ゴーレム解説
「その気持ち悪いものはなんだ?」
皇帝陛下が、プロトタイプ牛型ゴーレムを指差して聞いてきた。
「ああ、これは初期型の牛型ゴーレムにどう発展させていけばいいのか試行錯誤した結果のものでして、私が便利に使わせてもらっています」
プロトタイプは牛の頭はついているものの、角の代わりにそこから腕が生えているし、体の横にもサブアームがついているので、これを牛だと認識しろというのも確かに厳しい見た目になってしまっているからね。まあこのプロトタイプのおかげで尻尾の位置に腕をつけるのが最適と分かったからそれだけでも有用だったんだけど、頭部に二本の腕があるのが私を抱えて荷台に乗せるのが便利すぎて実質私の乗機になってるものだ。ちなみにプロトタイプにも尻尾腕はついている。
また私専用機になりつつあるのは、これの操作ですべての腕を使いこなせるのは私だけだったからってのもある。これはたぶん私が元の世界で機械というものを知っているから生物にはあり得ないものでもそういうものだと割り切れるからだと思う。まだ仮説だけど。実際牛型がなぜ牛型かというのもそれが理由だったりするし。馬でないのは馬がジュシュリにいなかっただけだ。
「こ、こんなものも動かせるのか?」
ゴーレムマスターだと名乗ったディラングだっけ? その人が聞いてきた。
「はい、慣れればいけますよ」
私も最初は戸惑ったけどすぐに動かせるようになった。けど他のハイゴブリンは普通の牛型と同じようにしか動かせなかった。頭から生えた腕やサブアームは満足に動かせないのよね。
「牛型が有用なのは分かった。この人型はどうなのだ?」
「はい陛下。人型、私どもは大型と呼んでおりますこれらは、土木作業用として最初は開発されました」
私が椅子代わりにして座っているゴーレムを撫でながら。
「私もゴーレムは使えますが、最初はこの子たちに作業をさせようかと思いました」
またどよめく。やっぱり私はこの世界では非常識だったようだ。発想からして違うみたいだしね。
「しかしさすがに魔力がきつくて、他の方法がないか考えている時に私の実家でパペットを見つけたのです」
皇帝陛下には私の事情は話してあるけど、魔法使いたちは知らないだろうから適当にはしょりながらあったことを説明する。
「ゴーレムを見ると魔力が均一に広がっていましたが、関節部に特に集中していました。すなわち関節で多くの魔力が消費されているのだ、と思いました。そりゃそうですよね、曲がるはずがない石を無理やり魔力で曲げているのですから」
そう言いつつ、一号機を操りながら座っているゴーレムも動かして、一号機に移る。すでにガギはゴーレムへの魔力供給は切っているのでゴーレムは私が離れるとすぐに元の小さな石に戻った。
一号機の私が座っていないもう片方の腕を皇帝陛下の前にゆっくり伸ばす。ハームルさんが少しだけ反応したけどそのまま見送った。
「御覧ください。一号機の関節は一般的なパペットと殆ど変わりありません。しかし実際に動かすことが出来るので動かすのには最小限の魔力だけでいいという理屈です」
私は一号機の腕をパンパンと叩く。
「それにこのようにずっと体も存在します。体の維持にも魔力を使うゴーレムより魔力を使わないのは当然でしょう。むしろ真のゴーレム、もその仕組みですよね」
「そうだ。すでに石像という形でミカエルは存在しているから、あの巨体であっても私は動かせるのだ」
ディラングさんは自慢げに返してきた。けど実際自慢していい魔力量だと思う。その自慢の巨体の質量を支える関節に魔力を注いで維持できるのなら。
「素晴らしい魔力量、制御力だと思います。しかしディラング様のような方は少ないと思います。この大型はそれなりに大きいですが、消費魔力量は驚くほど少ないのです。そして大型が人型なのは制御のしやすさですね、牛型が牛型である理由と同じです。指も五本ではありませんがありますので器用ですよ」
一号機は三本指、親指人差し指と他の三本をまとめた指となっている。小指も独立させようかと思ったけど、そこまで凝らなくてもちゃんと握力は出るかな、と思ったので。
「しかし問題点もあります。パペットは宙に浮いて紐で動かすだけですので関節が緩くなる、いわゆるバカになっても問題ないですが、大地を踏みしめている大型はそうではありません。重いのですぐにバカになってしまいました」
皇帝陛下はうんうんとうなずいている。ちゃんと理屈として理解してくれているようだ。魔法使いたちは……理解してくれているの一部かなぁ?
「そこで関節の仕組みを変えたり樹脂を使ってバカになりにくくしています。今三号機では関節に金属を使うとどうなるかテスト中です。ジュシュリでは製造技術の未熟さ、素材の悪さから手間の割に良い結果は得られてませんが、帝国の力があれば良い結果がでるかもしれません」
「ふむ、なるほどな、この人型、戦力としてはどうなのか?」
鋭い目で見ながら皇帝陛下が質問してくる。
「はい陛下。これは実戦結果ですが、ヒュージアントの頭であれば一撃で割れます。また専用の木槌を使えば大型の身長の半分の長さの杭を有効な深さまでニ回叩くだけでいけます。一番良い結果を出すのは専用ジャベリンの投擲でヒュージアント程度ならオーバーキルなほどの威力を出せます。この大きさですのでジャベリンといってもちょっとした丸太のような太さですし」
「使い方は難しそうだがうまく使えば大きな戦力となりそうだな」
「はい、今は人体に近づけるべく、なるべく多くの可動部を用意していく予定です。三号機で実装した体をひねるという動きが予想以上に良好な結果が出ておりますので。あと量産に向いた設計も模索中です」
皇帝陛下はそれを聞いて実際にパンチを腰を使わずに繰り出すのと腰を捻りながら出すのとでは全く違うのを確認してうなずいた。
「なるほど、確かにそうであるな」
「よろしい、ではリンよ。商売の話をしよう。お前たちは他のものたちから教えを受けておけ、いいよな? リン」
「はい陛下。ギグ、それとクットゥー、あとゼルンも、皆さんに説明してあげてください。あ、ガギはこのまま私の横にいて」
クットゥーは次期【魔術】のゲゴの青年ハイゴブリンだ。
ガギはやれやれといった仕草をしているけど顔は嬉しそうだ。
ギグたちの方は重機の講習会?みたいな雰囲気になっている。発想が違いすぎて多くの魔法使いたちはついていけていないようだけど、ここで取り返してほしいものだ。私は皇帝陛下自らと商売のやり取りらしい。ガギがそばにいてくれないと怖くて仕方ないよ。




