

「まったく、楓ったら可愛らしいわね・・・」

「え?今、お姉ちゃん何か言ったでしょ?楓は小さいとか幼いとか・・・?」

「お姉ちゃん、そんなことは言ってませんけど。楓は何か自覚してるってことかな?」

「あ~・・・そうやってすぐごまかす。お姉ちゃんって昔っからそういうとこあるよね・・・」

「そうだったかしら?ともかく、少しはゆっくりしましょ・・・」

「うん・・・」

 私は、ソファーに腰を下ろしてからほどなくすると猛烈な眠気に襲われ、何かを話す気力さえなくなってしまった。それに加え、隣で本を読む姉は私の肩まで届かない程度の長さの髪の毛を本を持っていない方の手でやさしく撫でてくる。

 姉の手ざわり?は、とても心地がよく私が夢の世界へと旅立つのを早めてしまったのだ・・・

「お姉ちゃーん・・・もう食べられないよ。口の中がお姉ちゃんのくれたチョコの味でいっぱいだよ」

(うふふ・・・楓ったら私がバレンタインデーにあげたチョコの夢でも見てるのかしら?)

「ともかく私はレポートの続きをやりに部屋に行ってるからね。楓、起きたらまた元気な声を聞かせてね・・・」

 そう言うと私は、楓のすべすべで柔らかなほっぺたに軽く口づけをして部屋の中へと消えていった。そのときのことは、楓に伝えるつもりもないのだから、この先知られてしまうこともないだろう・・・。


「楓ちゃん、いつまでそんなところで寝ているの?そろそろ起きなさい・・・」

 祖母の声だ、

「ん?おばあちゃん、もうすぐで起きるから待ってて・・・」

「待っててじゃなくて、もう昼食も三人分できてるのよ。桜輝ちゃんだって机の前でお行儀よく待ってるの。だから起きなさい・・・」

「どう、おばあちゃん?楓、起きそう?」

「うーん、なかなか手ごわいわ。そうだ桜輝ちゃん、前回同様の起こし方にしましょ・・・!」

「いいわね。じゃあ、やってみましょうよ・・・」

 そんなわけで、姉と祖母の二人は食卓の上に並べられた食事の盛られた皿を片手に持ち、ソファーで気持ちよさそうに目を閉じている楓の顔の前へと近づけていく。

「・・・」

 楓からの反応はまだない。

「もう少し近づけてみましょう・・・」

「そうね、桜輝ちゃん・・・」

「・・・こ、この匂いは、焼きそば?そうだ、焼きそばだ・・・」

 楓は、鼻先と焼きそばの盛られた皿が約二〇センチメートル圏内に入ってくると、そんなことを言って目を大きく開いたのだ。

(ほらね・・・)

(やっぱり成功したわね、桜輝ちゃん・・・)

 姉と祖母の二人は、そんなことを思いながら互いに目と目の動きだけで会話を成立させていた。

「お姉ちゃんに、おばあちゃんも二人とも顔を見合わせてどうしたの?」

 ただ一人、何が目の前で行われているのか状況が判っていない楓は不思議そうな表情で姉と祖母の手に持たれた焼きそばの盛られた皿を見つめていた・・・。

「とにかく、冷め始めたからさっさと食べるわよ」

「そうよ、楓ちゃん。桜輝ちゃんの言う通りで焼きそばは冷めてしまってからじゃ味が半減しちゃうのよ・・・」

「それは、おばあちゃん個人の見解ってことでいいのかしら?」

 わずかに小首を傾げて聞いてくる姉に対して祖母は(まばた)きを一回して返事するのだった。

・・・・・・・・・・・・

「やっぱり私、焼きそば大好き・・・」

 席に座った私は、氷の入ったコップに注がれたお茶を一度口に含むとそう言ったのだ。

 そんな私のことを姉と祖母の二人は、ほほえましそうに眺めているのだった・・・。


 昼食後。すっかり眠気とは、おさらばしていることに気がつくと私は、何かすることないかなー・・・という気持ちで自分の部屋へと入っていった。

 そして、携帯に一通の新着メッセージが届いていることに気がついた。

「え~っと・・・『日曜でくつろいでいるかとは思いますが、もしよろしければこれから会えますか?楓ちゃんに見てほしいところがあるので・・・』。桃花(ももか)ちゃんからだ・・・」

 メッセージの送り主は私と同じく大学一年生の桃花ちゃんだった。私に何を見てほしいのかは判らないが、とりあえず『どこに行けばいいかな?』とだけ返信した。

 すると、ものの数分で桃花ちゃんからメッセージが送られてきたのだ。

「早いな・・・。流石は元コンピュータ部の部長だっただけのことあるな。で、と・・・そういうことね。『なら、三〇分後に吉淵駅で待ち合わせにしよう』と・・・」

 私は、桃花ちゃんから送られてきたメッセージを読むと、そのように送り返した。

 先ほど送られてきた内容と今回送られてきた文章をくっつけてみると、桃花ちゃんは明日までに提出しなければならないレポートをまだ終えていないらしく、問いの中で判らないところがあったから私に聞いてきたようなのだ。

(桃花ちゃんの頼みだし断りたくないなー・・・)

 という気持ちで今回の頼みを引き受けることにしたのだった。

 それから少しして・・・

「・・・おばあちゃん、これから桃花ちゃんと会ってくる。夕飯までには帰ってくるから。それと、お姉ちゃんに私のことで何か聞かれたら勉強に出かけた、とでも伝えといて・・・」

「あ~・・・あの、桃花ちゃんよね?」

「そう、あの桃花ちゃんだよ。高校のときから一緒だった仲のいい子」

「何回か(うち)にも連れてきてくれた子よね?」

「そうだってばー・・・。だから、行ってくるね・・・」

「じゃあ、気をつけてね・・・」

 私は、背中に中くらいの大きさのリュックを背負って祖母に見送られながら玄関を出て行った。

 その後、最寄りの駅から電車で二〇分ほど揺られて桃花ちゃんとの待ち合わせ場所である吉淵駅に到着した。


・・・・・・駅の改札を通り過ぎて出口から外に出ると、そこでは小洒落(こじゃれ)た衣服を身に纏った桃花ちゃんが待ってくれていた。

「桃花ちゃんお待たせ。もしかして私のことで待たせちゃった?」

「ん~ん・・・私もさっき着いたばっかだから楓ちゃんのこと待ってないよ。それに、私は楓ちゃんのことなら信じて待ち続けるからね・・・」

(それは、まるで飼い主さんのことを駅を出たあたりでずーっと待ち続けた某イッヌみたいではないか。あれは私もかなり泣いてしまった・・・)

 とか、そういったことは言わずに一言だけ伝えることにした。

「桃花ちゃん、今日のその格好素敵だね。よく似合ってるよ。大学でも今日みたいな服装で来ればいいのに・・・」

 私が思ったことをそのまま伝えると桃花ちゃんは、マシュマロほどではないが美白の顔の頬を少し赤らめた。その様子は、雪がしんしんと降り続ける中で一カ所だけ早めの春が訪れたようにも感じられた。

「・・・楓ちゃん、有り難う・・・私のこと褒めてくれて。でも、私は今日みたいな格好、大学ではとてもじゃないけどできないよ。なんか恥ずかしいじゃない。それに、楓ちゃんだけに見せたかったというか・・・」

「私だけにっても、その他大勢の人達が今だってあちこちにいるじゃん・・・」

「えー・・・っとね、そのまんまの意味じゃなくて・・・」

「そのまんまの意味じゃなくて・・・?」

「やっぱりなんでもないわよ。とにかくそこにあるカフェに入って勉強教えてよ・・・」

「うん、わかった・・・」

 私は、桃花ちゃんになんだか話をはぐらかされたような気もしたが、気にしないことにしておいた。

・・・・・・・・・・・・

「えーっと、ここの問題はモル濃度を使って・・・」

「そういうことだったんだね。だったら後は私一人でも解けると思うから何か頼まない?」

「じゃあ、私は・・・カフェオレで。桃花ちゃんは?」

「私はー・・・ウインナーコーヒーとかいうやつで」

「そっか。なら、私が注文しちゃっていいかな?二人のぶん・・・」

「助かるよー・・・楓ちゃん。有り難う・・・」

 吉淵駅のすぐ近くにあるカフェに入った私と桃花ちゃんの二人は店員さんに案内された席に座ると、桃花ちゃんの化学の課題をとりあえず終わらせてコーヒーを二つ注文することにしたのだった。

 ――それから、注文したコーヒーがテーブルに運ばれてくるまでの間、私と桃花ちゃんは何気ない日常的な会話を楽しむと、コーヒーが到着してからも会話を楽しんでいた・・・

「・・・でね、私がお父さんに電子レンジで殻つきの生卵を温めちゃダメだ・・・って言ったらね、お父さんなんて言ったと思う?」

「えー・・・と、ゆで卵を作ろうとしてた、とかかな?」

「そう、全くもってその通りなんだよ楓ちゃん。お父さんね、私がまだ幼かった頃にねフライパンで目玉焼きを作ろうとしたらしいんだけど、そのときも目玉焼きを真っ黒こげにしたらしくてさ、食べちゃダメな目玉焼きになっちゃったんだって・・・」

「そうなんだ。それは、凄いのかわからないけど見てる方は驚きでしかないよね・・・」

「そうなんだよ、楓ちゃん・・・?楓ちゃんさー・・・この土日で何か嫌なことでもあった?」

「急にどうしたの、桃花ちゃん・・・?」

「私と駅で会ったときから楓ちゃん、どこか影がかかってるみたいでさ。何か辛いことでもあったのかなー・・・って、もし違ってて私のただの勘違いだったらいいんだけど・・・」

「・・・(じつ)は、そうなんだよ。もしよければ聞いてくれるかな、桃花ちゃん・・・?」

「いいよ、楓ちゃん。私だって今日だけで色んなこと聞いてもらったし。話して少しでも気が楽になるのなら話してよ・・・」

「有りがと・・・桃花ちゃん・・・・・・」

 そんなこんなで私は、土曜日に憧れている姉が冴えないチャラ男な彼氏を家に連れてきて嫌だったこと、姉の私には見せてくれないような一面を知りたくなかったこと等について打ち明けたのだった。

「そっかー・・・。それはきっと『恋』ってやつのせいだよ。楓ちゃんは、お姉さんに対して憧れだけじゃなくて恋もしてるんだよ・・・」

「えっ・・・?だって、私とお姉ちゃんは二人とも女性で血縁関係にあるんだよ!?そんな気持ちおかしくないかな?」

「恋ってのはね、自分の心ではなかなか気づけないし、認めたくないものだったりするの。それに、好きになるのに性別なんて関係ないじゃん・・・」

「そうなのかもしれないね。なんだか気持ちが少しだけ楽になった気がするよ・・・」

「それならよかったよ・・・」

 ――その後、私と桃花ちゃんは会計を済ませカフェを後にした・・・

「じゃあ、また明日の講義でね・・・」

「うん、バイバイ・・・桃花ちゃん」

 私達は、互いに手を振りあって帰路につくのだった・・・


「・・・それにしても『恋』か。思ってもみなかったな・・・私がお姉ちゃんに恋してるなんてこと」

 揺れる電車のつり革につかまりながら、私はそんな言葉をポツリと呟いていた・・・。

最後までお読みいただき有り難うございました。ここからほんの少しずつ物語が動き出していきます。ぜひ、読んでくださればと思います。また、次話が投稿された際には宜しくお願いします・・・

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