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新たな支配者

確かに私はぱっと見は人間に見えるかもしれない。耳がややとんがっている程度は見過ごす人も多いと思う。特に連れ歩いている人が明らかに人間じゃない緑色の肌をしているしね。


「私はハーフエルフです。……エルフは知っていますよね?」

本当はハーフエルフ、らしい、なのだけども、そこまで言う必要はないだろう。長くなるし理解されない可能性の方が高いし。


「エルフ! エルフもハーフエルフも知っておるよ。見た目通りの年齢ならびっくりじゃ。して他の二人は?」

うさ耳老人が驚いた様子だ。あー確かエルフって絶滅したって言われてたんだっけ。

ん? 見た目通りの年齢ならびっくり、ってどういう意味なんだろう? けどすでに質問されているし、こっちも答えないと。


「こっちの二人はハイゴブリンです」


「ゴブリンじゃと? 十数年ぶりかに聞いたわ。しかしハイは知らんのう。やっぱり向こうから来たのか?」

うさ耳老人と話しているうちにも、他の獣人に身振り手振りで案内されて特等席に座らせてくれた。うさ耳老人の席はその真ん前だった。質問攻めは続きそうだけど、私達にも聞きたいことがどんどん出てくるし、ここは付き合おう。寝る場所や食事との交換条件でもあるしね。


うさ耳老人に対して話しているけど、ここにいる獣人たちは皆私の話を食事もせずに聞いている者が多い。食べ物は……焼いた肉と焼き魚! こけに見える野菜?がメインのサラダ それと何かのスープだった。私達やうさ耳老人、その近くに座っている人たちがそれらで、離れていくにつれ、量と品数が減っていって、明らかに末席になってくると先程のみつのような食料になっていったので、歓迎しているというのは確かだと思う。うさ耳老人のものには魚はないし、盛り付けにもそれなりに凝ってる気がするし。


「ここって王国で間違いないでしょうか? 私達は帝国から来たのですが……」

うさ耳老人は明らかに目線を外して、ここがミリシディア王国だと認めた。けどなんというか、それを認めたくはない感じがした。


「ここは第七獣人居留地という場所だった。じゃが支配者が変わったので、第七だけとって第七村とよんでおる」

支配者が変わった? 初耳だ。もちろん獣人といえど人が残っていたことですら初耳というか新発見なので、今後聞く話は全て知らないことだ。


「支配者が変わった、ということは新しい支配者がどこかにおられるのですね? そしてあなた方はその支配者に従っている、と考えていいのですか?」

うさ耳老人が顔ごと背け始めた。言いたくはないことのようだ。


「わしらのことよりお主らのことを聞かせてはくれぬか? 帝国は人間の国なんじゃろう? ひどい目にあっとりゃせんのか?」

ああ、王国って差別意識が強くて他国の人間の商人すら差別的に取り扱うような国だったと聞いていたっけ。となるとそんな国にいた獣人たちへの扱いは……、ってことか。居留地だなんて自国民と認めてもいないって扱いになってしまうし。


「ええ、幸い私達は理解ある人間に導かれて帝国入りしましたので。一年ほど前までは帝国のはしっこで我らとゴブリンたちとで自分たちの村に住んでいましたし」


「そうじゃったか。ところで巨人やアリの大群に遭遇しなかったじゃろうか?」

あ、軽い感じで核心の話が来た。

「はい、会いました。アルゴスという巨大で体中に目がある巨人を追いかけてここにたどり着きました」

「アルゴス、巨大な目だらけの巨人というと、あれですな? 彼となにか知り合いとかで?」

知り合い? 彼? 巨人に知り合いはいないなぁ。なんとなく会話がすれ違っている気がしないでもないけど、進めていこう。


「アルゴスはたくさんの巨人やアリなどを率いて、帝国に攻め込んできたのです」

「ほう、それは帝国にとっては迷惑千万な話ですな。で……?」

「もちろん受け入れるわけにいかない、どころか襲いかかってくるので今まで戦っておりました。本日も戦っていたのですが、アルゴスを倒さないと終わりそうになかったので我らが突撃し、逃げるアルゴスを追ってここまで来ました」

「アルゴスが逃げた?! はっはっは、これは痛快。いや、あなた方をもっともてなさねばなりませんな!」

こちらでも巨人たちは嫌われている? アルゴスだけ嫌われている? 聞いてみるか。


「アルゴスになにかされたのですか?」

「あー、アヤツに直接になにかされたわけじゃないが、間接的には山程な。王族はもれなくアルゴスになったみたいじゃし、昨日見かけたアルゴスは元第三王子じゃったかな?」

え? 王族? 元第三王子? どういうこと?!


「え、と、ちょっと分からないのでもう少し詳しく説明していただけませんか?」

「ああ、すまんすまん、こっちではもはや常識になってることでな。王族も魔術師も兵士も一般市民と言われてた者たちも、人間たちの多くは巨人に変化してしまったんじゃ。もう人間としての記憶も知能もないらしい。ざまあみろじゃ。例外的に小さな子供やわしらに優しかった者たちは巨人にならずに石灰化してしまった。痛みはなかったらしく安らかじゃったよ」

石灰化! これは事前情報で得ていたものだ。となると石灰化してしまった人たちは善良だったのかな。小さな子供は無垢だろうから巨人化は免れたってことかも。


「この村の中に直接人間が巨人に変化したのを見たものはいなかった。しかし見たというものが別の村から来た者に確かにおって、それが獣人たちの間に広がったのだ。なんでも人間どもにしか見えない霧が発生し、その霧に飲まれたら巨人と化すか石灰と化してしまったらしい。その頃すぐにアリたちもうろつき始めたようだ」

以前砦長に聞いた話と一致しているどころか詳細になっている感じだ。


「で、ではもしかして今の皆さんの支配者と言われる方は……?」

「ああ、見た目は悪魔としか言いようがないな。けどわしらにとっては人間の方こそ悪魔にしか見えんかった。実際パサヒアス様は我らを人間の手から守り、庇護してくれておる。わし等の食料の多くはパサヒアス様が持ってきてくれるものだし、この場所に住まう限り、巨人やありはわし等を襲って来ぬし」


なんだかとんでもないことを話しだした。

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