最終話.私と姉だけの秘蜜(後編)
本当に、今まで短い期間ではありましたが有り難うございました。皆々様に最大級の感謝をさせてください。
「本当に有り難うございました・・・」
姉とショッピングモールに訪れた晩のこと。
「お姉ちゃんとのお買い物、楽しかったなー・・・って、私は何も買ってないけどー」
そんなことを呟きながら私は、姉の部屋のベッドの上にいた。
その後、私は姉が部屋に戻ってきてしまう前に姉の普段使っている枕に顔をうずめてみた。それは、なんとも言えない快感があり最高そのもの。
・・・私は、姉の枕にギュッ――と顔をうずめると、姉のにおいと柔軟剤の混じりあった香りが鼻の奥の方へと流れ込んでくるのを感じた。
それからすぐのこと、今度は姉の香りだけを包み込んだカプセルのようなものが一気にはじけ飛んだような感覚に襲われた。そのため、私の脳内には『姉』という一文字だけが溢れかえることとなった。
「んはぁ~・・・お姉ちゃーん・・・」
私は、これまでよりも顔を力強く姉の枕にうずめると、『お姉ちゃーん・・・』と叫ぼうとしてみたが、それは言葉にならない別の何かになってしまったのである。
それから、私は呼吸が苦しくなるまで姉の枕を堪能させてもらうことにしたのだ。
――そして、私が姉の枕を満足のいくまで堪能したのち、上唇を少しだけ引き上げフレーメンのような格好をしてボー・・・っとしていると、姉の部屋のドアが、ガチャリと開いた。
「・・・楓、いるんでしょ?私なら準備できてるわよ・・・」
姉の声だった。姉は風呂から出てきたのである。
「お姉ちゃん、私もいつでもいいよ・・・」
そう言って私は、姉の声がしたドアの方へと視線を向ける。
「お、お姉ちゃん?!なんでほぼ裸のまま出てきたの?」
私の視線の先には、お湯で濡れた天然の綺麗な茶色の髪の毛を後ろで一つに結い、上下に肌着だけを纏った姉の姿があったのだ。
「えっ・・・?だって楓、準備できてるんでしょ?今、そう言ったわよね・・・」
「たしかに準備ができてるとは言ったけど、それにもαがあってΩがあるでしょ?」
「え・・・っと、どういうことかしら?」
「だからさ、物事には順序ってものがあるでしょ?お姉ちゃんには順序なんてもの必要ないのかもしれないけど・・・」
「分かったわよ。一度、脱衣所の方に戻って着替えてから来るわよ・・・」
そう言うと姉は、部屋のドアを静かに閉めて服を着替えに向かった。
「・・・ったくもー・・・お姉ちゃんったら、いきなり最終段階からやろうとするなんて大胆すぎるんだから。こっちは、気持ちの準備とか色々あるからって前にも言ったはずなんだけどな・・・」
そんなことを呟く私の頬は、紅潮していたのだろう。きっと・・・。
――それからほどなくして姉が再び部屋に入ってきた。
「ねぇ、楓・・・これでいいんでしょ?私は、いきなり本番でもよかったのよ?けど、楓は最初からじゃないと嫌なんでしょ?」
「うん。私は、お姉ちゃんとゆっくりじっくりやるのがいいの、ごめんね。けど、前にも言ったはずだよ?」
「たしかに聞いた記憶があるわ。それより私の方こそ悪いことしたわね。一日も間隔が空いてたからつい、ね・・・」
「『ついね』って、一日だけなんだよ!?お姉ちゃんにとっては長く感じられたのかもしれないけど、私にとっては『たった一日』だよ・・・」
「そうね。とにかく、始めるわよ・・・」
「う、うん。おいで、お姉ちゃん・・・」
私が、姉のことを手招きすると姉は私の隣りの空間に入ってきた。そして、
「・・・と、その前に楓、これあげるわ♪」
と、言った姉が私に小さなリボンのついた箱をくれた。
「え・・・っと、お姉ちゃん、この箱ってなに?」
箱の中身が判らなかった私が隣にいる姉に尋ねると、
「少し早いけど、楓の誕生日プレゼントよ。楓が欲しがってたから・・・」
そう、よく判らないことを言われた。
「お姉ちゃん、開封してみてもいいかな?」
「えぇ、もちろんよ」
姉に開封する許可をもらった私は、受け取った箱を徐々に開けていく。すると、箱の中から出てきたのは昼間、ショッピングモール内にある宝飾店で見かけたあの、私が『いいな・・・』と思っていた四葉のクローバーを模したチャームがついている銀のネックレスだった。
「・・・え、お姉ちゃん?これって、私があのとき言ったやつだよね?」
「そうよ・・・」
「けど、これって私に参考までに聞いただけのものだったんじゃないの?」
「どうして、そう思ったの楓?」
「・・・だって、まさか私にくれるとは思わなかったもの。そう思うのが普通なんじゃないの?」
「じゃあ、逆に聞くけど楓にとっての普通って何かしら?私にとっての普通は楓に何かあげたいと思うし、楓とずっと一緒にいたいってことよ・・・」
「・・・私も、お姉ちゃんとは末永く一緒にいたいよ。けど、それとこれとは別なんじゃないのかな?」
「いいから、つけてみなさいよ・・・」
「わかった・・・」
私は、姉に対してそれ以上のことは言えず、言われたように首につけてみたのである。
「うん、よく似合ってるじゃないの、楓・・・」
「そう、かな・・・?似合ってる、か。嬉しい・・・」
そのとき、私の唇に温もりのある私以外の唇がやさしく触れた。
「・・・んっ?!ん~・・・ちゃん?」
「いいからじっとしててよね・・・」
私は、まともに言葉を発することができなくなっていた。そして、姉には逆らえないという恥辱だけでなく、気持ちよさに襲われていたのである。
「・・・楓、生まれてきてくれてありがとね・・・」
「ぷはっ・・・だから、あと、二日後・・・んー・・・」
姉の自由自在に動く舌から脱出できたかと思えば、それは束の間の出来事で、私は段々とそんな心地よさのとりこになっていた。
・・・・・・
「・・・楓、可愛いわね。もうそろそろいいかしら?」
「えっ?今のは、もう終わりなの?」
「そのつもりだったのだけど、何か不満でもあったかしら?」
そんな姉の言葉を聞いた私は、とっさになんとしてでもやり返したい、と思ってしまった。
そして・・・私は、ハム・・・っと姉の耳たぶに甘噛みした。
「ふぁっ・・・?!えっ・・・楓?あなたからくるなんて珍しいこともあるのね」
「私だって、たまには、ね?」
そんな私の何気ない一言が姉に本気のスイッチを入れてしまったようであった。
「ねぇ、楓・・・私のこと呼んでみて・・・」
「えっ・・・お姉ちゃん?」
「そうじゃなくて、下の名前でよ・・・」
「さ、さ・・・桜輝さん、でいいのかな?」
「そうよ、楓。だからもう一度だけ呼んでみてくれるかしら?」
「さ、桜輝さん・・・」
「もっとよ、楓。まだ足りないわ」
「えっ・・・?!だったら、桜輝さん、私は桜輝さんのことが大好きですぅー・・・・・・」
「楓、私もあなたのことがだい、だい、大好きよ・・・ってことで、本番にいきましょうか?」
「まったくもー・・・しょうがないなー・・・お姉ちゃん」
「そんなこと言ってるけど、楓もまんざらじゃなさそうよ。特に、下の口とか・・・」
「お、お姉ちゃん?!なんでそんなこと言うの?意識しちゃうというか恥ずかしいでしょ!(お姉ちゃんの馬鹿・・・)」
「最後、なんて言ったのかしら?」
「いや、なんでもないから・・・」
「それなら、もう、いいわよね?」
姉のそんな問いかけに対して私は小さく頷いた・・・。
翌朝。窓の外では小鳥達が囀っている。朝だぞー・・・なんてことを言っているのかは判らないが。
「うっ・・・お姉ちゃん、起きてる?」
「・・・・・・」
姉からの返事はなかった。どうやらまだ昨晩のこともあってか熟睡しているようである。
そのとき、ふと私は思ったのだ。
(昨晩、家には祖母がいなくてよかった・・・)
と。なぜそう思ったのか、だって?それは、昨日のは、いつものよりも激しく祖母が別の部屋で寝ていたとしても起きてしまう未来しかみえなかったからだ。そのため、祖母が旧き友人ら何人かと以前とは違う温泉に四泊五日で行ってくれていることには感謝するしかなかった。
私と姉の現在に至るまでの経緯がどうであれ、私は、こうして姉と結ばれている。
もし仮に私と姉の関係を誰かに知られてしまったら、どう思われてしまうかなんて、そんなことは容易に想像することができてしまう。とはいえ、私と姉の関係は秘密であるためどちらかが言ってしまわない限りは知られることもないだろう。
それに、私は姉との関係を二人だけの秘密として大切にしておきたいと思っている。
言い換えるとするならば、私は、『私と姉だけの秘蜜』を誰にも邪魔されることのないように未来永劫、守り続けていきたい・・・・・・。
最終話まで通して読んでくださった皆様も、そうでない皆様も、今まで有り難うございました。まだまだ未熟な文章表現能力ではあったと思いますが、読んでくださった皆様には『感謝』の言葉しかありません。また、いつか何かの作品で再会できたら(図々しいですけど・・・)嬉しいなと思います。
本当に有り難うございました。皆様の今日が、明日が普段よりも少しでも充実した日になればいいな、と思っています・・・・・・。




