休憩
すでに馬車を追いかけてくるものはいないものの、なるべく早く戦線から離れるために森の中をすごいスピードで駆け抜けていく。一応道があるからなんとかなっている感じだ。しばらく駆けていると遅くなった。馬の限界が来たようで、だく足程度の速度になった。けど今危険があるわけじゃないから無理に急がせて馬を潰すわけにはいかない。
それでもしばらくだく足で進んでいくと、ゴーレム陣地が見えてきた。ゴーレム部隊はだいぶと進んできてくれたようだ。しかし馬が大型ゴーレムを怖がっているようで止まってしまった。
「仕方ないここで休憩させてもらおう。皆降りろ」
ゲント砦長がそう判断した。すると馬車の数人が飛び出していった。彼らは馬の世話役だったのか、馬車にぶらさげていたバケツに魔法で水を注ぎ、馬に与えていた。あれだけの距離を全力で走ってもらったんだものね。
ゲント砦長とラキウスが私のところまで来た。私一人では体が小さすぎて降りることもままならないのでダモンさんやロドリゴさんにも手伝ってもらいながら最終的にはラキウスに抱えられるように降りた。ゴーレムが駐機しているところからはギグが走ってきていた。
「ご無事でなによりです、リン姫様」
「ありがとう、ギグ。じきにガギたちが戻ってくると思いますので、念の為ゴーレムを前進させてもらえますか? 私達は馬を休めないといけないのでここで待機しておきます」
ギグが即応してくれる。
「分かりました。おいお前ら前進だ。牛型は四機だけここで守れ。残りは前に行くぞ。二号機と三号機も持っていく。一号機は下ろしておけ」
馬がゴーレムに怯えるので一旦森の方へ草を食べにいってもらい、ゴーレムたちが前進していく。今回はプロトタイプ牛型ゴーレムは持ってきていないので一号機に抱き抱えてもらって、ガギたちが戻ってくるであろう方向に陣取るために移動する。私の周りには戦闘用牛型ゴーレムがすでにジャベリンをセットした状態で控えていて一緒に歩いてくる。
思い思いに休憩していたビスマス砦から逃れてきた兵士たちは、興味深げにゴーレムを眺めている。量産型の牛型は見たことあったかもしれないけど、戦闘用の牛型や大型は初めて見るはずだし。
一号機を進めていると、休憩しているローガンさんとセリックさんを見かけたので声をかけた。
「大丈夫ですか? 傷は痛んでいませんか?」
二人とも立とうとしたのでゼスチャーで座ったままでいるように言う。
「えと、リン、姫様? 我々は大丈夫ですが。あの、失礼でなければ、そのお足は?」
同じ馬車に乗っていたし、今はゴーレムに座っているのでどうしても足が見えるよねぇ。その足が木製にしか見えなかったら、確かに気になるよな。
「気にしなくていいですよ。はい、私もサーチェスさんと同様に右足を失っていて、今は義足をつけています」
「え? やはり義足?! しかし義足とは思えないほどしっかりと歩いておられたような……」
結局サーチェスさんはローガンさんの肩を借りて立ち上がった。
「だからレニウム砦についたらジュシュリまで来るようにゲゴが言ったのですよ。ちゃんと調べないといけませんがたぶんサーチェスさんにも私と同様の義足をお贈りできるかと。あとまだ作ったことはありませんが、ローガンさんにも自由に動かせる義手をお渡しできないか、考えています。……来てくださいますよね?」
「は、はい! もちろんであります。命ばかりか腕や足までお与えくださるなんて……まるで聖女様のようだ」
ローガンさんが嬉しそうに言う。けど、聖女様は、その、やめてほしい。
「私は聖女ではありません。いいですね?! 私はただのジュシュリの姫です」
自分で自分を姫というのも恥ずかしいけど、対外的にもここははっきりと言っておかないとね。それに聖女様と呼ばれるのは色々とまずいし。
「あ、はい。リン姫様は姫であり聖女様ではありません」
なんかすごく言わされている感じで二人とも返事した。
「二人をどうするつもりなのですか?」
ラキウスがすすっと近づいてきてそんなことを聞いてくる。
「二人に義手義足を渡して、自分たちでメンテナンスできるようにしたいなぁ、と」
ぽんとラキウスが手を打つ。
「なるほど、今リン姫様の足のメンテナンスが出来るのは姫様ご自身とゼルン殿だけですからね。あの二人も自分たちのためになるなら熱心に習得してくれるでしょうし。人間の技術者は結局帝国に戻ってしまいますものね」
「そういうことです。善意だけではなく打算もあるのです」
ラキウスがにやにやと笑う。むー?
「まあリン姫様は完全に善意のみでしょうが。打算など取ってつけた感満載ですよ?」
むむぅー。この短期間で私の性格を完全にラキウスに見抜かれている。距離感が絶妙なんだよな、この人。皇帝である叔父に気に入られるわけだ。魔法の腕も一級品みたいだし、そりゃ親衛隊に取り立てられるわけだ。……まだ知らない相手だと緊張する癖は抜けてないみたいだけど、知っている人に対して無敵すぎる。
とかなんとかやっていると、ビスマス砦の方向からなにかが飛んできた。




