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逃げるが勝ち

出ていく時、歩哨をしていたクァータさんにセリックさん一人だけじゃスムーズに準備できないだろうから中に入ってセリックさんを手伝うようにお願いした。ラキウスがいたらここの砦では大丈夫だろうし。


ゲント砦長が会議室で待ってくれていた。

「お帰りなさいませ。兵士はどうでしたか?」


「幸い命は救えました。しかし欠損まではいかんともしがたく」

「そうですか……、ですが命が助かっただけでも幸いと言えましょう」


「馬車は二両、装備を脱げば全員乗り込むことも出来ますので脱出には馬車を使います。ですが装備をしないことになりますので接敵すると詰みますので有志のみ武装して徒歩で追いかけようと思うのですが」

「いえ、すぐ近くにジュシュリの戦闘部隊がおりますし、その後ろにはゴーレム部隊もおりますので脱出の速度のみを考えてください」

ラキウスがにこやかに別の話を振ってきた。


「あと兵士から猫も連れて行っていいか?という問い合わせが」

「無駄に暴れないならいいですよ」

「良かった。兵士たちも喜ぶでしょう」


「ゲゴ殿には外で待っているジュシュリへ伝言をお願いしたく。戻ってくる時間も惜しいのでゲゴ殿が出発してから十分後に脱出を開始しようと思います」

ラキウスがゲント砦長を差し置いて全部説明してしまった。まあゲント砦長もうなずいてるからいいか。

「今全力で準備させておりますので、今しばらくお待ち下さい」


しばらく待ってると食事が出てきた。準備を終えて待っている兵士が置いていく食料がもったいないからと簡単な料理をして持ってきてくれたようだ。私達もレニウム砦を出発してから結構時間経っているのに何も食べてないからおよばれすることにした。パンと焼いたソーセージも入っている生煮えの野菜スープ、チーズと干し肉だった。……パンも干し肉も硬すぎてまともにかじれない。同じメニューを出されたゲント砦長やラキウスを見てみると、スープに浸してから食べていた。ああ、そのために生煮えだろうとスープがあったのか。急いで作ったものだし仕方ないね。私やゲゴも見習ってスープにつけて柔らかくしてから食べることにした。


知らない兵士が会議室に入ってくる。

「準備完了しました。皆も武装解除し、西門へ集まっております」

「分かった、すぐに行く」


ゲント砦長は一気に食事を終えた。残ってたパンと干し肉を全部スープに入れて、かきいれた感じだ。こちらはさすがにそれは真似できないので残飯入れに残したものを捨てた。もったいない気もするけど食料を残しておいてもモンスターに荒らされるだけだしね。武器や防具もおいていくのだから食料ももっていけないし。


「これで数日食べなくても私は大丈夫ですぞ。では参りましょうか。ゲゴ殿、連絡の方よろしくお願いします」

ゲゴはうなずいて、自分に魔法をかけて、会議室の窓から飛んで行った。ここから十分後に脱出だ。ゲント砦長とラキウスと共に西門へ向かう。


今はお昼過ぎ、脱出には厳しい時間帯だけど相手はモンスターだから夜が有利ってこともないかもしれないし、いつ敵の本隊が迫るかわからないから、なるべく急がないと。

私はラキウスの操るニ台目の馬車の荷台に乗ることになった。ゲント砦長は一台目の馬車の御者を引き受けるようだ。何の装備も持たない兵士たちは全員荷台だ。左足を失ったサーチェスさんがセリックさんの肩を借りて、片腕を失ったローガンさんとクァータさんとともにやってくる。


「お前たちが最後だな、早く乗り込むといい、中の奴らは手を貸してやれ」

二人の兵士が二台目の馬車から飛び降りて二人と私が乗り込むのを手伝ってくれる。私はともかく、まだ手足を失ったばかりでバランス感覚がなくなってしまっているようで、手伝いがいるのだ。

「よし、ダモンとロドリゴ、それにクァータ、お前らに西門を開けるのを任せる。合図をしたら開けて、馬車に飛び乗れ」

おりて手伝った兵士にゲント砦長が命令する。


門の向こうが騒がしくなってきた。ジュシュリのゴブリンたちが門の周りにいたモンスターに襲いかかってくれたのだろう。

「もうすぐ十分です。出ます! 門を開けろ!」

三人の兵士が協力して閉じていた門を開けた。すぐにダッシュで馬車に駆け込んできた。


それを確認してからゲント砦長が再び声を張り上げる。

「敵は少ない、突破するぞ!」

ラキウスも馬車を走らせる。ちゃんと前の馬車についていっているようだ。親衛隊ともなると馬車の御者も出来るようだ。後ろの様子を伺っていると、凄まじい音がして雷が砦の塔に落ち、塔が爆発した。

え? こんなときに雷?! まさか敵の攻撃?!


サイクロプスが両断されているすぐ近くを通り過ぎる。近くにグゲがいてくれたようだ。後ろから駆け寄ってこようとするケンタウロスは私の特製のストーンバレットの魔法で退ける。念の為、門を開けて乗り込んできたロドリゴさんやクァータさんに馬車から転げ落ちないように体を支えてもらいながら。


ストーンバレットの魔法は、本来はただの石つぶてを敵にぶつける魔法なのだが私のイメージにより名前通り石で出来た弾丸を高速発射する魔法になっている。元の魔法と比べて貫通力と弾数が大幅に上がっている。貫通力があがったのはケンタウロスにはむしろマイナスなんだけどこの特性のおかげでヒュージアントにはたいへん良く効いた。今回は散弾モードで放っている。今まではヒュージアント、すなわち虫が相手だったので大丈夫だったけど、さすがにケンタウロス相手だと気分悪くなるな、これ。まー向こうが襲ってくるんだから仕方ないんだけどさ。


走る馬車に並走する形でゲゴが飛んできて、ついてくる。護衛してくれるようだ。


敵の薄かった囲みを抜け、ジュシュリのゴブリン隊が伏せていた場所を駆け抜け、砦から離れ、森の中へ入っていく。

再び大きな音がして西門が崩れ去った。今度ははっきりと巨大な雷が西門に落ちるのが見えた。誰か巻き込まれていないだろうか? 私達は無事脱出できたのだから、ゴブリンたちにも早く撤退してほしい。


「今のは戦術クラスの攻撃でした。大丈夫だとは思いますが、ガギたちを支援しに行きたいと思います」

グゲが寄ってきて珍しく大声で報告してきた。

「分かりましたー、グゲも気をつけてー!」

私も負けじと大声で返すとグゲは急速に離れていった。

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