最果て後編
「私が今語れる最果ては以上ですね、何か質問はありますか?」
ケイン砦長はほとんど何も食べず、ワインっぽいものを少し飲んでいただけで私達に解説してくれた。
「はい、今のビスマス砦はどうなっているのですか?」
「現状、モンスター共は霧の向こうへ戻っていったようで、砦は空のようです。が、霧が砦の近くまで突出してきているようで、再占領すべきかどうか今上が検討中です」
「ということはモンスターたちがなぜビスマス砦を襲ったのかすら不明なのですね」
「はい、迫りくる霧の向こうにモンスターの影が見え隠れしているようなのですが、霧の中からは出てこないようです。なので偵察兵も簡易観測所を設け、偵察を続けてくれています。定期的に伝達兵が当砦に報告しに訪れ、補給物資を受け取って任務を続けてくれていますので。その得られた情報は即座に帝都へ送られています。なお放棄が決定していた東側の他の支砦ですが、撤退は完了しているものの、観測隊を配置し、動向を伺っているようですし、レニウムやテルルででも再度管理できるようにするための部隊が温存されています。霧が突出してるのはビスマスだけのようです」
うーむ、最果てのことは霧が悪いようだけど、私は見たことないしなぁ。どう対処したらいいのかわからないな。けどビスマス砦を襲ったのは偶然なのか、そうでないかの判断もつかないんだよねぇ。霧がビスマス砦の方へ突出してるらしいから何らかの意味はありそうなんだけど。
「その最果ての霧の上の方はどうなっているんですか?」
霧ってたいがい地面近くにしか広がってなかったりするよね。空の上ならそれは雲だし。
「上の方とは?」
「あーいえ、上空にモンスターはいないのですか? ビスマス砦に来た大群にも空を飛ぶモンスターはいなかったようですし」
「そういう意味ですか。だいたい曇りがちではありますが、霧の上が晴れていることもありますね。確かに最果てから空を飛んできたモンスターは確認されていませんね」
今まで黙って食事をしていたガギが軽く手を上げて質問する。
「フライの魔法を使って霧を飛び越えていく、というのは不可能なのですか?」
「空を飛んで上から観察したという報告はあります、延々と霧が続いていて地平線まで何も地上は見えなかったそうです。ですので空を飛んで霧を超えるということは試されておりません。そもそもフライの魔法は魔力の消費が激しいらしく見える範囲で霧が切れていないなら霧の中に降りてしまうことになるという判断のようです」
「我らの魔力ならそれなりに遠くまで飛べるはずですが、霧の切れ目が見えないのなら、たしかに無謀かもしれませんね」
そんなガギの質問を聞いて、ふと思った。そういえばこの世界で空を飛ぶものって鳥とかの動物や虫ぐらいしか見たこと無いな。気球とかないのかしら。科学技術的にはあってもおかしくはないと思うんだけど。
「帝国に空を飛ぶ船とかないんですか? フライの魔法があるならそんなのがあってもおかしくはないと思うんですが」
ケインさんが珍しく目を丸くした。
「空を飛ぶ船、ですか。魔法帝国時代にはあったと聞きますが、残念ながら今の帝国には現存していないようです。少なくとも砦の長程度では知りません。それと最果ての向こうからは空を飛ぶモンスターは現れませんが、普通に空を飛ぶモンスターは存在しておりますから、それらへの対処を考えると、それなりのリスクがある乗り物となります」
皇帝陛下に聞けば持ってるかもね。けどそんなものさすがに私には使わせてくれないか。
「なるほど、ありがとうございました。最果てのことがほとんど何も解っていないことと解らない理由が理解りました」
「霧の中に完全に入ったものは誰一人戻ってこず、境界線近くまで行ったものですら影響を受けて命を落とすか不具になってしまいましたからなぁ。無謀なことはこれ以上させれませんし、するものもおりません。実際冒険者の何グループかが最果てに向かったようですがそれきりのようですしな。今は冒険者たちにも最果てには近づくな、とギルドからお達しが出てるはずです」
「民間でも霧を突破できたものはいない、ってことですね。サキラパさんが見たら何か分からないかしら」
「サキラパ師は帝国でも重要な人物のようですし、あまり危険なことはさせれませんね」
ガギに窘められちゃった。確かにそうだ。サキラパさんに何かあったら私も困るし。
「ありがとうございました。食事もおいしかったです」
「いえいえ、我らは起こった出来事に対応するだけで原因の調査までには手も考えも及びませんでしたから、とてもありがたいですよ。最果て解決のきっかけになれば幸いです」
「そうですよね、最果てのせいで帝国も大損害ですよね。得られるものと言えばヒュージアントの装甲ぐらいですし」
「ええ、そうですね、まあヒュージアントの装甲は防具に使えるのでありがたくはありますが、それのために国が消耗するのもね。巨人共はほとんど素材にもなりませんし」
「我らレニウムの後方、北側は我が帝国有数の穀倉地帯ですし、ここを最果てに抜かれるわけにはいかんのですよ」
「そういえば明日、新型ゴーレムのお披露目があると聞きましたが、どういったものなのですか?」
副砦長の一人が食事を終え、聞いてきた。
「まだ私も知らないんですよ。サキラパ師の発案らしいのですが」
「そうなのですか、護衛を兼ねて見学しても?」
「ええ、もちろんです。護衛までされてくれるのはむしろありがたいですね」
町の外で模擬戦を行うようだ。もちろんギグも万一に備えているとは思うけど、警戒する人が増えるのはありがたい。町の中ではゴーレムじゃ狭すぎるからね。
そんな感じで砦長から最果てのことを教えてもらおうの会は終わった。余った料理でデザートの類はくるんでもらってお土産にしてもらった。帰りに工房にでもおすそ分けに行こう。




