謎の村
敵っぽかった光り輝く四腕のケンタウロスがいた場所についた。なんか大きさがまちまちだけど、一番小さいやつでも私が抱えるぐらいの大きさのホオズキみたいなのが三つ、おいてあった。ガクの部分は骨格だけが残ったような感じ。透明で中にはホオズキよりも大きい、ガクとほぼ同じ大きさの黄色い実?が見える。実に見えるけど薄い膜でなんとか保持されている液体にも見える。
ガク自体は硬いものの、一番下と思われる場所からつるみたいなのが生えていて上に巻き付いている。そしてそのつるからは少しだけ実の中身に見える液体っぽいのが漏れ出ていた。その液体はとても甘そうな香りがしていて、とても美味しそうだ。
「食料、ですかね?」
グゲがつぶやく。とても美味しそうだし、数も私達の数と同じだし、そんな気はするけど、なぜそんな行動をするのかがさっぱりわからない。
「魔力的には悪い感じもしませんね、わたくしが毒味してみますわ。もし食料なら助かりますし」
そう言うが早いがゲゴが中ぐらいの大きさのものをグゲから受け取って、垂れ出ている甘い香りの汁を飲んだ。
「……とても甘くて美味しいですわ。特に体調の変化は感じません。見た目も変わっていませんか?」
「大丈夫よ、遅効性の毒とかだったらやばいけど、わざわざそんなことする理由も分からないしね。とりあえずもらっておきましょ」
とりあえず謎の食料?を確保した。
「向こうを指していたようだけど、行ってみる?」
さっきのが指していた方向には何も見えない。ただ荒野が広がっているだけに見えた。
「そうですね、ちょっと気に食わないですが、行ってみましょう。状況が打開できそうな気がします」
「お前が気がする、とは珍しいな。普段は俺のカンを相手にしないくせに」
「うっさいですね。なんて説明すればいいのか分からないだけですわ。ともかくここにとどまるのは危険だと思いますので、移動しましょう。ほらグゲは座ってなさい」
ゲゴは自分が座っていた場所を再び譲って取っ手を持って二号ゴーレムの背中に立つ。片手には制御棒を持ちながらだからけっこう大変だと思う。けど確かに今のグゲに負傷した足を使わせるのはためらうし、余計な魔力も極力使いたくはない状況だから正しいとは思う。けど正しいからといって自分の負担が増える選択を選べる人物は少ないと思う。指導者とはこうでないといけないよねと思いつつ、そういう無理が出来ない自分の体を少しだけ呪った。
しばらく二号ゴーレムに乗って進んでいくと、緩めの崖になっており、崖下に村があるようだ。建物や少し見える畑はきれいなままであり、生活感が残っている。最果てにはもはや人間は生きていないのでは?と言われていたけど、生き残っていたようだ。さっきのやつはそれを教えてくれた? 本当に行動原理が分からないけど、助かったのは確かだ。
けど少し心配なのがこの付近におそらく石灰だろうという塊が散見されることと今現在村に人影は見えないことだ。偵察を出したいところだけど、今適した者はいない。魔力が潤沢にあればなんとでもできたんだけど。
崖には上り下りする坂道があったけど、ここをバランス取りながら進むより、レビテーションで一気に下ったほうが、万一村に危険があっても安全だろうと、魔力を使ってしまうけど、そうすることにした。
村に二号ゴーレムが降り立つと、とたんに付近の建物からフレイルやフォークを持った人たちが現れ村にこれ以上入れさせまいと半分取り囲まれた。ただその人達は思い思いの動物の耳を付けているようだ。
ぱっと見老人に見える人にも犬耳やうさぎ耳っぽいものをつけていて、凄い違和感だ。
「獣人?!」
ゲゴが声をあげた。……あれ作り物じゃないのか。グゲは足の怪我にも関わらず素早く降りて私の元に来てくれた。
「ま、待ってください。私達は迷い込んだだけの者です。出ていけというなら出ていきますので攻撃しないでください」
「お前さん方、わしらの言葉を話せるのか?」
確かにそう言ったように聞こえたけど、同時にふごふごといった音も聞こえた。これはたぶん万能通訳のおかげだね。実際グゲとゲゴはこのやり取りをさっぱり理解できていない様子だし。
「は、はい、私だけですが、分かります。ここはどこなのですか?」
「そうか、話が出来るならいい。入りなさい。牛舎があるからそこにその大きなのを隠してくれるかね。おい、誰か案内してやってくれ。わしらは歓迎の準備を進めておこう」
そう言って、ここの長らしいうさ耳で白ひげのおじいさんが持っていたフレイルを構えるのをやめて、周りにいた人を引き連れてどこかに消えていった。残ったのはたぶん案内してくれる役の猫耳の女の子だった。持っていた鎌は腰にさして収めてくれた。もちろん敵意は感じない、ただ少しゴーレムにびびっているだけのようだ。
猫耳少女、といっても私よりは年上に見えるけど、グゲやゲゴにとっては少女なのでそういうことにしておく、興味深そうにこちらをちらちらと見ながら、崖とは真逆の位置にあった牛舎に案内してくれた。
牛舎は大きく、二号ゴーレムでも楽々と入れた。牛舎だけど牛の数は明らかに少なかった。
「ここにそれ、おいておいて。それでそっちは三人? 見かけない種族ね」
グゲが念の為ゴーレムから魔導線を取り外し、少女に見られないよう、ゴーレムにつけてある隠し収納に制御棒を隠した。急に出発することは出来なくなるけど、どこにどうやって魔導線をつなげたらいいのか知らない者にはこのゴーレムは動かせなくなったはずだ。
バリスタは全機能をロックして、残しておいた特殊ボルトには魔法的な防護をゲゴがかけた。魔力を使ってしまうけど、これへの防御はしておかないといろいろと危ないしね。
猫耳少女に気付かれないようにゴーレムの機密保持を施してから、猫耳少女の案内で村を歩いた。怪我をしているグゲだけど、持ち前の運動能力と痛み止め魔法エノジーゼックのおかげか普通に歩いている。
しばらく歩いてみたところ、それほど村は荒れていなかった。ただ見かける道具は粗悪なものが多いように感じる。砦ではもちろん、ジュシュリ村の頃ですら金属をふんだんに使っていた部分に金属を使っていない感じ。フォークも全部木製だったし、フレイルもつないでいるものが鎖でなくただの鉄の輪っかだった。武器として持っていた鍬にも金属の刃はついていなかったし。
建物もそれなりにきれいではあるけど、もともと粗末な感じだ。石造りの建物も装飾などは一切見えず、安く建てた感じがする。そんな石造りでとても大きな建物に案内された。
「グゲ、ゲゴ、いろいろと話しするつもりですが、同時通訳は厳しいので後ほどまとめて伝えます。しばらく沈黙でお願いします」
「それは……、はい、了解いたしました」
「交渉は苦手ですからな、お任せします」
中に入ると大きな集会場みたいなところで、多数の獣人が出迎えてくれた。皆の前には料理が並んでおり、歓迎してくれるようだ。そういえば末席らしきところには光り輝くケンタウロスがおいていったアレも複数おいてあった。やっぱり食料なんだ。
先程のうさ耳老人が出迎えてくれて、案内してくれた猫耳は末席に座った。
「大したもてなしは出来ないが、ここでゆっくりしていってくれ。寝る場所と食べ物は渡そう。ただしお前たちが知っていることをわしらに語ってほしい」
にこやかに、意味のわからないことを言う。寝る場所と食べ物の提供は嬉しいけど、私達が知っていることとは?
本当に分からないので思わず顔をしかめてしまったのを悟られたのか、うさ耳老人が続けてくれた。
「わしらは見ての通りの獣人じゃが、この辺りでお前たちのようなものは見かけなかった。特に話が出来るお前じゃ。お前は人間に見えるが違うはずだ。何なんじゃ?」




