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秘匿すべき技術

先日の夜はそれで終わった。ガギはハームルさんと打ち解けている感じだった。顔を晒していることも気にならないほどに。


次の日の朝の食事会で、【技巧】のギグにいろいろと変更を伝えた。

まず一般ゴブリン用の仮面の廃止を先送りにしていたけどそれを本格化、というか後回しを正式にして、木工部門には腕の量産をお願いした。プロトタイプ牛型ゴーレムの実験用にいろんな腕を作ってもらうためだ。その目的は、牛型ゴーレムのさらなる戦闘力アップのためだ。ゴブリンが直接投げるより威力を上げやすいのと、牛型ゴーレムなら敵のすぐ近くにまで近寄れるので命中精度や威力に、やはり良いためだ。牛の角だけじゃあの多くのヒュージアントは処理しきれないし大型ゴーレムを量産するほどの能力は、今の工房にはない。

金属部門には元の計画通り仮面に変わる額飾りを生産してもらうようにして、一部だけ帝国の矢のコピーをお願いした。私の額飾りの図面を見せてもらったけど、やたら豪華で派手だったので、やり直しを要求した。私のにそんなに手間かけてもらっても困るし、その、前の人生から着飾るみたいなことは結構苦手だったので、ティアラみたいなのをずっと付けておくとか嫌だ。私は機能美を好むのだ、うん、そういうことにしておこう。


【魔術】のゲゴには集め捨てたヒュージアントの死骸をなんとか処理してもらうように頼んだ。ゲゴからは時間をかければ魔法でなんとかなるとの話を聞いたので、任せることにした。


【言語】のゴガにはガギについていって、通訳の役割を頼んだ。ガギ自身も人間語を話せるし、ハームルさんもゴブリン語は話せるようだけど、お互いそこまで得意というわけではないようなので、誤解が発生しないように、だ。本当であれば私がついていきたいのだけど、立場や足が許してくれなさそうなので。


【戦技】のグゲにはさらなる警戒と、ゴブリンたちへ投槍をきちんと教えてやってほしいと頼んだ。昨日一部使えるものもいたけど、それほど慣れている感じもなく、弓はほとんどヒュージアントには意味がないようなので。


【口伝】のガギには、口伝の役割はほとんどないというか統率が本来の役割なんだけど、今は私がいるので私の参謀みたいな位置になっている。だからなのか、参謀同士仲がいいので、そのままハームルさん対応役を任せた。


私は……、いろいろと変革の最中なのでそれを見守りつつ、移住するかどうか、するにしてもハームルさんの薦め通り帝国にいくべきか否か、判断するという重い役割がある。それに牛型ゴーレムの設計、といってもコンセプトだけだけど、は私の役割だ。

頭に腕、はなぜ私にしか動かせないのか、それを突き詰めて、ゴブリンでも動かせる腕の生えた牛型ゴーレムを作りたい、というか作らないとやばいといった感じだ。それぐらい投槍は重要だ。ヒュージアントと戦うには。弓を帝国製みたいにしてもゴブリンでは使えなさそうだしなぁ。


この日のうちに、ハームルさんところの調査隊二分隊が【向こう】と【森】へと向かっていった。【向こう】はともかく【森】は大丈夫かなぁ。最近はグゲがいないとゴブリンたちですら深くは入らないようにしてるんだけどなぁ。まあ祈るしかない。


そうこうやって頑張る日々が続いてくれた。あの日以来、ヒュージアントの襲撃は小規模かつ散発的であったのでなんとでもなった。けど収まる気配はないので私の心の中では移住は決定した。あとは帝国に行くかどうか、だ。そろそろ移住先を探している部隊が帰ってきてもいいころだ。その結果次第かな。


簡素な腕は一日で出来たのでその日以来、色んな場所に付けて実験をしている。プロトタイプとしては胴体の横につけたのが使い勝手が良かったんだけど、やっぱり私しか動かせなかった。なぜ私だけなのか? 魔力ならガギやゲゴもかなりあるはずなのにその二人ですら無理なのだ。もちろん他の神官やハイゴブリンでも試したけど動かせた者はいなかった。こうなってくると私と彼らとの差は、私が人間だから、か転生者だから、かしかない。なのである意味機密ではあるんだけどハームルさんに協力してもらうように要請してもいいかどうかガギに相談した。


するとガギが人払いを要求してきた。最近では珍しい。私の秘密がなくなったから人払いをする必要がなくなったから。ということは私以外のことか。相変わらずグゲもついてくるみたいだけど。


この頃にはもう神官用の額飾りは行き渡っているので彼らの表情を見ながら話ができる。


「ハームル殿には隠し事は基本的にしないつもりですのでゴーレムの実験に協力してもらうことには問題ありません。が、こちらには絶対に隠しておかなければならない技術があり、それをまだリン様は知らないかと思いましたので、ここでお伝えしようかと」

「それはわたくしが聞いてもよろしいことですか? ガギ?」

不安そうな顔をしてゲゴが聞く。

「ああ、五神官なら問題ないぞ、ゲゴ。というか今これを知らない神官はゲゴとゴガだけだしな、必要がなかったから」

「必要がない? 知識が? そんなことがあるのですか?」

知る必要がない知識、かぁ。騙しの技術とか? 死者復活の魔法とか? 騙しの技術とかは絶対に違うだろうし、魔法じゃゲゴが知らなくていいということにはならないか。ギグとグゲが知っていて問題なく、ゲゴやゴガが知らなくてもいいこと? きれいに男性と女性に分かれているけど、そういうこと?


「ハームル殿は以前帝国に属したゴブリン部族があったと言っておりましたが、ほぼ確実にこの秘匿された技術によるものだと思われます。我らジュシュリだけでなくゴブリン族全体に普及しましたが、なぜか人間その他はまだ得ていない技術です」

いったいなんなんだろう?

「それの名はゴブリングレネードと呼ばれています。ゴブリン一人の犠牲で城の壁などですら吹き飛ばす技術です」


ゴブリングレネード?! なんかカードゲームや映画で見たことある気がする。グレネードの名前通り、爆発物だよね。確かに魔法が実在する世界に爆発物って滅多に無いよね。けどなぜかゴブリンたちは持ってる、と。うん、確かに人間には秘匿したほうがいい技術だね、私はノーベルの二の舞にはなりたくないし。

「なぜゴブリンの犠牲が必要なのですか?」


「それは、起爆方法がグレネードを叩くしかなかったからです。ですからグレネードを殴ったゴブリンはグレネードの威力に巻き込まれて形すら残りません」

「過去形? 導火線を使えばいいんじゃないんですか?」


「はい、我らジュシュリは信管を開発しておりますので投擲でゴブリングレネードを爆発させることが出来るのでゴブリンの犠牲はいりません。……ドウカセンとは?」


うわ、ジュシュリ、信管作っちゃってるよ。これもドワーフの技術ってやつなのかな? 導火線はまだだったか。原理は教えてもいいかも。

「気にしないでください。それは確かにやばいですね」


「それは爆発するものなのですか。エクスブローション以上のものでしょうか?」

不安そうな顔がずっと維持されてすっごい不安そうな顔になってしまっているゲゴ。仮面をずっとかぶってたからまだ表情を隠すという技術はついてないよね。美人さんだし、今度教えておこう、あまりに残念だ。

「エクスブローション以上の威力があり、デトネーションクラスだ。しかし原理はエクスブローションと同じらしい」


「エクスブローション以上って、それだってヒュージアントなんか吹き飛ばせますよ。魔力消費が激しくて連発は出来ませんし、周辺にも被害が出るのでなかなか使えませんが」

「うむ、だから秘匿しなければならんのだ。いずれ存在は知られる、というか知っているだろうが、これの製造技術だけは漏らしてはならない、漏らせば人間の工業力によって世界が爆発に包まれかねんからな」

「そうですね、私達だけのものにしておきましょう」

私は包まれそうになった世界を知ってるからね。

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