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レニウム砦防衛戦

南門の広場には小型の投石機が三台ほど並んでおり、投石の準備が行われている。投石機があるなら専門の観測兵もいると思うので、指示はより的確になるだろうから、良かった。


壁の上の櫓にいる兵士によるとすでに【最果て】からやってきたモンスターの前衛は投石機の射程内に入っているという。大半は巨人としては小型であるサイクロプスだけど、サイクロプスより大きい、イオデンと呼ばれる肌が赤い双頭の巨人も混じっているらしい。他は前にもいた猫科の猛獣の下半身をもつ上半身猿のケンタウロスとヒュージアントがちらちらいるだけらしい。数としては前回より少ないけど、そのイオデンがやっかいなんだそうだ。サイクロプスには単眼という明らかな弱点があるけどイオデンは体も大きく頭が2つあるため、一つ潰しても致命傷にはならないそうだ。


ケンタウロスは砦で籠城する限り、無力でヒュージアントも垂直な壁を上るのはその重さから苦手なようで、そこまできつい相手ではないそうなので巨人たちを主に攻撃することにする。的も大きいし。


投石機が発射し始めた。観測兵の指示に従っていて命中弾も出ているようだ。皆には投石機の軌道を真似てジャベリンを投げるようにしてもらった。距離は先程の投石機の軌道にあわせ標準はその射程にいるイオデンの位置を指定してもらう。


全弾命中とはいかないまでも見事一斉射でイオデンを一体倒したようだ。私のゴーレムが投げた特殊ジャベリンは少々外れたところに落ちたようだ。ギグの特殊ジャベリンはちゃんと命中位置に落ちたらしいのに。


ゲゴは自分の大型ゴーレムをレビテーションの魔法で浮かび上がらせ壁の上に設置していた。制御棒から伸びている魔導線ぎりぎりだ。魔法を投射するには術者が姿を晒さないといけないらしい。そういった意味でも魔法投射用大型ゴーレムの存在価値はあったようだ。


砦の中からでも見える背の高い炎の柱が敵がいるだろう場所から立ち上がる。グゲが使ったのはファイアピラーという魔法で、その炎の柱が立ち上がった周辺は炎の嵐に巻き込まれるらしい。だから炎の柱が見えた場所にはしばらく攻撃しなくてもいい、ということみたいだ。直撃させれればイオデンですら一撃で倒せるっぽいけど、さすがに壁越しでは直撃は難しそうだ。しかし周辺への炎の嵐だけでもケンタウロスなら一発で、ヒュージアントも瀕死程度にはいけるようだ。


それなら、と私とギグはゲゴが魔法を打ち込んだ逆側あたりに特殊ジャベリンを打ち込む。ギグは見事イオデンに当て、私のは至近弾だったようだ。しかし今回投げた特殊ジャベリンは弾頭付きである。着弾した時点で大爆発が起き、直撃したものはもちろん、周辺にも大きな被害を撒き散らしたはずだ。当然その爆発音は砦にも響き、皆が動揺し始めた。音のことまで考えてなかった……。


慌てて近くにいたハームルさんに説明する。

「あの爆発音は我々ジュシュリのゴブリングレネードです。砦の皆さんにも音は気にしなくていいと伝えてもらえませんか?」

「え? あれがゴブリングレネードなのですか?! いえ、はい、分かりました」

一瞬、驚いた顔をしたハームルさんがすぐに顔を引き締め砦長のいる方向に走っていった。


私のいた世界と違うから爆発音なんか聞いたことないんだろうな。私も普段聞く機会はなかったけど想像はつくものね。

観測兵によると敵も爆発音に驚いたのか進軍が止まったらしいし、チャンスだ。がんがん指示通りにジャベリンやゴブリングレネードを投げ込んでいく。

しばらくして敵が引いていくと報告があった。遠い地点から撤退していったので追撃は不可能とのこと。グゲの出番はないようだ。


今回、私達ジュシュリが防衛に参加したので、遠距離攻撃が充実した砦の被害は壁や門にサイクロプスの投石を受けた程度でなしといっていいみたい。

敵撤退の報があったとき歓声があがった。壁に取り付けた敵はゼロだったらしい。こんな楽な防衛戦は初めてだとのこと。

砦の投石機も役立ったけど、やっぱりジュシュリの攻撃が良かったらしく、砦長自らがハームルさんと各隊長らしい兵を引き連れて、私のところまで挨拶に来てくれた。


「ありがとうございました。リン様たちジュシュリの皆様のおかげで我らは被害なく【最果て】を追い払うことができました。今までであればあの数のイオデン、かなり苦戦したと思われます。しばらくジュシュリはこの砦にご滞在していただけるとのこと。ご滞在の間、ご協力をお願いしてよろしいでしょうか? もちろん補給などは優先して回させていただきますゆえ」

砦長が思いの外、食いついてきた。まあそれもそうか。砦の兵士もジュシュリの者たちも双方それほど危険な目に合わせずに敵を撃退できたのだから。

「ええ、詳しいことは後に話し合いませんか? それよりも私はパーティーの続きが気になります」


砦長はそう切り替えされるとは思ってなかったのか一瞬驚いた顔をしてから破顔した。

「ええ、ええ、そうですね。追加で料理を用意させようかと思います。また先程は念の為兵士たちには飲酒を禁じていましたが、それが幸いしましたし、今度は飲酒もありで。ああ、リン様には関係のない話かもしれませんが、五神官方はお喜びになられるかと」

ガギの方を見ると、ガギはうなずいた。

「ここしばらくはジュシュリに余裕はなく酒造はしておりませんでしたが、豊かであったときはしていたといいます。飲み過ぎなければいいのではないでしょうか? 特にグゲなどは鬱憤がたまっておるでしょうし」

確かに結局戦闘の機会がなかったグゲはすねている感じだし。


ジャベリンの回収は牛型ゴーレム部隊に任せて、パーティに再び参加した。私の周りのテーブルには見たことのない料理やお菓子が並んでいた。給仕役によると、多くの兵士たちが自分たちの秘蔵の食材を提供してくれたとのこと。贅沢品として個人で持ち込んだものばかりだそうだ。蜂蜜とかジャムなどはなかなか補給では手に入りにくいものらしい。それらを私達のために分けてくれたのだ。その中にはお酒らしい瓶やタバコが入った小さな箱などもあった。タバコを吸っているゴブリンは見たことないけど、五神官で唯一のおじさんである【技巧】のギグがひたすら懐かしがっていた。先々代のギグが吸っていたそうだ。


その日は夜遅くまで五神官とハームルさん、砦長や隊長たちと歓談と今後について話しながら食べまくった。パーティーに参加していないジュシュリのゴブリンたちにも特別食が砦の兵士同様に振る舞われたそうだ。この調子ならゴブリン達も人間と一緒にやっていけそうだ。少なくともこの砦にいる人たちとは。

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