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ゴーレムとは

皇帝の自室を出たあと、執事風の人にガギとともに案内されながら会話をする。

「ガギ、私のこと知ってたみたいだね、どうして先に言ってくれなかったの? すごくびっくりしたじゃない」

「リン様に先にお伝えすると、気後れし、いろいろと拒まれるかと思いましたので」

ガギがにこりともせずそんな事を言う。……うう、確かに知っていたらそもそも帝都行きすら了承していなかった気がする。

「ハームルさんもそうなの?」

「はい、ハームル殿には私が口止めしました。ついでに砦に入る前の癒やしの件も口止めさせています」

そのあとになんか呟いた気がするけど聞こえなかった。

執事風の人が振り返り、扉の向こうで止まった。ここに入れということらしい。案内された場所にはジュシュリの皆が揃っていた。パーティーって感じじゃないけど立食の形で食事が振る舞われていたようだ。


「おかえりなさい、リン様、ガギ」

さっそく【技巧】のギグと【言語】のゴガ、そして私やガギの側仕えたちがやってくる。


「ゴーレムたちは別のところへ駐機させています。誰も入れないと言われておりますが、念の為見張りを立てて、魔法で封じております」

次期グゲの青年ハイゴブリンも報告してくれた。


「少なくとも皇帝陛下は信用できそうだから見張りはなくしていいよ、今見張ってる人食事にありつけなくて可哀想だし」

わかりました、と元気に返事する次期ゲゴ。彼はゲゴの元で私と一緒に魔法を学んでいた人なのでそれなりに仲がいい。


「ふぅ、さすがに緊張したよ。彼はそうしようと思えば我らジュシュリなどあっという間に滅ぼせる人間だからね。しかしリン様のおかげで無事、味方にすることが出来たようだ」

ガギがにこやかに宣言する。周りからもおおっという声があがる。いや、私としては流れにのっただけで何もしてないんだけどね。


「とりあえず我らの出番は明日以降だ。今日は安心して寝るといいぞ。皆は腹は膨れたのであろう? 私とリン姫様はまだなのだが?」

にこやかにガギが笑いながら言うと、慌てて側仕えたちが料理を持ってきてくれる。ガギが冗談を言うなんて本当に緊張していたようだ。

そんな中私に椅子を持ってきてくれるデゥズにはほんと助かる。元々デゥズはゴガの側仕えだったのだけど、いろいろあって私の側仕えに相応しいとして配置換えで私の元へ来てくれた恰幅のいい女性ゴブリンである。

彼女の気遣いは本物で私も頼りっぱなしなところもある。

「ありがとう、デゥズ。足はまだ大丈夫だから」

もう動かなくてもいいという状況なら義足を外すところだけど、立食形式だし、寝る場所はまた別だろうから、外さないほうがいいだろう。


せっかくなので皆で楽しく食事をした。驚いたのはちゃんとゴブリンたちのための背の低いテーブルにきれいに切られた生肉や生魚、そのままのフルーツなどもちゃんとあったことだ。ゴブリンへのもてなしも理解しているとはさすが皇帝のお膝下といったところか?


その後、各自部屋に案内されて寝た。ちゃんと護衛や側仕えが主人のために動けるようになっているところだった。たぶんここ貴族用の部屋だよ。貴族待遇してくれるのか、ありがたいです。執事風の人もゴブリンのことよく理解してるみたいだし。


次の日身支度して、ゴーレムを駐機しているところへ案内された。ざっと見たところなにかされたとかそういうのはなさそうだ。封印の魔法も異常はなかったらしいし。良かった、こんな状態で皇帝を疑うとかしたくないしね。


各自自分のゴーレムを点検していると、皇帝とハームルさんが魔法使い風の人たちを数人引き連れてやってきた。こちらも一応、跪いて出迎える。


「よいよい。さてさっそくだが説明してもらおうか。お前達ジュシュリのゴーレムを」

「はい、ですがその前に共通認識を取りたいのですがよろしいですか?」

「む、それもそうだな」

皇帝陛下がうなずいてくれた。


「ありがとうございます、ではガギ」

ガギが進み出て自分の目の前に石を置き、呪文を唱えた。するとその石が大きくなって人型となった。私が近づくとその石の人型が私を片手ですくい上げた。普段大型ゴーレムに乗って移動する時の姿勢だ。


「陛下の前で失礼します。私達はこれを普通のゴーレムだと認識しているのですがよろしいですか?」

「お主は足が悪いからな、ずっとそのままでよいぞ」

皇帝陛下から許可が出たのでしばらくこのままでいよう。


「いえ、我々のいうゴーレムはこれとは違います」

そう言ったのは皇帝の後ろに控えていた魔法使い風の一人だ。

「私は帝都防衛魔法団のゴーレムマスターを務めております、ディラングと申します。我らのいうゴーレムとは街の防衛を担う巨大な石像のように見えるものであり、そちらは簡易ゴーレムです。まあ簡易といっても使える者はごく一部ですが」

「ふむ、そうよな。帝都のゴーレムはミカエルだったか?」

「はい、陛下。すでに失われた魔法により建造された帝都の象徴ミカエルこそがゴーレムでございます」

「分かりました。では便宜上、ゴーレムというのはそちらのいう簡易ゴーレムを指す、ということでお願いします。そのミカエルは真のゴーレムとかで」

いちいち簡易とかつけるの面倒くさいので、そう提案した。

ディラングと名乗った魔法使いは不服そうだったけど、皇帝は了承してくれた。


「では、このゴーレムに対して、こちらの木製のゴーレムたちは名付ければパペットゴーレムというものです。見ての通り、最初から形を持っており、パペットのように関節もあります。ゴーレムは術者もしくは魔力供給者が接触あるいは接触するほどの近距離にいないと直に魔力切れで元に戻ってしまいますが、パペットゴーレムは接触、もしくはこの制御棒を持てば、つながっている魔導線の長さまで離れることも出来ます。また魔力使用量もゴーレムとは比べ物にならないほど省力化しております。これは形の維持や制御に魔力をほぼ使っていないためです」

おおおお、と魔法使いたちからどよめきが起こる。


「まだこちらの私達が大型と呼んでいる人型ゴーレムはまだまだ発展中であり、改良の余地はたくさんありますが、こちらの牛型ゴーレムはかなりこなれてきております。すぐにでもゴブリンにでも動かせるようにしたいと考えています」

魔法使いたちは皇帝の前であるということも忘れているようで、

「ゴブリンだと?」

「ゴブリンの魔力はかなり少ないはずだ」

「ゴブリンに制御させようと思うほど使用魔力が少ないのか」

などと口々に言い出した。

「諸君、気持ちは分かるが陛下の御前だぞ」

ハームルさんが一声かけるとどよめきはぴたっと止まる。


「しかもこの牛型、実際の牛よりも運べる荷物量が多いのだ。これがどういう意味を持つか、諸君に分かるかね?」

ハームルさんが続けて魔法使いたちに問う。代わりにやってくれて助かる。

「はあ、それは運べる量が増えていいですね」

魔法使いの一人が気の抜けた返事をした。


「なるほど、これは素晴らしいな。この牛型を使えば補給の概念が変わるぞ?!」

さすがは皇帝陛下。ハームルさんが村にいた時に言っていたことに気づいたようだ。

「はい、さすがは陛下です。君たちも魔法使いである前に上級兵士なのだから、もう少し軍略などに関心を持ちたまえ、せっかくの頭脳が持ち腐れだ」

「牛や馬は大量の荷物を運べるが、食べる量も多いのだ。故に長距離になればなるほど持っていける荷物は減るものだ。しかしこの牛型であれば魔力があればよいのだろ? 牛や馬にも一匹につき一人御者がいるのだ。実質積み込んだ荷物をそのまま全て遠距離まで持っていける、ということだ」

皇帝が答えを語ってくれた。


「さすがは陛下。まさにそのとおりです。荷物運びにこれほど優れたものはないと思っております」

実際のところ私の元の世界の車よりすごいところがあると思っている。車よりは遅いけど、車は燃料という特別な荷物がいるからね。

「もちろん無限の距離を運べるというものではありません。適時関節のメンテナンスを行わなければ消費魔力がどんどん増えてしまいますので。それでも五日の距離を移動してもそこまで消費魔力は変わらなかったというのが実証されております」

再びどよめく。

「しかしすぐに全ての牛や馬と置き換わるものでもありません。関節や魔導線に使う素材がやや希少ですし、関節の生産や維持には技術もいります。また走らせると荷物が安定しない上に関節へのダメージが大きく推奨できませんので速度では勝てないでしょう。これも今後の研究次第ではありますが、現時点では」

あと瞬間的なパワーは動物には敵わないと思う。それと車で言うサスペンションに当たる部分がまだ未実装だから乗り心地も悪いのよね。歩かせ方に気を使えばだいぶとましにはなるけど走らせたら無理だし。

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