引き抜き
ガギとの話も終わり、五神官の皆もそれぞれに散っている。私には明確な役割は作らずどこにでも頭を突っ込めるようにしたので、何から始めてもいい。さてどこから始めようか。まずは私にしか出来ないこと、なんだろう?
側仕えのジーゼと護衛のザービとブゥボを連れて、砦長のところへ訪問する。もちろんすぐに砦長に合えるわけではなく、顔パスで砦長が詰めている建物に行って、しばし待つ。
普段どおりの愛想の良い、レニウム砦の砦長ケインさんが元ビスマス砦の砦長ゲントさんを引き連れてやってきた。
あ、どっちの砦長なのか言ってなかったね。まあお二人にも関係しそうだからいいか。
「お忙しいところも申し訳ありません」
「いえいえ、わざわざこちらまで来ていただいたのですから。リン姫様なら我らを呼びつけられる立場ですぞ?」
ケインさんの後ろで控えていたゲントさんがちょっと驚いていた。もしかすると私達ジュシュリの立ち位置を知らないのかもしれない。
砦長の二人が椅子に座るとすぐに飲み物が運ばれてきた。私の横には控室で休んでいていいと言うのにそばで護衛すると言って聞かなかったブゥボにも飲み物が配られた。リーゼとザービは隣の控室にいる。
砦長たちやブゥボには普通にお茶だったけど、私には果汁ジュースだった。ここでは貴重なはずだし、私もお茶でいいんだけど、子供だからとケインさんは気を使ってくれているようなので、お茶がいいとも言い出せない。幸い嫌いではないのでありがたくいただく。
「用事と言えるものなのか微妙なのですが、ゲントさんのところの、セリックさん、ローガンさん、サーチェスさんの三人をジュシュリに迎えたいのですが、どこに許可を取ればいいのでしょうか?」
砦長の二人はしばらく顔を見合わせてから、ゲントさんが答えてくれた。
「現在はまだ三名ともビスマス砦の者ですから、細かくは私ですな。私がさらに上に確認をとって、となりますが、おそらくローガンとサーチェスは除隊となるため、除隊を待つか、ビスマス砦の編成も私の砦長という役目を含めて解隊となりそうですから、その後だと手続きが楽かもしれません」
「ビスマスは再編成になりそうなのですか。となると奪還はなさそうだということですね」
「さすがはリン姫様です、話が早い。冬が迫っておりますから、動くに動けないでしょうな。こちらはまだ暖かい方ですが、帝都の方には雪がつもりますので補給が遅れがちになりますし、【最果て】も冬になると何故か攻めてこなくなりますし」
こっちはケインさん。
そうなんだ。それはいいことを聞いた。数ヶ月力を貯めれそうだ。
「それとローガンさんとサーチェスさんが除隊というのはやはり四肢を欠損したからですか?」
「ええ、そうなりますね。兵士としての要項に外れてしまうので、恩給をもらって除隊となるでしょう。軍にとって有益な能力を持ち、本人が継続を希望すれば除隊後に再雇用となります」
ちゃんと恩給もらえるんだ。こういう世界では何の保証もないと思い込んでいたよ。けどこれはこれでいいかな。恩給もらって除隊して自由にするのか私達のところへ来てもらうか、本人の意思で決めれそうだ。少なくともすぐに餓死するようなことにはならなさそうだから選択の余地は二人にもあるはず。私のところへ来たほうが将来的には楽になると思うけど、判断するのは二人だ。
「セリックは有能な衛生兵ですからいなくなるのは惜しいですが、ビスマス隊は解隊のようですから、こちらからは何も言えませんな。解隊する前に上に申請しておけば上の命令としてジュシュリに割り振られるかもしれませんから、申請してみてはどうでしょうか? まあこれも本人に確認をとって希望すればスムーズに行くかと思います」
なるほどなるほど。これはハームルさんに無理を言わねばならないようだ。
「私達ビスマスの者たちは、ジュシュリに、ということはリン姫様に命を救われた者たちですからな、私を含めてジュシュリに迎え入れられるのは嬉しいことでしょうから、リン姫様が誘っていだければ全員、ジュシュリに入ることを希望すると思います」
そう言って、わざわざ席を立って、ゲントさんは私に頭を下げた。
あ、そういうことになってしまうのか。考えてなかったよ。恩を押し付ける気はなかったんだけど、ゲントさんたちビスマスの人たちは恩に感じてくれているようだ。……亡くなったゴブリンたちを思うと複雑だけど、助けられて本当に良かったと思う。もちろんその恩を利用する気はない。けど今は人間の人員が欲しいと思っているところだったからお互いに都合があいそうな人は採用に動こう。
「そうなのですね。私どもジュシュリも人員を募集しようと思っていたところでしたので、募集要項を先にゲントさんのところへ送るようにさせていただきます。ゲントさんはビスマスの方に伝えてもらえますか?」
「ええ、喜んで」
ゲント砦長、最初に顔を合わせた時は微妙かな、と思ったけど存外面倒見が良い人みたいだし、撤退時も活躍してたし隊の人たちも従っていたし、評価をもっとあげても良さそうだ。けどゲントさんができそうなことってジュシュリにあるかな? まー要項作りは後の話だ。
「あとは【最果て】について分かってることを聞こうかと思っていたのですが、期間が空くのでしたらまた今度にお願いしようかと。その際はちゃんとアポを取ってからにしますので、どうかよろしくお願いします。突然の来訪に対応していただき、ありがとうございました」
「まだお若いのに本当にしっかりとしておられる。よほど教育が行き届いているのでしょうな。もちろん歓迎しますのでお待ちしておりますよ」
あ、しまった。この年齢ではやりすぎていたか? けどこれがガギの評価につながるならいいか。




