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皇帝との対話

皇帝自らに案内されて部屋に入った。皇帝の私室かな? そんな豪勢な部屋に案内された。さすがに皇帝とだけ会うというわけにはいかないようで、皇帝の両後ろ脇に立派な鎧姿の兵士が二人立っている。


「こやつらはワシの親衛隊じゃ、口は堅いゆえ、いないものとして話してくれて構わない」

兵士をじーっと見てると皇帝がそう話しかけてきた。成り上がった皇帝は有能だけど、受け継いだ三世以降の皇帝は無能って相場だと思うんだけど、この人は有能っぽい。少なくとも私の視線だけで私が何を考えているのか分かったようだ。


「ちょっといろいろあってな。自由に動けるハームルに当時の第二皇子、ワシの弟だな。それの捜索を命じておったのだ。そうしたらハームルめは弟はすでに死んでいたが、忘れ形見がいると言ってきおった。ワシとしては会いたいよなぁ? いや、今更迷惑なのは分かっておる。故に便宜を図ろうと思っておったがそれもそんなにいらぬ様子だな」

泣きそうな顔でそんなことを言ってくる。ガギが小さく手を挙げた。ぴくっと後ろの兵士が反応する。うーん、優秀な人たちだ。


「大変言いにくいことなのですが、リン様は幼少の頃のご記憶を病にて失っておられます。またおそらく同じ病にて右足を失っておられます」

皇帝は思わず椅子から立ち上がった。

「なんだと! し、しかしさっきしっかり歩いておったではないか」

「義足を付けています。陛下。失礼します」

そういって私は右足のズボンを少しめくりあげる。たぶんはしたないとか思われかねないけど、実際に見てもらうのが一番早い。

靴下の上に現れた木製の義足を見て、皇帝は納得したようだ。ちゃんと動揺するけど立ち直るのも早い。でも初めて会った姪の足が失われていることを知って動揺してくれるんだ、と。優秀で人間味があるってことかな。


「そうか……だから先程……、苦労したようだな」

「ですが、ガギに見つけられた頃からの記憶しかないのですが、それよりはこのガギのおかげで苦労はしておりません。ガギやジュシュリの皆のおかげでこうやって義足も得られましたし、好きにさせてもらえました」

皇帝は目を細めてこちらを見る。自分の血族の者を愛おしむ目にも見えるし、こちらを値踏みする目にも見える。今までの言動を見る限りどちらにも見えるから、けっこうやっかいな人だなこの叔父。

「……そうか。弟の教育がよかったのか年齢の割に成熟しておるのだな。それならば安心した。現実の話をしよう」


今までは前のめりに座っていた皇帝は姿勢を変え、背もたれにゆっくりともたれかかる姿勢に変わった。

「ハームルの報告なので間違いはないと思っておるが、証拠を見せてほしい。あるようだが?」


「はい、まずはこちらを。アンドリュー様が私に残した手紙です」

ガギが懐から丸まった羊皮紙を取り出す。進み出た親衛隊の一人が受け取り、見分したのち、皇帝へ渡す。

「むむ、確かに弟の字のようだな……。しかしこれだけでは……」


「はい、こちらはその手紙とともにあった箱でございます」

ガギが次に出したのは小さな箱だった。これ確か中に指輪が入っていて、つけたことあるよ! いわくありげだったけどその直後にあれこれあって有耶無耶になってたやつだ。


再び親衛隊が受け取り、箱を開け、中の物を取り出し、皇帝へ捧げる。やっぱりそれは指輪だった。皇帝は指輪をとってじっと見たあと、控えていたもう一人の親衛隊に渡した。

「スティーブン、つけてみよ」

あの指輪すごく輪が大きいのにはめるとぴたっと吸い付くようにサイズぴったりになるんだよな。

けど、スティーブンと呼ばれた親衛隊は指輪をつけてもぶかぶかのままだった。

「陛下、これでよろしいでしょうか?」


「ふむ、良い。では返せ」

皇帝は返してもらった指輪を他の指輪がついていない指につけた。今度は私の時と同じように吸い付くようにサイズ合わせが起こった。

「なるほど、本物らしいな。では娘、これをつけてみるがよい」

スティーブンでない方の親衛隊が指輪を受け取り、私に渡す。すでに一度試しているのでこちらも普通に付けてみる。前と同じようにサイズ合わせが起こった。


「おお、この指輪は我が血族にしか身につけれぬ魔法の指輪だ。刻まれておったものを見る限り、弟のものであったわ。これでほぼ間違いなく娘、お前は我が血族だと認められる。娘よ、我が姪よ、名前を聞かせておくれ」

「陛下、私は記憶を失ってしまいましたので本来の名前ではないかもしれませんが、今はリンと名乗っております」

「そうか、リンか。リンも良き名よ。先程現実の話と言ったな。ここからが本題だ」


ということはこの確認は本当に念の為だったってことか。

「リンよ、そなたの父、我が弟アンドリューは行方不明になってから廃嫡されておる。私とリンは確かに叔父と姪であり血族だと認められるが、もはやお主にこの宮殿には居場所はない。こればっかりは私にでもどうしようもしてやれぬ」

とても悲しそうな顔で言ってくれているけど、そんなの期待してないし、ジュシュリを放ってはおけないから、陛下には悪いけどどうでもいいと言えばどうでもいいことだ。


「しかしリンよ。お前は聞けばゴブリンとともに新しいゴーレムを開発し、活用していると聞く。ハームルによると非常に有用なようだな。今のままでは皇帝としての私では何もしてやれんが、叔父としてなら、一人の有力貴族としてならお前に協力してやれると思う。今まで放っておいて何を言うのか、と思うかもしれんが、どうかなにかさせてくれぬか?」

いろいろな可能性が広がった気がする。これはうかつになにか言えないな。と考えていると、それも皇帝にとっては答えだったようだ。


「ははっ、やはり聡明な子よなリンは。今すぐ答えなくて良いぞ。そなたたちのゴーレムの話もせねばならぬしな。帝都を離れる前に答えてくれるとありがたいが、いつでもいいぞ。そういえばガギだったか? リンの母親は誰なのか知っておるのか?」

「はい、陛下。八年ほど前、アンドリュー殿がジュシュリの地へお越しになられました時、傍らにはエルフの女性と赤子であったリン様がおられました」

え? まじで? エルフ? 私の耳、ゴブリンみたいに尖ってるからおかしいとは思ってたんだけど、もしかして私ハーフエルフだったの?


「アンドリューのやつめ、どこでエルフの娘などを射止めたのだ。してそのエルフ、リンの母親はどうした?」

「はい、アンドリュー様の石灰化したご遺体を発見した我らはアンドリュー様の自宅へ参りました。なるべく近寄るなと言われていたので普段は交流はありませんでした。自宅では右足が石灰化した状態でリン様が、その傍らには石灰の塊がありましたので、それがおそらく……」

「なるほどな、それでリンを保護したのだな。叔父として感謝する。のう、ガギよ。弟は、アンドリューは幸せだったのかね?」

「普段交流はなくとも、たまに偶然会うことはありました。幸せだったかと思います、陛下」

「そうか……、リンだけを残していくのはけしからんが、そうか」

皇帝は涙目になっていたけど涙は流さなかった。


皇帝は立ち上がって私をお姫様だっこした。

「へ、陛下?」

「この場でぐらいしか叔父として振る舞えぬのだ、勘弁せよ、リン。これで叔父と姪の面談は終わりだ。次は一貴族とゴブリン部族の首領として会おうではないか」

そういって皇帝は私を部屋の出口まで運んでくれた。

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