朝の打ち合わせ
ビスマス砦撤退支援の次の日の朝、皆と情報を共有するためにあえていろいろ質問した。
「そういえばグゲ、あなたが戦ったというヘカトンケイルとはどういった魔物だったのですか?」
ジュシュリにいた頃は滅多になかった汁物をすすりながらグゲが答える。私達だけのときならそれでもいいけど、一応人間のマナーも教えておいたほうが良さそうだ。
「はい、リン姫様、今まで出てきた巨人の中でもさらに大きい、大変不気味な巨人です。上半身から腕と頭が不規則に生えているような感じの姿をしておりまして、そのくせ強大な魔法を使用します」
私は口の中の物を飲み込んでから発言する。
「魔法ですか。ガギの撤退につながったとの報告もありました。今までに魔法を使う魔物はいませんでしたよね」
魔法の専門家といえるゲゴが今度は答えてくれる。
「いえ、今までも一部のケンタウロスが魔法のようなことをやってきたことはありました」
そうなんだ、ただの雑魚だと思ってたけど魔法使える個体もいたのか。
「魔法に関しても教えてもらえますか? 私も学べるならいろいろと学びたいですし」
「ケンタウロスが使ってきた魔法はストーンバレットがほとんどです、一体だけエネルギージャベリンを使う個体を見たという報告があった程度です」
何その魔法、聞いたこと無い。
「エネルギージャベリンは簡単に言えば衝撃力に変換された魔力を相手に投げつける魔法です。見た目は派手ですが効率が悪いため、めったに使う機会はないものです」
「そうなんだ、名前の響きはかっこよさそうなんだけど」
素直な感想が思わず出た。
「見た目も格好良いといえば良いので、士気高揚のために使うのはありかと」
ガギがぼそっと言う。一瞬ゲゴがガギを睨んだ、気がした。
「要領はゴブリンに魔力を分け与えるあの方法と同じですのでリン姫様なら容易に使いこなせるかと。ただ威力は姫様のストーンバレットに劣ると思われます」
あーあれか。ゴブリンたちがつけている仮面に魔力を飛ばして供給する儀式をジュシュリに迎え入れられてから真っ先に覚えさせられたものだ。あれのおかげで魔力操作が得意になったし、ジュシュリの魔法使いが帝国をも上回っている理由の一つだ。帝国、人間の間ではそのような魔力のやり取りは受け継がれていなかったみたいだから。
それに素のストーンバレットなら私のも他とそう変わらない。私のはイメージによって変化させてるから強いのだから、そのエネルギージャベリンも変化させたら強いのでは? 衝撃力に変換といってたし、それを貫通力とかにも割り振れば強くなりそう。
「フライと一緒に今度教えて下さい、グゲ」
また一瞬ガギを睨んだうえにいやそうな顔をしたように見えた。普段冷静で表情をあまり出さないゲゴにしては珍しい。
まあいいや、次に行こう。
「次にギグ、だいぶと大型ゴーレム三号機は傷ついていましたね。何があったのですか?」
「はい、ケンタウロスに剣を持った個体がおりまして、攻撃を避けた際、偶然に右腕への魔導線を切られてしまったのです。その時のは偶然だったと思いますが、その後その個体は魔導線を狙ってくるようになりまして、苦戦してしまいました。思えばケンタウロスの剣などゴーレムなら体で受け止めてもさしたるダメージにはなりませんから、避けるのではなく受け止めるべきでした。しかしながらその後狙ってきましたのでその個体にはゴーレムの弱点が露見したかと思われますので今後注意が必要かもしれません、あ、もちろんその個体は倒しておりますが」
ふむ、魔導線が弱点なのは最初から把握していたけど、狙われだすとやっかいだね。あとは下手に避けなくてもいいように装甲化もした方がいいのかな? 重量が増えて必要魔力も関節へのダメージも増えるからなぁ。
「魔導線をどうにかしたいとは常々考えておりました。今の所内部に埋め込む程度しか思いつきませんが、加工の手間が大変でしょうから躊躇しておりましたが、大型には採用してもいいかもしれませんね。埋め込めば魔導線も太くできるでしょうし」
「そうですな、素体作り担当としては避けたい案件ではありますが、自分がそれでやられておりますからなぁ」
「はい、お願いします。魔導線の代替技術としての無線化も考えてはいるのですが、現状では厳しいでしょうし。何か技術的なブレイクスルーがあればいいのですが」
ゴガが手を上げた。今回も出番があまりなかったはずのゴガだけど、なんだろう?
「帝国では魔力をそのまま飛ばす技術を研究中だと聞いております。なんでもそれで遠距離でも会話できるようにとのこと。帝国の技術にあたってもいいかもしれません」
おお?! 携帯電話?! 確かもともと軍事技術の通信の応用、というかそのままだっけ? 今は伝書鳩みたいだし、携帯電話ほしいよね!
「技術協力を申し出てもいいかもしれませんね。ゴーレムの技術と交換でもいいです。ガギ、検討をお願いしていいですか? ありがとうゴガ、とても有益で思っても見なかった情報でした」
「あと三号機のせっかくの金属関節がもうバカになりかけています。今は木製関節同様樹脂などで整備してますが、ここにトゥン・ティタールを使えば魔力を流すだけでいいので、総必要魔力量は増えるかもしれませんがメンテナンスがいらなくなるかと思っています」
三号機を操るギグの言葉だ。
おお、再生するという特性はそこに使うのね。
「なるほど、金属関節がバカになるたびに交換とかじゃコストも整備時間も馬鹿になりませんし、強度の問題も出てきますしね。それに三号機に使えるなら馬型ゴーレムにも使えるでしょうし、今のように足ごと交換とかしなくてすみますね」
そうなのだ、牽引をする馬型ゴーレムの金属製足の摩耗は激しく、樹脂などでは短い時間しか持たなくなって、結局足ごと交換という効率の悪いことを今はしている。金属製足を量産できるようになったからのゴリ押しだ。それがメンテナンスフリーになるならどれほどコスト、時間的なものも含めて、助かることになるか。トゥン・ティタールの製造原価次第では全面的に採用したいところだ。
「ああ、それとギグ、三号機の方で忙しいかと思いますが、人間用の義足と義手の開発にもかかってもらえますか?」
「人間用の義足、義手ですか? 義足の方は姫の義足の応用でなんとでもなるかと思いますが、義手ですか」
「ええ、すぐに入用になると思います。それと義手も二号機の魔法投射用の副腕の構造でいいと思っています。あと実際の制作ははゼルンにまかせて構いません」
「二号機のは実験用の試作だからということで手間暇かけて作ったものですから、あれの量産は難しいと思いますよ。足よりもずっと複雑な動きができるように自由度をあげないといけませんから」
「そこなんですが、帝都から来ている木工職人のジゾット親方と鍛冶職人のヒンドレー親方にも相談してみてください。特にジゾット親方はパペットも作ったことがあると言っておられましたので」
「おお、そうなんですか、分かりました。この食事を終えたら早速伺ってみたいと思います」
ギグは職人だけあって、新技術が大好きだ。ジュシュリにいた最初の頃は生活用の道具しか作る必要がなくて退屈していたとも言っていたぐらいだし、乗り気で取り組んでくれると思う。
そろそろ皆食べ終えてきたようだ。私ももう満腹だ。
「では今朝の集会はこれまでということで。話す時間がなかったのでガギは残ってください。他の皆さんはどうか頑張ってください」




