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泣き虫

私達がお風呂に入ってる間に、陛下が来られた様子。すぐに呼び出しがかかったのは予想通り。


久々に会えた側仕えたちにあまり説明もできず申し訳なかったが、準備を手伝ってもらって、そんなに遅くならずに陛下の元へ馳せ参ずることが出来た。


グゲとゲゴも準備できたようだ。五神官の正装だ。もちろんゲゴの肩は肩掛けで覆ってるけど。彼らは呼ばれていないけど、私と一緒に行った者だから連れて行ったほうがいいでしょう。


迎賓館の前でハームルが待っていた。


「リン様。またお目にかかれて良かった。陛下はややご立腹のご様子です。過去に自分がしたことを忘れているのでしょう。しかしお待たせしても良いことなどありませんし、すぐに参りましょう」


「過去? 何をされたんですか?」


「皇太子の時に、私だけを率いて敵に突撃したんですよ、あの人は」

ええ?! 帝国の皇太子が何をしてるんですか。そりゃそんなのについていかされたハームルに嫌味を言われるはずだ。


「まあもっとも私は勝手に付いていったんですけどね。でもそうしないと本当に一人で突撃なされるのですから……」


今の私が知っている皇帝陛下では想像もつかないけど、やんちゃだった、ってやつなのかしら。


四人で通してもらい、いつもの部屋の前ではラキウスが待っていた。


「お待ちしておりました。陛下がこちらでお待ちです」


ラキウスが扉を開けて入るよう促してくれた。今回は奥の部屋にいることもなく皇帝陛下は椅子に座っておられた。聖女テオン様もおられるようす。


「おお、まいったか、リン。心配かけさせおって……」

陛下に駆け寄られ、包容された。そうだった、私にはいまいち実感はなかったけど、陛下は親族だった。おそらく気の許せる唯一の。


「ごめん、なさい」

自然と涙が流れ出て、心から謝っていた。


「なんだ、泣いておるのか? 泣くぐらいならしなければよいだろうに、まだまだ子供なのだな。言いようが大人顔負けだから忘れておったが」

陛下は微笑んで私を抱えあげ、用意されていた椅子まで連れて行ってくれた。


「ほれ、泣き止まぬか。せっかくの美しい顔が台無しだぞ」

そういってハンカチを渡してくれた。私はなんだか元の世界の親に無性に会いたくなって、それが叶わないと知っているからなおさら涙が出てきて、それに皇帝陛下の情が嬉しくて、更に泣いてしまった。


「リンがそんなに感情を顕にするなんて、珍しいですね」

聖女テオン様が私の頭を撫でてくれる。


「私よりも四つも年下なのに、まるでお姉さまみたいでしたのに」

そこでピタッと涙は止まった。今の私の立ち位置を失念してしまっていたようだ。いくら体が子供だからって引っ張られすぎた。

テオン様は私の顔をさすってくれる。テオン様の魔力が浸透してくるのが分かる。泣いてしまって腫れた目の周りを癒やしてくれたようだ。泣いたあとの腫れぼったさや鼻のちゅんちゅんがなくなっている。


「ありがとうございます、テオン様。おかげさまで落ち着きました」

「良かった。泣いていては話ができませんしね」

「さすがだ、テオン。よくやった。ワシはいまいちこういうのは苦手でな」


皇帝陛下はすでに自分の椅子に戻っている。グゲとゲゴは私の後ろで控えてくれている。ハームルも二人よりは若干前だけど控えている。ラキウスは陛下の横に立ち、落ち着いた私から離れてテオン様は陛下の後ろへ控えた。


「すでに人払いをしておる。ここにいるものたちは大丈夫だ。リン、全てを話せ」


「はい。最果てにはまだ生き残りがいて、支配者がいました。私達は勝手ながらその支配者と同盟を結びました」

ちらっと陛下の顔を見る。表情は変わっていない。


「その支配者の協力を仰ぎ、共通の敵である巨人を討ち果たしとうございます。やつらは帝国の脅威です。やはりこちら側に霧を広げようとしているようです。霧は予想されたとおり人族には致命的なもののようです」


「ふむ、分かった。大儀であった」

「お待ち下さい、陛下。まだ重要な三つが残っております」


「なに?! これ以上重要なことがあと三つもあるのか?」


「そうです、一つは、支配者からすでに帝国へ土地の割譲を許可いただいております」

「なんと? それは良い話だ。我が帝国も助かるし、散っていった者への慰めにもなろう」


「もう一つが、それを成すためには私が全ジュシュリを率いて出撃しなければなりません」

「また危険を犯そうというのか、リンよ」


「はい、ジュシュリは部隊としてはまだまだ小さい規模。巨人全てと戦うとなると私も戦力にいれなければ話になりません」

「しかし、土地が手に入るなら帝国兵に任せれば……、そうであった、霧が晴れぬと我らでは無理だったのだったな」


「適任はジュシュリなのです」

「ふむう」


「そして、最後ですが」

「なんだ?」


「今最果てと呼ばれているミリシディア王国にいた生き残りとは獣人であり、支配者とは魔族でした」

「ほう、獣人は北にわずかながらいたはずだ。帝国にも数名おったかな? それに魔族とな? 神話の時代に語られる魔王の配下どもだったか」

「そうなのですか。その魔族は自らを魔王種と言っておりましたが」


「はっは、魔王か。ワシは皇帝じゃ。なんじゃその顔は。ワシをジト目で見るでないわ。ほれ、そこのグゲとゲゴ、じゃったか? ワシの言葉は分かるか? リンの言っておることは真実か?」


グゲは呼ばれたのは分かったぐらいで、返答したのはゲゴだった。ゲゴはある程度なら共通語の会話が出来るからね。

「はい、わたくしも見ました。魔王かまではわたくしには判断つきませんが、間違いなく魔族でした。リン姫様と打ち解けていたように見えました」


「ふむ、リンの言ったことは事実か。途方も無いことよのう」


「あの、その魔王、名をパサヒアスというのですが、彼をここに呼び出す事が可能なのですが、直接お会いになられますか?」

「ふむ? さすがは魔王、と言ったところか。しかしここ迎賓館には転移不可の術式で覆っておるから、それは無理だと思うがな。それにワシは主らジュシュリのものとも会話がなかなかできんのだが、その魔王とやらと会話はできるのか?」


「いえ、パサヒアス様と会話できるのは現状私一人でございます……」

「ならば会っても仕方ないな。リン、お主の判断を信じよう。当分好きにするがいい。じゃが死ぬのは絶対に許さんぞ。あとは事後報告で構わん。やりたいようにやるがいい」

「陛下、それはあまりにも……」


陛下の横で立っていたラキウスが陛下に苦言を呈する。私だってそう思う。

「よい、ワシだってそう頻繁にここに来ることは叶わん。今だってかなりの無理をしておるのだ。しかしリンがなそうとしていることは、もはや帝国の一大事だ。ワシの判断を待って動いていては間に合わんことも多かろう。本来であればワシの代官、適任者を帝都から呼び出すのがいいのだろうが、最果てには未だジュシュリ以外入れんのだ。リンに任せる他なかろう。別に姪だから、というわけではないわ」

「そうでしたか。私の考えが至りませんでした。申し訳ありません」


「そうじゃ、ラキウス、お前リンの副官となれ。ワシの肝いりとしてな。ハームルは立場上副官ではないからな。ラキウスならワシも安心できる。ハームルは忙しいからな。お前もレニウムに残って、リンとハームルを手伝うといい」

「よろしいのですか? 私としては願ったり叶ったりですが」


そこまでは聞こえたけど、あとは二人でごにょごにょ話ししていて聞こえなかった。テオン様なら聞こえてそうだけど、にこにこしているだけだった。だからまあ大丈夫だとは思うけど。


「しかしお前は今後もワシの親衛隊じゃからな、そこは忘れるな」

「はっ! 当然であります。親衛隊に迎え入れられた時から、我が生命は陛下とともにあります」


「してリンよ。具体的にはどうするのだ?」

二人で話していたのに急に私に話を振ってきた。


「はい、まずは最果て、ミリシディアで巨人退治を行うための準備をしたく。様々な物資や人材以外の補充をお願いすると思います」

「人族以外であればよいならジュシュリと同じゴブリンの部隊とリザードマン湖沼部隊がいたと思うが、ゴブリンの部隊は配置されている場所が悪いし、別部族じゃからややこしいことになりかねんか。リザードマンもそもそも湖沼部隊じゃから進軍には向かんよな。よし、ハームルよ。ワシの名前を使っても良いから早急に希望する物資を集めよ」


「はっ! ありがとうございます。最近ジュシュリの周り、というか私の周りに怪しげなものが増えておりまして、困っていたところです」

「怪しげな者?」

「おそらく、陛下の躍進やジュシュリの貢献を快く思わない貴族どもの配下かと」

「ほう、時間の問題じゃったが、リンの活躍を警戒する貴族どもが現れてきおったか。どこの手のものか分かったらワシか将軍に伝えよ。適当に対処してやるからな」

「はい、確証が得れましたら是非にでも」

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