救出作戦
本当に一時間で準備が完了した。ジュシュリは本当に優秀だな。
生身の馬車部隊とゴーレム兵団を分ける。五神官たちは生身側だ。大型ゴーレムは馬型ゴーレムが動かす馬車で前線に運んでもらう。省力化できていない大型ゴーレムでも搬送の準備ぐらいはハイゴブリンででも出来る。
馬車に乗り込んだのはゴガを除く五神官と私、それと村でゴーレムがない時に防衛で活躍していたメジャーワーカーのゴブリン兵士たちがメインだ。五神官や私のそれぞれの護衛も乗り込んでいる。あとはハイゴブリンやゴブリン神官の魔法使いたちだ。馬車四台で連れていける最高の戦力だと思う。御者の人も強い人ばかりだった。
「では私達は先に出発します。順次ゴーレム部隊を送り込んでください。ゴガ、任せましたよ」
見送りに来てくれたゴガに馬車の上から頭を下げる。
「承知いたしました、リン姫様、お任せください」
「待ってください。僕も連れて行ってください」
急に声がかけられたと思ったらラキウスだった。ラキウスたちは帝国から派遣された技術者なのでもちろんこの救出部隊には組み込まれていない。
「皇帝陛下よりリン姫様をお守りするよう厳命されております。どうか僕にも手伝わせてください」
あーやっぱりそうだったか。ちょっと抜けてるところがあるとはいえラキウスは親衛隊に取り立てられるほどの腕前だ。魔法技術の方もかなり優れているとゲゴからの報告もあった。
「分かりました、ラキウスにもついてきてもらいましょう」
途中邪魔が入ることもなく、かなり飛ばしてきたので通常八時間かかると言われている距離を三時間程度で進むことが出来た。
ビスマスの砦が見える位置まで来たけど、確かに砦付近にまでサイクロプスが闊歩していた。西門を破ろうとしている様子も見える。この様子だと不幸中の幸い、門を破られて砦の中まで荒らされているようではないようだ。見たところモンスターたちも本気で砦を攻略しようと必死になっている様子にも見えない。本隊が近づいているからだろうか。
「幸い空を飛ぶモンスターはいないようなので魔法で隠れながら空を飛んで救出部隊の接近を砦に知らせてまいります」
【魔術】のゲゴがそう提案してきた。
「わ、私も連れていけますか? もし緊急の治療が必要な方がいたら私が行った方がいいと思いますし」
「それならば僕もついていきます。少女と女性のハイゴブリンよりも信用されやすいかと」
ラキウスものってきた。言われてみればそうかもしれないので三人で行くことにした。
「では砦の中はリン姫様とゲゴ、ラキウス殿に任せます。我らはいつでも脱出の手伝いが出来るよう準備しておきます。ゴーレム兵団の方はできるだけ前進させておいて、すぐに我らを向かい入れる体制に出来るよう指示を出しておきます」
ガギの指揮に任せることにする。
「ヴェールをそれぞれにかけます。リン姫様は確かフライはまだでしたね。レビテーションをお願いします。ラキウス殿はフライ使えますよね」
ゲゴが囁く。ラキウスも小さな声で返した。
「ではボクがリン姫様を抱えますね。ゲゴ様はヴェールの維持に注意を払ってください」
すぐにヴェールの魔法がかけられたようで、もうどこにゲゴやラキウスがいるのか分からない。不意に後ろから手をかけられたので軽く悲鳴をあげてしまう。はやくレビテーションをかけないと。
レビテーションをかけた瞬間体が軽くなり、持ち上げられた。さすがに触っているとヴェールの効果も及ばないようでラキウスが私をお姫様だっこしているのが分かった。瞬間ラキウスが飛んだ。あっという間に地面が離れていく。下を見ているとグゲやメジャーワーカーたちが突撃をいつでもかけれるように配置場所に移動していくのが見えた。
誰にも、門の周りを囲む壁の上で防衛をしていた兵士にすら気づかれず、砦に侵入することが出来た。そのまま壁に降り立ち、ゲゴがヴェールを解除する。
突然現れた私たちに防衛していた兵士がパニックになりかけたけど、なんとかおさえて事情を説明し、ここの砦長を呼んでもらうように頼んだ。待っている間、抜けた兵士に代わって防衛のため攻撃魔法を外で門を攻撃してくる敵に撃っておく。ゲゴとラキウスの同時攻撃に私の分も含めてなので門を攻撃していた敵を一掃出来た上、付近の敵はびびったのか門に近づかなくなった。時間稼ぎが出来たようだ。
「誰が来たというのだ?」
先程砦長を連れてくると行って壁から降りていって兵士がなんだか偉そうな人を連れて戻ってきた。
「こんな状況で誰が援軍にくるな……、あ……」
偉そうな人がこちらを見て絶句していた。私もゲゴもこの砦には来たことがなかったので相手も私達のことは知らないはず。
「なぜ親衛隊の方が……? お前ら頭を下げろ」
自らも膝をおって跪く偉そうな人、慌てて周りの兵士もこちらに跪く。
「兵士は防衛を。貴方がこの砦の砦長ですね?」
ラキウスが私達の前に出て、偉そうな人に問うた。近くにいるから分かるけど若干膝と声が震えている。事態を丸く順調に収めるために無理をしてくれているようだ。
「は、私がビスマス砦の砦長、ゲントでございます。皇帝親衛隊の方がなぜ?」
「私は陛下の命により、今はここにいる独立部隊ジュシュリの長、リン様に付き従っている。そのリン様自らがお前たちを救いたいとおっしゃってくれたのだ」
ラキウスが一歩ひいて、私の横に並んだ。私に話せということだろう。一歩前に出る。
「私がリンです。レニウム砦の斥候がこの砦に今【最果て】の大群が押し寄せようとしているのを発見しました。おそらく誰にも、この砦を維持するのは困難だと判断したので、脱出の準備をお願いします。……あと今すぐ治療が必要な兵士はいますか?」
ゲント砦長は目を丸くしていた。独立部隊ジュシュリのことは報告に入っていただろうけど、たぶん私のことまでは入っていなかったのだろう。誰も部隊のトップがこんな子供だとは思わないだろうし。
「おい、副長も会議室に呼んでこい」
砦長を呼んできた兵士は今度は副長も呼びに行かされた。
「親衛隊の……、お名前を伺っても?」
「ラキウスだ」
「ラキウス様、それとリン様とお付きの方もどうかこちらへ。案内します」
門をちらと見たけど未だに取り付こうとしている敵はいないようで、しばらくは大丈夫そうだ。




