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死生観

「ガギに残ってもらったのは、聞きにくいことを聞くためです。ガギであれば私がなぜ聞きにくいのかを知っているからです」

私の長い前置きを静かに聞いているガギ。たぶん聞く内容も分かっているんだろうな。そのための準備というか聞き込みもすませているはず。ちなみに側仕えや護衛たちには人払いを済ませている。


「今回の出撃で何人のゴブリンが死にましたか?」

震えながらもなんとか声を絞り出して、つまることなく言うことが出来た。ガギは冷静な目で私を見つめながら答えてくれた。

「今私が把握できているのは六名です。ゴブリン四名、メジャーワーカー二名です」

「六名も、ですか……、私の命令のせいで……」


「リン姫様」

ガギは普段とは違う冷たい声で私を呼んだ。


「出撃前も進言いたしましたが、我らの死のことはお考えくださるな。あなたは人ですが、今はゴブリンの姫なのです。……どうか、お慣れくださるよう……」


「今回、私が名前を知っている者は全員生き残っていました。これが死者の中に含まれていたとなれば、私は正気でいられたかどうか……」

「それは我らゴブリンとて同じことです。我らとて悲しみます。ただここで死んだのはたまたまそういう役割だった、と考えているだけです。彼らは死ぬことで我ら生き残った者に大事なものを受け渡してくれたのだと」


前世で、人間が殺された場合それを深く悲しみ、時に殺した相手を恨むのは、明確な天敵がおらず、死が不慮の出来事であるため理不尽に感じるからだ、という説を聞いたことがある。そう考えると、生態系的に比較的弱い部類に入るゴブリンは、殺されるのは当然の出来事であり、いちいち悲しんで止まったり殺した相手を恨んでいたりしていては、生き残った者も危ういから、かもしれない。死を軽く受け止めるしか無いのだ。


「我らは体が死ねば魂が我らのもとに戻ってきて、我らを見守ってくれる、という思想を持っています。殺されたものは食われることが多かったので体に拘ってはいけないのです。それが我ら、ゴブリンと人の中間であるハイゴブリンの神官が導き出した結論です」


精霊信仰と祖先信仰が合わさったようなものだろうか? ゴブリン神官団も名目上のものだったので、神官というところはあまり考えていなかった。ガギたちは確かに神官だ。


「そう、ですか。覚悟はしていたつもりだったのですが、思ったより人数が多くて……。でもガギの言う通り、慣れないといけませんね」

「はい、それが指導者というものの責務です。多数を生かすために少数を殺す判断を戸惑ってはなりません。個人であればその判断は冷酷と言えるのかもしれませんが、指導者は多数を殺してはいけません。全体で生き残ることを考えねばならないのです」

普段より厳しい顔つきをしているガギが淡々と私に教えてくれている。私はそれを引き受けたのだから受け止めなくてはならない。


「ただ、リンが指導者となったのは私の考えによるものです。友人の残した子を救うためにはこれしかなかった。ですからせめて慣れるまでは私も共に受け止めましょう。なんなりと申し付けください」

あんな厳しいことを言ったあとに、こんな優しい言葉をかけてくれるなんて……、何だよこのイケメン!? いや知ってたけどさ。確かにガギは人間の価値観で見ればイケメンそのものだけど、中身もね。

私が転生者でなく本当の子供だったらこれでころっといってしまいそうだ。そしてガギにさらなる負担をかけてしまうのだ。しかし私は二度目の人生を送っている転生者だ。これはガギですら知らないことだ。どうもこの小さな体に引きずられて中身も子供っぽくなってしまっているのは認めざるを得ないけど、ここはなんとか踏ん張らないと。元大人としては。


「ありがとうございます。ガギ。貴方に出会えて、私の側にいるのが貴方で本当に良かった。貴方がいなければ私はとうに死んでいたことでしょう。貴方に報いるために、貴方が私を据えてくれたジュシュリの指導者として、今後も頑張らせていただきたく思います。どうかもうしばらく私を支えてください」

そして私はせっかく得ることが出来た第二の人生を、第一の人生のように消費するだけに終わらずにいたい。……本音をいえばもう少し楽しませて欲しい、生きるということを。前回の生は幸せであったとは思うけど、何かを成す前に逝ってしまったからね。恋もほとんどしなかったし、正直遊び足りていない。お父さんやお母さんには不出来な子で申し訳なく思うしか無いけど、こっちでは次死ぬ瞬間には私は生きた!と誇れるぐらいのことはしておきたい。

今の私にできそうなことといえば、もっともっとゴーレムを改良し、ジュシュリや帝国の生活を改善すること、かな。元の世界の楽さを知っているから、及ばないまでも追いつこうとしたい。それは多くの人の助けにもなると思うし。となれば【最果て】についても、なんとかしたいものだ。どんどん魔物を送り込んできて帝国に負担をかけているし、直接的にも被害を受けている。【最果て】をなんとかできれば、私の二度目の生も誇れるものになるのは間違いない。けど私はまだ【最果て】のことを何も知らない。ゴーレムの件と並行して、【最果て】に関する調査もしていかなければ。

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