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13.私と夏祭り(中編)

中編です。

 寂びれた神社に隣接する公園にて私と姉は無事に桃花ちゃんと合流することができた。

 私達のことを待ってくれていた桃花ちゃんは和金や出目金の模様がプリントされた浴衣を身に纏っていて、下駄ではなく草履みたいなものを履いていた。

 それはともかく、こうして夏祭りに行くメンバーが揃ったのである。

「・・・桃花ちゃん、今日は宜しくね」

「うん、こちらこそ宜しく。それで、えー・・・と、そちらの綺麗な女性が楓ちゃんのお姉さんだよね?」

「そう、だよ。桃花ちゃん、前に私のお姉ちゃんに会ったことあったよね・・・」

「あるはずだよ、私の記憶違いでなければ。たしかさ、あのときだよね。私と楓ちゃんが高校一年のときの文化祭に来てくれてた」

「そうそう。あの時は、お姉ちゃんが自前のデジカメを床に落下させて液晶画面を割ったんだよ」

「言われてみればそんなこともあったかも・・・」

 私と桃花ちゃんが懐かしい話しに花を咲かせていると、それを隣で眺めていた姉が口を少しとがらせて不満気で何か言いたげだった。

「えー・・・と、お姉ちゃん?どうかしたの?」

「いえ、なんでもないわ。ただね、楓と桃花ちゃんがこんなに仲よかったんだなー・・・って感じてただけよ。本当にそれだけだからね」

「そっか。それならいいんだけど、てっきり私と桃花ちゃんの会話が不快だったのかと思って」

 私が姉にそんなことを言うと、姉は一つ溜め息を吐いてから桃花ちゃんの方を向いて・・・

「桃花ちゃんだったかしら・・・」

「はい、そうですけど。楓ちゃんのお姉さん、どうかしましたか?もしかしてあれですか、もうそろそろ夏祭り会場の方へと行かないと出店とか回る時間が無くなるかもしれないから早く出発すべきなんじゃないか・・・ってことですか?」

「そうよ、そういうこと。だからね、もうこの公園を出発しましょ・・・」

 姉は、桃花ちゃんに何か言おうとしていたらしいが、桃花ちゃんの言葉を聞いて肯定していた。

 まぁ、姉が桃花ちゃんに何を言おうとしていたのかは想像に任せるが・・・。

・・・・・・それから少しして、私と姉と桃花ちゃんの三人は公園から夏祭りが行われている会場となる場所へと向かって歩き出すのだった。


 夏祭りの会場へと続く石の階段の一段目まで来ていることに気がついた。他愛もない会話をしているうちに私と姉と桃花ちゃんの三人は到着していたのだ。

 そして、私達の周囲には多くの子どもや大人たちの姿があった。

 キャッキャ・・・とはしゃいでいる甚平さんを身に纏った男児、流行(はやり)もののキャラクターの模様がプリントされた浴衣を身に纏い親の背中を静かに追いかける女児などもいた。

(私にもこんな昔があったなー・・・懐かしく思えるな~・・・)

 そんなことを女児を見ていた私は思った。

 それから、階段を上る前に私は一度足を止めて姉と桃花ちゃんの顔をちらりと見て、

「今日は来てくれて有りがと・・・」

 二人には僅かに聞きとれるくらいの小さな声でポツリと呟いてみた。

「・・・え、楓、今なにか言ったかしら?」

「どうかした、楓ちゃん・・・?」

 私が何気なく呟いただけのつもりだった言葉に反応を示してくれた姉と桃花ちゃん、その二人に対し、

「いや、やっぱりなんでもない。だからさ、会場に行こっか・・・」

 なんというか、私の言葉に対して反応を示してもらえたのは嬉しかったが、私は照れの気持ちから二人に夏祭り会場へと早く行こう、というような催促をしたのだった。

「・・・そうね。じゃあ行きましょうか、楓に桃花ちゃん」

「そうですね、楓ちゃんのお姉さん・・・と、楓ちゃん」

 私の姉と桃花ちゃんは互いの顔を見合わせると、そんな言葉を呟いたのち歩き出した。その後、私も二人に措いてかれてしまわぬように歩き出した。

・・・・・・

 石の階段を上り始めた私を含めた三人だったが、もう少し歩き続ければ終わり(ゴール)が見えてきそうなくらいのところまでやって来ていた。

 石段の一つひとつの表面は、ザラついていてどの段も高さが均一ではなかった。そんなこともあってか、全部で約四〇〇前後の段差がしんどく感じられた。

「・・・楓ちゃん、結構きついね」

「ほんとそうだよね、桃花ちゃん・・・」

「楓、まだ歩けるかしら?もし無理そうなら私がおぶってあげてもいいけど・・・」

 私と桃花ちゃんが段差の多いことを嘆いていると、少し前を歩く姉がそんなことを言ってきた。

「んな!?お姉ちゃん、それは無理だって。だから、別におぶろうとしなくていいから」

 私がそう伝えると、

「そう・・・。私は楓のことだったらおぶれる自信しかないから無理じゃないのよ。だって楓、体重が・・・(ピー)キログラムしかないじゃない」

「いっ・・・いきなり人の体重をばらさないでよ。そ、れに、無理ってのは私のり・・・いいえ、なんでもなくはないけど、とにかくそこまでしようとしなくていいから。わかった、お姉ちゃん?」

 姉には、なぜか私の最近の体重が知られていたうえに暴露されてしまった。恥ずかしさのあまりに私は、つい早口で姉にそんなことを伝えていた。

「まぁ、だいたいのことは理解したわ。じゃあ、もう少し頑張れば一番上に着くし先に行ってるわね」

 そう言うと、姉は私と桃花ちゃんをその場に残し、一人先に歩いていってしまった。

 それからほどなくして、

「楓ちゃん・・・」

「ん?なに、桃花ちゃん?」

「いやね、なんか楓ちゃんとお姉さんの二人を見てるとね、思うんだ。本当に相性のいい恋仲(カップル)だなって・・・」

 桃花ちゃんは、私と姉の二人の関係が恋仲だと思っているようだがまだ、そうではない。

「ちょっ・・・桃花ちゃん、そういうことを公衆の面前で言わないで恥ずかしいから。それに、まだ私達恋仲ではないからね。言ってなかったっけ?」

 私がそう伝えると、

「あっ・・・そうだったんだ、ごめん。勘違いしてたというか知らなかったよ。あ、そうだ・・・後で綿菓子でもおごってあげるから許してくれる?」

 綿菓子をおごってくれるとのことだったので私は、

「そんな、悪いって。わざわざおごってくれなくても・・・。でも、せっかくだから頼んじゃおうかな」

 申し訳ないとは思いつつも、桃花ちゃんには綿菓子を後でおごってもらうことにした。それと、桃花ちゃんには謝罪してもらったが私はそんなに怒っていないというか怒る気にもなれないでいた。

 ――私と桃花ちゃんがそんな会話をしていると、一人でせっせこと石の階段を上って行ってしまった姉が私と桃花ちゃんに対して、

「おーい・・・二人とも早く上ってきなさいな。早く来ないと私一人で夏祭り満喫しちゃうわよ・・・」

 どんな表情(かお)をして言ってきたのかは、よく判らなかったが私と桃花ちゃんは互いに顔を見合って一度こくりと頷いた。

 それと、姉なりには周囲の人達へ配慮した声量だったのだろうが、かなり響いているように思えた。

・・・その後、

「桃花ちゃん、私のお姉ちゃんが待つのにくたびれたのか知らないけど、最後の力を振り絞って少しだけ早歩きで行こっか・・・」

「うん、楓ちゃん・・・」

 私は、桃花ちゃんの左手にやさしく指を絡めて姉の待つ最上段へと向けて歩き出す。

 また、桃花ちゃんにとって、このとき私が桃花ちゃんに触れたことが恥ずかしかったのか、僅かに手の表面温度が上昇するのが判った。


 石の階段を上り終えた私と桃花ちゃん、先に上り終えていた姉の三人は夏祭りの会場へと歩いていく。 

 もう、夏祭りの行われている会場に近くなってきたためか笛や太鼓の録音された愉快な音色が聞こえてきている。

 ――やがて、私と姉と桃花ちゃんの三人は夏祭りの会場になっている場所に到着した。

 数列の直線上にずらりと並んだ出店からは、なんともいえない食欲を誘う香りが煙と共に流れてくる。

 また、それだけでなく時折、パンッ・・・という鈍い銃声が空気を振動させながら伝わってくる。大人や子ども達の何人かが射的に熱中しているようだ。

「へー・・・色々あるね。桃花ちゃんにお姉ちゃん、先ずはどこから行く?」

「うーん・・・」

「そうねー・・・私は楓が行きたいところからでいいわよ」

 桃花ちゃんは悩んでいるようで、姉は私が行きたいところからでいい、とのことだった。

「そっか・・・。じゃあ、どこからにしようかな?」

 私は、そう言うとあちこちにある出店を見渡す。

(焼き鳥に、ヨーヨー釣り。ヨーヨー釣りは後でやりたいけど、外に放置しとくといつの間にかカビるんだっけか?まぁ、後でやるかは、そのときってことで。あっ、あそこもいいかも・・・)

 私は、しばし周囲を見渡した後、どこに行くか決めた。

「・・・え?楓ちゃん、どこ行くの?」

「楓、何か買うのなら私が買ってあげるわよ・・・」

 私は二人の視線と声を背中に浴びつつ数百メートル先に見える出店の看板を目指して駆けていった。

「はぁー・・・楓ちゃん、さっき私が何も答えなかったのが嫌だったのかな・・・?」

「桃花ちゃん、そんなことはないと思うわ。ただ、楓に自分勝手で利己的な面があるってだけで」

「そうなんですかね、楓ちゃんのお姉さん・・・」

「桜輝でいいわよ、桃花ちゃん・・・」

「でも、楓ちゃんだってお姉さんのこと桜輝とは呼んでないですよね。それに、お姉さんだって楓ちゃんに桜輝って呼んでもらった方が嬉しいんじゃないですか?私なんかよりも」

「ふふっ・・・。桃花ちゃんが楓から何を聞かされたのかは分からないけど、別に私と楓の関係について心配してくれなくても大丈夫よ。だって、私と楓は姉妹なんだから・・・」 

「そうですね。それなら、さっきのはなんだったんですか?」

「・・・さっきのとは、なんのことかしら?」

 桜輝は小首を傾げて桃花に尋ねた。

「えー・・・っと、さっきのっていうのは公園で二人、見つめ合ってたじゃないですか」

「あー・・・あれね。あれは、たんなる姉妹での親睦(スキンシップ)よ。それなら何もおかしくないでしょ?」

「そう、ですね・・・」

「そうよ。そういうこと・・・って楓、どこ行ってたの?」

 そのとき、両手に三本の何かを持ちながら私は姉と桃花ちゃんのところへ戻ってきた。

「いや、お姉ちゃん・・・見たらわかるでしょ。なが~いtntnみたいなフランクフルトを私のも含めて三本買ってきたんだよ。だからはい、お姉ちゃんに桃花ちゃん・・・」

 私は、つい下ネタじみた発言をしてしまった。

「あ・・・ありがと楓ちゃん」

「楓、ありがと。けどね、今のtnなんたらって発言はいただけないわ。女子として淑女としてね」

 桃花ちゃんは特に何かを指摘することもなくフランクフルトを受け取ってくれたが、姉には注意されてしまった。まぁ、仕方のないことなのだろうが。

「そんなものかねー・・・。けど、今後は言わないように気をつけるからさ・・・」

「まぁ、楓が分かってくれたのならいいのだけど、それにしてもこれ、絶品じゃないの。楓も桃花ちゃんも食べてみなさいよ・・・」

 そう言うと姉は、私や桃花ちゃんよりも先に焼きたてほやほやかは知らないが、二口目をかぶりついた。それから間もなくして、私と桃花ちゃんもパクりとかじりついた。

「んっ・・・ん、あふいけどおいひい」

「ほんほだね、楓ちゃん。楓ちゃんの言うとおりだね・・・」

 私がつい衝動に駆られて買ってきたフランクフルトは間違いなく焼きたてのものだった。

・・・・・・それから、私と姉と桃花ちゃんは打ち上げ花火が始まる時間帯になるまで目玉焼きが二つのった焼きそばやクレープを食べたり、さっきまで悩んでいたヨーヨー釣りをしてみたりして打ち上げ花火までの時間を全力で楽しむことにした。

 あ・・・ちなみに、私はツナマヨサラダ味のクレープ、姉はチョコバナナ味のやつ、桃花ちゃんはカスタードたっぷりのクレープを注文していたっけ・・・。

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