ゴーレムを動かすコツ
ガギからの許可も出たので公式にハームルさんにテストを手伝ってもらう。
「私も魔法使いですからね。役立ってみせますよ」
え? ハームルさん魔法使いだったのか。鎧とか着てるからてっきり戦士系かと思っていた。でも軍師とか参謀とかなら魔法使いの方があってるか。
まずは普通の牛型ゴーレムを少し動かしてもらった。最初はぎこちなかったものの、ものの数分で自由自在に動かせるようになった。
「おお、これは面白いですし、いろいろと役に立ちそうですね。見かけてはいましたが、こんなに簡単に扱えるとは」
まるで初めてラジコンを買ってもらって遊んでいる小学生みたいだ。けどハイゴブリンでもまだこんなにすぐにすいすい動かせた人はそんなにいないんだけどな。魔力の差かな? それとも魔法使いだからか?
次に私のプロトタイプ牛型ゴーレムを動かしてもらう。今は頭に一対の腕に加えて、胴体にも一対の小型の腕、それにお尻あたりにも腕を生やしているバージョンだ。
「なんですか、これ? キモくないですか?」
「ははは、単に腕を生やした牛型ゴーレムですよ、これは。自在に動かせるか、試してみてください」
むむむ、とハームルさんは動かそうとしたけど、普通の牛型ゴーレムと同様部分しか動かせない。腕は……ぴくりとは動いたかな?
「こんなもの本当に動かせるんですか?」
ハームルさんが疑いの目で見てきたので、制御棒を渡してもらって私が実演してみる。
「ほら、この通り、私には自在に動かせますよ?」
頭の腕で私自身を持ち上げ、プロトタイプの背に足を揃えて横乗りで腰掛ける。胴体にあった腕は背側は私の肩に手をかけて支え、前側になった腕には義足を乗せた。尻尾辺りの腕は私が降りる際の取っ手になってもらった。
「なるほど、自由自在ですね。分かりました。もう一度やらせてください」
ハームルさんは乗り気だ。これは助かる。降りて腕を全部ニュートラルにしたあと、制御棒をまたハームルさんに渡す。
「今のを見て、分かりましたよ。へんな生き物だと思うからダメなのです。こうやって、頭を人の体と思えば……」
そう言いながら制御棒に念じながら魔力を流していたけど、ピクピクとは動くものの、普通には動かせない。
「うむむ、ではお尻についている腕を尻尾だと思って動かせば……」
お、ぴくぴくとしたあと、お尻の腕が動いた。牛の尻尾のように下にだらりと下がったあと、振り子のように揺れている。
「牛の尻尾は確か腰にも届いて、虫を撃退したりするんですよね」
おー、さすが? 魔法使いで参謀だ。物知りだな。私は漫画か何かで見ただけだけど。
お、腕が上がってきた。腰のあたりまで上げてきたあと、手のひらをグーパーグーパーし始めた。
「もちろん牛の尻尾がこういう風に動くわけないですが、尻尾の先が手であると思えば……、なんとか動くようですね」
しばらくお尻の腕を動かして、しばらくしたらなめらかに、違和感なく腕として動かせるようになった。私以外で初めてだ。となると私が転生者だからではなく、ハイゴブリンには難しいということかな?
ハームルさんがお尻の腕、尻尾腕を自在に動かせるようになったので、そのまま工房に行く。
「おや、どうされましたか?」
ギグとグゲがたまたまいたようだ。彼らも出てきて、ハームルさんのプロトタイプ牛型ゴーレムのパフォーマンスを見ていく。工房の隣にある射撃場でもある広場でジャベリンを実際に投げてもらった。器用さを図るため、ゴブリン用のアトラトルは使わず、素手で。
ハームルさんは難なく操り、ジャベリンを投げてみせた。的には当たらなかったけど。魔法使いだものね。
けどそれを見て、ギグとゲゴが感嘆の声を上げていた。
「我らの誰にも動かせなかった、リン姫様のゴーレムの腕を動かすとは……、ガギが認めるだけはある人間のようですね」
「あ、あれを姫様以外が動かせたのですか……。いったいわたくしに何が足りなかったというのですか……」
ギグはハームルさんを認めるようなことを言ってるけど、ゲゴはショックを受けてしまったようだ。そりゃそうだよね、ゴーレムが専門なはずなのに特殊とはいえゴーレムの扱いで負けてしまったんだものね。けどたぶんゲゴの名誉のために言うと、たぶん能力とかそれが足りないからってわけじゃないと思う。こっそり近づいて、ゲゴにささやく。義足のおかげで出来るようになった行動だ。
「あの腕は尻尾だと最初は考えればいいみたいよ」
「なっ、そんなことで?! しかし確かに、理にかなっています。ゴーレムには術者のイメージが投影されやすい、それならば……?」
ハームルさんが笑顔でゲゴに制御棒を手渡した。ハームルさんは煽ってるつもりはないのだろうけど、ゲゴはそう受け取ってしまったようだ。しかし奪い取るみたいな下品な真似はせず丁寧に受け取った。さすがゲゴだ。顔に出てしまうのは仮面を付けてた弊害だから仕方ない。
「こつさえ分かれば、わたくしにだって出来ますわ」
ゲゴは頭腕や横腕にはもう一切気をかけず、尻尾腕に集中しているようだ。魔力が特に尻尾腕に集まっているのが解る。しばらくは何も動きはなかったけど、すぐにピクピク動き出して、やがてそれは尻尾のような動きを始めた。
「そうそう、尻尾として動き出せばすぐです。あとはその尻尾が腕であると思えばいいんです。実際に腕なんだし」
「ええ、姫様のおっしゃるとおりですね。さっきそうやって動くのが見れましたし、尻尾を腕のように使う動物やモンスターもいるのですから、なんの不思議もありません」
ハームルさんのときと同じように尻尾が持ち上がってからは早かった。すぐに腕そのままのように動かせるようになった。
一緒に見守っていたギグも試しにやってみたところ、ゲゴよりずっと早く動かせるようになった。これはいったいどういうことだろう? 魔力はゲゴの方が上だし、ゴーレムのことを一番知っているのもゲゴのはずだ……。
!? もしかすると逆にゴーレムのことを知りすぎていた? ギグが難なく動かせた以上、魔力量はあまり関係無しだろうし、仮説だった私が人間だから動かせる、というのも覆った。私が転生者だから、というのも。
たぶん、だけどイメージの問題だ。実際に尻尾が腕になっている牛なんかいない。けどハームルさんは私が動かしたのを見たから動かせた。それはゲゴやギグも同じだし、ギグがより早く動かせたのもそれで説明が出来る。ではなぜ私は最初から動かせたのか、というのも私が転生者で、生き物でなく機械が動くということを知っているしイメージができるから、ではないだろうか? そもそもゴーレム自体のイメージが私には謎エネルギーで動くロボットだしね。
「ギグ、あなた自身がこれで重要性が分かったと思います。ので腕の量産、頑張ってください。ゲゴは牛型ゴーレムの術式を書き換えて尻尾腕をより制御しやすいようにしてください」
二人に指示を出してから、ハームルさんに向き直って。
「ハームル様、ご協力たいへんありがとうございました。おかげさまでジュシュリはまた一歩前進できたようです」
「いえいえ、頭をお上げください、リン様。あなたは無闇に人に頭をさげるものではありませんよ。特に配下のいる前では」
そういって、ハームルさんは私の下げた低い頭よりさらに低くなるよう、跪いて頭を下げた。私としてはハームルさんにそこまでしてもらう気もつもりもなかったのであわてて頭を上げる。
「わ、わかりました、ハームル様。どうか立ち上がってください。牛型ゴーレムを改良できそうなのは間違いなくハームル様の功績なのですから」
私も頭を下げるのはやめて、ねぎらいの言葉だけにした。
「いえいえ、この程度、宿代にもなりませんよ」
んまあ、確かに今はハームルさんとその部下たちを客として無償で寝る場所の提供と食料を供給してるけどさ。蓄えは移住に備えてどんどんためていっていたところだったので、まだまだ十分にあるし、最近は森から動物たちが逃げてくるので狩りもはかどっている。ヒュージクラブもまた出たのでだいぶと浮いたし。




