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割譲

パサヒアス様は玉座に座り、話を続けるよう、促してくる。

こちらも出されたお茶で喉を潤してから発言をする。


「この地ミシリディアから巨人、および巨人に与するものの排除の協力とその後のために、向こうの私の治める部族、ジュシュリとミリシディアとの同盟を結びたく。またミシリディア各地にある村との通商をお許し頂きたく」

『同盟とは大きく出たな』


「はい、そこは私が至らぬところですが、同盟という言葉以外思いつきませんでした。実際のところジュシュリは帝国の一部隊として組み込まれており、逆にミリシディアは今でも国と認識されておりますので、規模が大きくずれています。ですが私とパサヒアス様との仲で考えると、同盟がぴったり合うと思うのです」


『私はリンに借りを作ってばかりのような気がするが……」

「それはそれとして持っている力が違いすぎます。私自身はジュシュリを統括しているものの、支える者がいなくてはただ魔力が多いだけの小娘にしか過ぎません。魔王たるパサヒアス様にはまったく釣り合っておりませんので」


『だから、同盟、契約でもって立場を合わせようということか。リンはその頭脳や性格も特筆すべき能力だと思うけどな』

「ありがとうございます、ですがそのへんは自らがそれを能力として言うべきものではないと思います。すなわちアピールするには向いておりません」

『ふむ、たしかにそうだな、他者からの評価でのみ使われるものよな』


しばらくパサヒアス様は考え込むように動きを止めた。

『いいだろう。正直獣人たちの生産物の処理に困っていたのだ。彼らの生産能力は初期では自給自足に届かないレベルであったのに、今では過剰に製品が生み出されておってな。彼らは喜んで作っているのに生産調整や製品の破棄もする気も起きなくてな。居城の空き部屋に死蔵してる始末よ。それを有効に扱ってくれるならば各村の者も喜ぶであろう』


「あと一つ、世話になっている帝国へも土産が必要だというのと今後の通商をより効率的に行うために、獣人が住んでいなくて帝国に隣接する土地を割譲していただけないでしょうか? 帝国人と獣人との融和の地にもしたいですし、ジュシュリの力が上がるはずですので」

『ふむ、現在私はミリシディアを支配しておらぬから、どうとでも切り取ってくれて構わぬが確かに我が居城がある元王都と獣人たちが暮らす場所は困るな。……確か北東らへんは人間どもの大きな街があってその周辺には獣人はおらなんだはず。街は空になっておるはずだし、その周辺を帝国のものにしてもいいだろう』

「ほ、本当によろしいのですか? かなりの無茶を言っているはずなのですが……」


『かまわんよ、そんな誰も住まぬ人間の街などもはや我らにはいらぬし、その周辺の土地もいらん。人間がいなくなった今のミリシディアは獣人たちには大きすぎるぐらいだからな』


「ありがとうございます。最果てによって果てた帝国人の面目もこれで立ちます。まあまずは巨人たちを平らげないといけませんけどね」

「そうだな、三魔将を存分に使うがいいぞ。なんなら私自身が手伝ってもいい、むしろ手伝うぞ」


思わず苦笑してしまったが、すぐに表情を戻す。

「はい、その時はお呼びさせてもらいます」


「そうそう、本日は全魔将を呼びつけておる。各村への補給をしてもらっているキリカーンテ以外は自律型の魔将であるのだが、ラキーガとアンテリモウが来ぬ。おそらくリンの頭を悩ませてしまったのはそのどちらか、あるいは両方であろう」


「そ、そうなのですか。魔将が相手になりそうですか」

『生みの親として申し訳なく思うが、そのために新たに魔将を作ったのだ。……きたようだ、顔合わせをしておこう』

二体の異形が入ってきた。

一体は村で見かけたアリクネ、キリカーンテという名前だったか。あとのもう一体はおそらく最初に出会ってグゲに攻撃した、あの光り輝く四つ腕四足獣でワニ頭のケンタウロスだ。こちらはまだ名前はわからない。


「パサヒアス様、お呼びで?」

魔将キリカーンテがパサヒアス様に問う。確かにパサヒアス、と言っているね。翻訳しなくてもそこは聞こえた。これを獣人達は聞き取っていたのでしょう。

「ラキーガとアンテリモウは、やはり来ておりませんか?」

もう一体の魔将もそう言った。この魔将は同僚が裏切っていたのを知っていたのだろうか?


『ご苦労だったな、よく参った。キリカーンテ、ヴァイガンヌ。今日は紹介が多くある。まずこちらがリン、私との同盟者だ』

「ど、同盟者ですか?!」


「こいつ、いやこちらの方、リン様でしたか、以前お見かけし、お供のものを攻撃してしまいました。申し訳ありません」

ヴァイガンヌと呼ばれた魔将が前足を折り、頭を下げた。


「いえ、その時は私どもは正体不明でしたし、ヴァイガンヌ様のおかげで獣人の村に辿り着けました。攻撃されたのは遺憾ではありますが、仕方がないことだと私も思います。共の者も痛みは受けましたが、五体満足で無事に治りましたので文句はありません。ので、気になさらず」

「私の攻撃を受けて、五体満足で無事だと?! なんという者たちなのだ……?」


『リンは癒し手なのだ。おかげで私も癒やされ、全盛期近くまで回復した。それもあって、新たに三体、半自律の魔将を作った。お前達の同僚となる。しばらくはリン専属だがな』


「おお、三体も、しかも半自律ですか。羨ましい限りですな」

『そう言うだろうと思っておった。自律であるお前を今から半自律に書き換える事はできぬが、我が魔力を半自律と同程度分け与えることは出来る。そのためにも呼び付けたのだ。そしてそれが出来るのもここにいるリンのおかげだ。そこを承知せよ。もちろんキリカーンテ、お前にも分け与えよう』


若干胡散臭げだった私への二魔将の視線が変わった。

「それほどまでのお方でしたか、リン様、ありがとうございます」

「おお、ありがたい、これもリン様のおかげですか。私は未だ眷属を生み出しておりませんでしたので、属性ボーナスも得られなかったので大変助かります」


『そしてリンの側で侍るのがレオ、ベフォセット、ルオンだ。今後お前たちと協力することもあろう。覚えておいてくれ』

レオは私をいつでも守れる位置に立ち変え、吠えた。ベフォセットは私の影から全身を現し、軽く会釈する。ルオンはおそらくわざと存在感を出して、どこにいるのか認識させてから手をあげて挨拶していた。


「パサヒアス様、魔将同士は会話しないのですか?」

『しておるぞ、いわゆる念話というやつでな。さすがのリンも、そこまでは聞こえぬか?』

「はい、聞こえてはいません。念話ですか、そういえばパサヒアスの指輪を使えば私もパサヒアス様と遠距離でも会話ができる、と聞いておりましたが、同じ技術なのですか?」

『そうだが、リンたちや帝国とやらはその技術を持っておらんのか? そういえばこのミリシディアにも念話を使うものはいなかったな』

「はい、おそらくこの世界でそれが使えるものは人間にはいないようです。少なくとも私は知りません。ですから今帝国と協力して私もその手段を得ようと研究中だったのです」

『そうか、別にこれは我ら魔属の特殊能力でもなくただの技術だ。それに多くの世界でその技術はあるからな。研究中だとするなら、その技術、リンに教えてやろうか?』

「よろしいのですか? 願ってもないことですが」

パサヒアス様のガギに似た顔が破顔して笑った。もちろんガギ本人でこんな表情は見たことがない。


『研究中であるというならいずれたどり着くであろうしな。リンがそれほど喜ぶのであれば、私は嬉しいぞ。パサヒアスの指輪からその技術情報をいつでも引き出せるようにしておこう。存分に役立ててくれ』

「ありがとうございます! 本当に助かります」


『ふふ、今までで一番喜んでくれたようだな。何よりだ』

あ、あら、そんなに感情が出てしまっていたかな? 確かに今までのはジュシュリの長としての要望だったからね、通話もそうではあるけど私欲、というか聖女テオン様といつでも会話できるようにしたい、という極めて個人的な理由も含んでるからなぁ。それに通話ができればあらゆる面で帝国、ひいてはジュシュリにも利益あるしね。


『こんなものか? そろそろリンは一度帝国に帰るのだったな。いつでも、どこでも、帝国でも、私を呼び出してくれて構わんからな』

「はい、機会があれば魔王として、ミリシディアの現支配者として、皇帝陛下に紹介したく思います。一度帰りますがすぐにミリシディアには戻って来ると思います」


『そうか、分かった。皆のもの、キリカーンテやヴァイガンヌも、リンは私と同等クラスに仕える者であると認識したな?』


魔将たちから一斉に返事が戻ってくる。もちろん皆肯定だった。

『よろしい。ではリンよ。しばしのお別れだな。戻ってくるのを楽しみに待っているぞ。村まで送ろう』


キリカーンテとヴァイガンヌはパサヒアス様についたままで、ルオンは気配を消し、ベフォセットは私の影に潜り、レオは忍者のようにジャンプしたら消えてしまった。

そしてパサヒアス様自らが私を村まで送ってくれた。

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