撤退
しばらく緊急性の高い重傷者の癒やしを終えて、少し休憩に入った。残りは今すぐ命には関わらないという話だったのと、また私の魔力が尽きてきたためだ。タブレットの効果ももう切れてるみたいだし。ジュシュリにいた頃にこんなに重傷者が出たことはなかったから自分の限界知らなかったんだよねぇ。
魔力回復のための休憩と言っても寝てないといけないというわけでもないので、ガギの見舞いに行く。
すでにガギは目覚めていて、座っていた。
「ガギ! 大丈夫なのですか?!」
「ああ、リン姫様。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
ガギのそばに座る。
「いったいどうしたのです? ガギほどのものが」
ガギは五神官のリーダーとして他の神官の知識もある程度持っている他、魔力や武技も専門に迫るほどの力を持っていたはず。魔力だって私やゲゴに続き第三位の力を持っていたはず。それが枯渇とか何があったんだろう?
「【最果て】からやってきた本隊にはヘカトンケイルという不気味な巨人がまじっておりました。やつは強力な魔法の使い手でもあり、コールライトニングという魔法を放ってきました」
もしかするといきなり砦の塔が爆発したのはその魔法のせいか。
「たいへん広範囲に落ちてきたので私は結界魔法であるフォースフィールドに自分の体力を削って生み出した魔力をも注がないと防ぎきれなかったのです。その結果、魔法による被害は完全に抑えましたが、私は急激な魔力の消費とともに体力をも大幅に失ってしまったので気絶してしまったようです、精進が足りませんでした」
これはゴブリンたちの集団に雷が落ちてきてそれを全て防ぎきったということなのだろうか。もしガギがそうしなければ多数のゴブリンたちがその場で命を失っていたかもしれない。
「いえ、ガギはよくやりました。ジュシュリの姫として感謝します。ありがとう」
ガギの手を握って頭を下げた。人目もゴブリン目もあるので、この程度しか出来なかった。ガギは珍しく目を丸くして驚いたあと、優しく微笑んだ。
私はもう魔力がほぼ枯渇してなんとか義足が動かせる程度のただの子供になってしまったので、怪我をしたゴブリン全員に声をかけて回った。
しばらくするとレニウム砦から補給部隊と支援部隊が送られてきた。こちらは食事も持たずに出てきていたので助かった。支援部隊はレニウム砦に敵本隊は来ずビスマス砦に向かったのが確認されたため砦の多くの戦力が来てくれたらしい。支援部隊は最前線に早速向かってくれ、補給部隊は物資を下ろしてからビスマス砦から脱出してきた兵士たちを乗せて先にレニウム砦へ帰還していった。支援部隊にもゴブリン語が話せる兵士が何人か混じっていたことは確認してるけど念の為ローガンさんには残ってもらった。マーギルさんには伝令に行ってもらっているし帰ってきたら知り合いが一人もいなかったってのは心配になるだろうから。
食事が用意され食べ終わったところで前線から皆が引き上げてきた。まず重傷者がゴーレムに乗せられていち早く戻ってきた。医療技術を持った者によると、重傷とは言え命に関わる者は少なく二名とのことで、その二名を運んでいるゴーレムに乗り込んですぐに癒やしを施した。魔力が厳しいので完全に癒やすことは出来なかったけど、薬草でなんとかなるレベルにまでは二人とも癒せて命の危険はなくなり、魔力もぎりぎりなんとかなった。
他の重傷者も先に戻ってきていた重傷者と同じような処置をしていった。補給部隊が来てくれていたので薬草もたくさん在庫があったので余裕で対応できた。その後は軽傷者にも手当を行った。軽傷者にはギグとグゲが混じっていた。グゲ、負傷したと聞いてたけど軽傷だったか、不幸中の幸いだった。最初から戦場にいたギグもグゲも負傷していたので戦闘がどういう状況でどうなったのかは聞けなかった。ただゲゴの消耗しきった顔を見るとかなり苦戦したのが伺える。ラキウスも真っ先に私のところへくることはなかったのでよほどなのだろう。
帰還してきた戦闘用牛型ゴーレムの数が少なかった。帰還した術者によると、二機ほど破壊されたとのこと。それの術者は無事逃げおおせたらしい。良かった。牛型ゴーレムならいくらでも作れるが、術者はそうはいかない。
あと大型ゴーレムもかなり酷使したようで、三号機は右手が動かなくなっていた。どうやら関節がバカになってきている上に魔導線を一部切られてしまったようだ。ゴーレム最大の弱点がこれだ。魔導線を切られると魔力が行き届きにくくなり、消費魔力が極端に上がってしまうのだ。ギグは無理に右腕を動かさないという方法で魔力を抑えたようだ。普段は右に持っているはずの大きな斧を左腕で持っていたし。
二号機も結構傷ついていた。特に格闘用主椀の掌の指が欠けてたりバカになってしまっているようだ。かなり敵を殴ったんだろうな、と想像できる。余裕があるときならダークネスインパクトという魔法を使って殴るのでそこまで傷まないのだが、使用魔力を抑えるために直接殴ったのだろう。格闘用ではあるけど物を持つのにも使うからここは改良の余地がありそうだ。
ちなみにゴブリンたちに戦死者を弔う文化はない。なのですでに死んた者は回収しないので数が減るだけで死者が誰なのか把握しにくい。あとで聞き取りなどをして誰が死んだのを見たとか、死んだから置いてきたとかを調べないと上には誰が死んでどれだけ減ったのか把握できない。
今はそれほど減ったようには見えないのでそんなにバタバタ死んだわけではないと思うけど、幾人かは死んでしまっている感じもする。嫌な確認だがゴブリンでない私にはしなくてはいけない、把握しておかなければいけないことである。




