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帝都へ

襲撃を退けた次の日の朝、ハームルさんとともに帝国の帝都へ行く日になった。ゴーレム関連の話をするということであったのに【魔術】のゲゴは留守番でゲゴの代わりに彼女の弟子である次期ゲゴがくることになった。あとは【技巧】のギグ、そして彼らの通訳として【言語】のゴガ、そして【口伝】のガギを伴うことになった。大型ゴーレムも全部持っていくので戦力が落ちてしまうため、グゲは砦で居残り、そして【魔術】のゲゴが砦に残り私の名代として頑張ってもらうことになった。


正直私とガギが同時にジュシュリを離れるのは心配ではあるが【魔術】のゲゴなら大丈夫、だろう。彼女の魔法の腕前は本物だし、下のものに慕われているのも見ているし。

他に付き添うのは私やガギ、ギグ、ゴガの護衛と側仕えの者、それと牛型ゴーレムの術者ハイゴブリンである。例外としてゼルンも私の側仕えとして付いてくることになった。足のメンテナンスも向こうでしないといけないしね。持っていくものは大型ゴーレム三機、プロトタイプ牛型ゴーレム、運搬用牛型ゴーレム、戦闘用牛型ゴーレム二機である。戦闘用牛型ゴーレムが二機なのは、ジュシュリで作って持ってきたものと砦で素材の補給を受け新たに製造したもので性能の差が出たからである。関節に使う樹脂がジュシュリ産のものより帝国産の方がより馴染んだようで、あらゆる面で性能が上がったためだ。また初めて長距離を行軍したために出てきた従来型の不具合を修正したバージョンでもあるから。


集合場所は砦の真ん中にある中央広場だった。なんで門じゃないんだろう? それに正装で来るように言われてたし。旅じゃないのか、ということは。

遅れてハームルさんもやってきた。ハームルさんも正装だし馬にすら乗ってない。これはいよいよあれか。この世界にはあったんだ。ハームルさん以外にも荷物を満載した馬車が数両ついてきていた。もちろんそれに従う兵士も何人か。


「いやいや、遅くなりました。お待たせして申し訳ありません。彼らは補給部隊のもので、相席させてもらいます」

私は大型ゴーレムに抱えられた姿勢で手を振って挨拶の代わりとした。降りようとしたらハームルさんに止められたので。


「では皆さん、ここに描かれてある円の内に入ってください」

ハームルさんが皆に声をかけてくる。こちらは護衛の一部がはみ出ているだけでだいたい入っていた。荷馬車が入ってくると円の中の空間はギュウギュウになった。円の中心にあった私の元の世界の公園にある水飲み場みたいなものにハームルさんは持っていた球を置いた。

皆が入っていた円の中の地面に一瞬で複雑な魔法陣が出現した。ジュシュリの皆が焦る。私だけが予想できていたので余裕、と思ったらガギも予想できていたようで顔色一つ変えていない。帝国の補給部隊兵も表情は変わってない。彼らにとっては日常なのだろう。


「では飛びます」

ハームルさんがそう言った直後、見えていた景色がほぼ廃墟と化した町中ではなく、槍をもった兵士たちに囲まれた空間になった。

やっぱり転移か。転移あるのか~。便利そうだなぁ。


「レニウム砦定時補給転移に便乗して第四軍将軍付き参謀ハームルが任務として要人をお連れした。連絡は来ているであろう?」

この空間の出口であろう位置に立っていた周りの兵士よりも豪華な鎧を着た人が顔色一つ使えず受け答えした。

「承っております。お帰りなさいませ、参謀殿」

「少々大荷物でな。場所は確保されているだろう?」

「もちろんでございます。このものが案内させていただきます」

受け答えしている人の後ろに控えていた使用人の格好をした人が進み出てくる。

「こちらへ。皆様もそのままで構いません」


案内の人にたぶんここで野外パーティーを開いてるんだろうなというような広くて整えられた広場にハームルさんとともに案内された。土が柔らかいからおもいっきりゴーレムの足跡がついてるけど、案内されたんだからいいよね。

「こちらでしばらくお待ち下さい。乗り物に乗っている方は降りていただけると幸いです」

なんだろう? 私はてっきり帝国の技術者か魔法使いとあって話をするものだと思っていたけど、相手存外位の高い人?


降りて待っていると。

「陛下、お待ち下さい」

と言われながら兵士に追いかけられている豪華な見た目なおじさんがこちらに走ってきた。頭に王冠らしいものをつけている。えー。


「ひかえよ」

なんとか追いついた兵士がおじさんの前に立ってそんな事を言う。ハームルさんは真っ先に跪いたけど、別に相手が帝国の陛下と呼ばれる人であっても私達は臣民でもなんでもなくそもそも言うことを聞く必要もないと思ったけど、この考えはこの世界では危ないかもしれないと思い直し、利き足ではないんだけど左足を前にして跪いて頭を軽く下げることにする。ジュシュリの皆も私の様子を見て、真似してくれた。さすがは皆の側仕えに護衛だ。こっちはけっこう考えてひかえたのに、当のおじさんは笑顔で手を振った。


「よいよい、膝が汚れるではないか」

しかしひかえろといった兵士はまだこっちを睨み付けてくる。

「ワシが良いと言っておるのだ。睨むのやめい」

「しかし陛下」

兵士はなおも抵抗しようとしたけど陛下のいうことに従わないことこそ不敬だよなぁと思ってたらじきに折れた。


「ほれほれ、皆のもの立つがよい」

ジュシュリの者たちは動揺しているようだ。そりゃそうだ、こんなの私だってどうしたらいいのか分からないよ。けどたぶん立ち上がったほうがいいと思って、勢いよく立ち上がろうとして蹌踉めいてしまった。義足でこんな姿勢とったことなかったからなぁ、とか倒れていくなか考えていたら急に誰かに支えられた。


「し、失礼いたしました」

支えてくれたのは陛下だった。それなりに距離あったと思ったんだけど一瞬でこっちまで来て支えてくれたようだ。

「よいよい、当然ではないか、お前はワシの姪なのかもしれんのだから」


「え?」

なにそれ? 聞いてないんですけど? どういうこと? ここにはゴーレムのことについて話をしにきたのでは?


「レザント帝国皇帝陛下、発言をお許しいただけますか?」

ガギが一歩前に出て発言する。あーやっぱりこのおじさん皇帝陛下なんだ。

「良い、許す、しかしその前に名乗りたまえ」


私を立たせながら先程からの発言とは打って変わった威厳のある声で許可する。


「ありがとうございます。私はゴブリン部族ジュシュリを治めていた五神官筆頭ガギと申します。陛下にはご幼少の頃、何度か皇弟殿とともにお会いしたことがあります」

「はて? ワシにゴブリンの知り合いなど……、おお、もしかするとお主、あの坊主か。まだ【最果て】が迫ってない頃、避暑地で会うた緑色の子供か?!」

「はい、今はガギの名を受け継いでおりますので名が変わっておりますが、その緑色の子供だった者です」


「おう、あとでおじいさまに聞いて驚いたから覚えておるわ。あの避暑地の近くにはゴブリンの部族がおってそことは同盟を結んでおるから避暑地周りを任せておる、と」

私を立たせたあと腕を組んで聞いていたおじさんこと皇帝陛下は懐かしそうに目を細めていた。おじさんにとって良い思い出のようだ。

「話は長くなりそうじゃの。娘とガギ、二人だけワシの部屋へ参れ。他のものは別室にてゆっくりしてもらおう。これ」

皇帝はハームルさんを呼びつけ、もてなしをするように命じた。


うーん、ここで皆と別れるのはなんだか心配だけど、ギグとゴガに任せる他ないようだ。私はといえばゴブリンに姫認定されたと思ったら皇帝の姪だったという状況に。なんだこれ? 頭が混乱してはっきり物が考えられなくなった。

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