謁見
「久しいな。元気であったか」
帝国の皇帝である叔父、今の見た目は最前線のためか、親衛隊の物に似た鎧兜で覆われており、いかつい将軍のそれだけど、顔が孫を迎えるおじいちゃんのそれだった。いや、おじいちゃんっていうほど皇帝陛下は年をとっているわけではないけど、でれでれモードだ。前に会った時はここまで崩れてなかったのになぁ。
「あの……陛下? お呼びになられたとのことで参上いたしました」
私の挨拶で我に返ったのか、顔つきが以前に会った皇帝陛下の顔になった。
「ああ、すまん。気が緩むとこうだ。まだ子はおろか妻すらいない有様なのにこれでは我ながら先が思うやられるのう」
陛下まだご結婚されてなかったのか。となると私はただ一人の兄弟の子のはずだから、近い親類唯一の子どもというわけか。遠くならさすがに皇帝家なんだからいっぱい親類いると思うけどね。でも遠いと親類と言うより敵に近いのかもしれないから気を緩められない。だから私が唯一気を緩められる親族、なのかもしれない。
「今日ここに来たのは明日よりこの砦の視察のためだ。前日入りして、その空いた時間で親族に会うのは普通、だよなぁ? まあわし肝いりの特別部隊の副隊長と会うのも不自然ではあるまい?」
陛下は私と一緒に入ってきた親衛隊に目配せすると親衛隊が私に椅子を用意してくれた。陛下は私にそれに座れと手振りして玉座にどかっと座った。すごく玉座に座りなれている感じだ。親衛隊はそれで部屋を辞していった。テオン様は玉座の斜め後ろで控えて、ガギは片膝をついて私の座っている椅子の隣で控えた。
「この者……、ガギ、だったか? こやつも来たのか?」
一瞥をくれたという感じでガギを顎で指して陛下が聞いてきたので返答する。
「はい、姪としてかジュシュリの副隊長としてか、分かりませんでしたので念の為」
「お前自身で把握できておらぬのか?」
ちょっとしかめた感じの顔でそんなことを言ってくる。
「私はまだ八歳でございます。補佐役もおらず自由にできる年齢ではありません」
「む、それもそうか。すまん、つまらぬことを言った」
「ではまずジュシュリの話をしようか。ハームルから聞いたが、ヴェルフェルゴーの実などどうする気なのだ?」
なんでこっちの補給の話が陛下の耳に入っているんだ? まあいいけど。
「ガギに説明させてよろしいですか?」
陛下の許可を取ってガギにトゥン・ティタールについて説明してもらった。
「ほう、なかなか興味深いのう。ヴェルフェルゴーの実はワシが持っている北の領地の特産なんじゃ。レアなんだがあまり使い道がなくてな、在庫は山ほどあるぞ」
おお、一番心配だったものが確保できそうだ。
「あとは純金と純水だったか。もちろん見返りはもらうが、ワシお勧めの錬金術師をジュシュリに派遣してやろう。材料もほしいだけ用意してやるぞ」
おお、これはこっちで純金や純水を生産できるようになりそうだ。見返りが大きくなければいいけど。
この調子ならトゥン・ティタールを量産できそうだ。それはすなわち金属関節の重要度が上がるというわけで。
「陛下のおかげでトゥン・ティタールを潤沢に用意できそうです。つきましては馬型ゴーレムなどの金属関節の需要が極端に上がると思うのですが、ジュシュリはあまり鍛冶が得意ではなく……、またレニウムの鍛冶場もそんなに多いわけでもなく、薪やコークスなどの手配もたいへんですので」
「皆まで言わんでもいいわ。わかっておる。どうせ技術は帝国全土に広めるつもりだったのだ。こっちに来たのは次のことを伝えるためでもあってな。ようやく魔力炉の使用が議会で認められてな。素材も人員も動員可能にしてやった。なのでヒンドレー親方は返してもらうぞ。奴がいなければ帝国の鍛冶屋ギルドの舵をとれんからな」
くっ、ヒンドレー親方を失うのは痛い。まだギグを含めてヒンドレー親方の足元に及ぶ程度でも職人はまだ育っていないと報告されている。まだヒンドレー親方はジュシュリに必要だ。けど魔力炉ってなんだろう?
「ふ、リンよ、お主わかり易すぎるぞ。親方を取るな、と顔に出ておる。心配するな、一時帰還なだけだ。親方がいるといないでは本当に違うのでな。ヒンドレーからもジュシュリ残留の願いが出ておるからな。ちなみにジゾット親方からも来ている。お前のジュシュリは気に入られておるよ」
おー、そうなんだ。どっちの親方も縁がなくてあまり私は直接接触してないんだけど、ギグやゼルン、職人ゴブリンたちはうまくやってくれているようだ。
「よろしければ、魔力炉のことを教えてはいただけませんか?」
「おう、こいつの存在は他国には秘密だからな、心せよ? 真のゴーレムと同じく我が帝国の前身である魔法帝国の遺産の一つでな。その名の通り魔力で動く炉だ。こいつなら薪もコークスもほとんどいらん優れものよ。一気に大量の金属を作ることが出来る。ただし起動には膨大な魔力がいるからな。リン、お前やテオンにも手伝ってもらうぞ。正式な召喚状はハームルに持たせる」
うへぇ、また魔力枯渇を味わうのか。けど関節の材料である金属が量産できるのはジュシュリにとってもたいへんありがたい話だ。
「前に動かしたときは宮殿に務める魔法使い共が数日使い物にならんようになったらしいが、今回はテオンやリンがおるからもしかすると一日で終わるかもしれんぞ」
「ここにいるガギともう一人、私に匹敵、とまではいいませんがかなりの魔力の持ち主もおりますが?」
「ほう、そうなのか。ふむ、よし、そやつも連れてこい」
「見返りをいただけたら、と……」
「……そうだな。次の話とも関連するだろうから考えておいてやろう」
「次の話? 魔力炉以外にもあるのですか?」




