混乱
グゲが持っていた剣は今回は大剣だったとはいえ、もちろんその刃渡りはアルゴスの腕周りの半分もない。それで斬り飛ばすなんて真似どうやってるんだろうね? 前もサイプロプスの胴を真っ二つにしてたし。
グゲはアルゴスの腕を一本斬り飛ばして、それで落下の勢いを弱めて無事に着地した様子。
アルゴスは立ち上がり、Uターンした私達の方へ走ってくる。あの巨体で走るのか。
着地したグゲにアルゴスの周りにいた巨人や有象無象が集ってくる。ゲゴはグゲを巻き込まない位置に特殊ボルトを撃ち込みまくりつつ、こちらに向かって走ってくるアルゴスの前に魔法で炎の柱を立てている。器用なものだ。
アルゴスは炎の柱を避けることもせず突っ込んで行き、私達に迫る。けど様子がおかしい。体中にある目がこちらを見ていない。さっきまではあれほどこっちを睨んでいたくせに。そして空中高くにいる私達を無視してさらに向こうに走っていこうとする。
もちろんすれ違いざまに爆弾を落としてアルゴスに命中させたものの、アルゴスはそのダメージも無視して走って逃げていく。かなりの爆発で、威力もすごかったと思うんだけどなぁ。
アルゴスの後ろには有象無象の囲みを難なく突破してきたグゲが追いかけていた。
「あ、こら、待ちなさい、グゲ! 深追いするんじゃないですわよ!」
ゲゴがなんか普段とは違う感じで叫んだ。けどここは戦場、聞こえてないだろうなぁ。私も同感だけど、だからといってグゲを見捨てることなど出来はしない。慌ててまたUターンしてグゲとアルゴスを追いかける。
まあ、たぶんアルゴスなしならあの大戦力でもレニウムの戦力でなんとかなるでしょ。確かにここでアルゴスを逃がすほうがやばいというのも分からないでもない。でもそっちは最果てと呼ばれた土地。何があるのか分かったものじゃない。
すぐに追いついたけど、アルゴスはまだ逃げてる。グゲはなんとかとどめを刺したいところだけど後ろから斬りかかっても致命傷を与えられないと考えているのか、攻撃せずに追いかけているだけ。速度がほぼ同じなのでわずかずつしか詰めれていない様子。
「姫、グゲの真上につけれますか?」
「は、はい」
高度を下げ、追いつきそうになったらグゲの走る速度に合わせる。微妙な速度調整なので多少集中しないと難しい。
けれどすぐ真上につけれた。一瞬グゲが光った。グゲを回収するんじゃないの? と思った瞬間、グゲの走る速度が大幅に増した。ゲゴの魔法?
「フルポテンシャルですわ。これをかけてから行かせようと思っていましたのに、グゲのやつ勝手に降りてしまうんですもの」
魔法の名前からして潜在能力を引き出して肉体の強化を行う、といった感じかな? グゲの走るスピードがあがったのも肉体が強化されたせいかな?
グゲはすぐにアルゴスに追いつき、後ろの目から撃ってくるビームを完璧に避けながら、そして走りながら大剣を横に振った。その瞬間、アルゴスがアキレス腱辺りを斬られたようで前のめりに倒れた。
しかしなぜかグゲも同じように前のめりに、速度があった分ヘッドスライディングでもするかのように倒れた。
「え? 何が起こったの?!」
「グゲ!」
スピードを出してアルゴスを空中で追い抜こうとしていたところだったので、慌てて速度を緩めて引き返し、グゲが倒れたところへ向かう。その際にゲゴは二号ゴーレムをアルゴスの方へ体ごと振り向かせて、自衛用に僅かな数を残して大量の特殊ボルトをアルゴスに撃ち込んでいた。アルゴスは死んでいないようだけど、呻くだけで動けなくなったようだ。しばらくは放置でいいか。それよりグゲが心配だ。
二号ゴーレムをグゲの近くに下ろしながら義足を付けていく。義足のつけ外しはもはや日常なのであまり考えずに出来る。着陸したら、今度は自分にフライをかけて飛んでグゲのもとへ近づく。私は駆け寄るってことが出来ないからね。魔力の無駄遣いな気もするけど、焦る気持ちはどうしようもない。
グゲは気を失っているようだ。それに麻痺の状態異常も受けている。さらに右足ふくらはぎがえぐられるように失われていた。出血もひどい。なんでいきなりこんなことになってしまったのか? 治癒のためグゲの足に寄ったところで、アルゴスのうめき声が断末魔になった。
「ゲゴ、周囲の警戒を頼みます。私はグゲの治療を」
「分かっていますわ。そこ!」
傷口に魔力を注ぎ込みながら、グゲの視線の先を見る。なにもないはずの場所にゲゴが攻撃魔法を撃ち込むと、なにもないはずの場所から、四足の何かが遠ざかるように飛び出した。そいつは光り輝いた四足で、四腕だった。一瞬巨大な角にも見えたけど、頭があるはずのところから人間っぽい上半身が生えていて四腕に弓矢と剣、となにかよくわからないものを持っているのは分かった。けど光り輝いているし、私はグゲの治療でそれどころではないので、あとはゲゴに任せた。




