ジュシュリ村防衛戦
がちゃがちゃと金属の鎧の音が聞こえてきた。こんな音を立てる鎧を来ている者は村、ジュシュリにはいない。
「姫様自らが戦線にお立ちになられていたのですね」
やってきたのはガギたちと、部下の兵士たちをひきつれたハームルさんだった。
兵士たちは門に繋がっている低めの塀に水平に並んで弓を構えている。弓かー、効くかなぁ?
「攻撃してよろしいですか?」
ハームルさんが私に直接聞いてきた。一緒に来ていたガギは頷いていた。
「はい、ぜひともお願いします」
私の返事を聞いてすぐに攻撃が開始された。その攻撃はヒュージアントの硬い装甲をも貫いていった。ゴブリンのじゃ全然ダメだったのに、この威力の差。
……考えてみれば当然かもしれない。
そもそもゴブリンの弓はいわゆるショートボウで主に狩り用だ。けど人間のは大きさはそんなに変わらないけど戦争用だ。兵士が持っている武器なのだから戦争用だよね。矢もゴブリンの使う狩り用のと比べると形も違うし、そもそもゴブリンと兵士ではパワーも違いそうだ。メジャーワーカーなら人間を上回るパワーを出せるだろうけど、総じて不器用なので弓を使うメジャーワーカーはいないし。
「矢はそんなに持ってきていませんから、出来たらジュシュリで補充させていただきたいものですがね」
「我がジュシュリではそんなに矢を生産しておりませんし、見るからに性能が違いそうですから、そちらの矢をコピーさせてもらうことになりますが、それでよろしければ、なるべく頑張りましょう」
「ではそれでお願いします。代わりに、と言ってはなんですが、あとで私の提案を聞いてもらえませんか?」
む? こんなときにそんな話を持ち出すとは、さすがハームルさん、軍師らしい。
「こんな状況では断れませんね。あ、でも話を聞くだけで提案を飲むかどうかは提案次第ですよ?」
「ええ、もちろん、それで構いませんとも。ジュシュリにも利があることと思っておりますので」
片翼のヒュージアントがほとんど射殺され、後ろ送りもなかったのでそっち方面へギグが飛び出し、なんとか生き残っていたやつを狩っていく。
空いた門の正面にはゲゴのゴーレムが入った。え? 大丈夫なの?
「こういう場合の魔法を開発しておりますので」
いつの間に?! まあ自信満々だし任せてみよう。一応代わりにすぐ入れるようにそばまで移動しておく。もう補充されたジャベリンも一本しかないし、いざとなればこれで白兵戦だ。
最前線に立って射線が通りやすくなったゲゴは大型ゴーレムから極太なライトニングを放って、射線上にいたヒュージアントを屠っていく。ゲームでよく見かけたレーザー? ビーム?みたいだ。
けど敵は射線上だけではない。斜め横からも迫ってきて襲いかかってくる。
ゲゴの魔法検討用大型ゴーレム、通称二号機は一号機や三号機とはけっこう違うシルエットをしている。他よりも胸が大きく、腕が若干細くなっている。そしてその胸には人の腕を模した副腕が一対ついているのだ。その副腕で魔法行使の助力とするという目論見である。他にもある主腕は万一のための格闘用であって二号機は比較的簡素な作りになっている。その主椀を動かしてゲゴは魔法を行使した。私としては想定外の運用である。私に隠れてこんな魔法や運用方法を組み立てていたとは。
「ダークネスショック」
確かに聞いたことのない魔法だ。二号機の横に真っ黒な球体が現れ、ゆっくりと前に進んでいく。その球体に触れてしまったヒュージアントは弾き飛ばされたかのように動き、その硬い外骨格にヒビが入っていた。それを見た他のヒュージアントは本能からかその球体から逃げるように動く。闇の球体の動きは遅いけど、逆に遅いからこそ壁になってくれている感じだ。外骨格にヒビを入れられたヒュージアントは動きが鈍くなり、容易に射倒された。
闇の球体で移動範囲が狭くなってしまったヒュージアントたちは人間の兵士やゲゴのライトニングで次々に倒されていき、たまにそれらの攻撃を掻い潜れた個体もグゲに倒されていく。
こうして私の出る幕はなく、ほどなくしてヒュージアントは全滅した。
最後の一体をグゲが倒したとほぼ同時にギグの三号機がこちらに到着した。
「おや、もう終わったのですが、思ったよりも大したことなかったのですか?」
ギグが気の抜けたような感じで聞いてきた。
「いえ、人間の兵士と皆様の力のおかげですよ、それにタイミングよく、よく来てくれました、ギグ。申し訳ないのですが、貴方とグゲはゴブリンたちを率いて、ヒュージアントの死骸の処理をお願いします。良い素材が取れそうなのは取って、そうでないものはできるだけ村より離れた地点に捨てにいってください。あれだけの量が腐ったら恐ろしいことになりそうですし、出来れば燃やしておきたいのですが……」
「分かりました。適した場所へ集めておきます。今までの数匹程度したらそこらの動物や虫たちがなんとかしてくれましたが、確かにあの量はやばそうですしね」
よかった。ジュシュリでも死骸はきちんと処理しないと危ないということは知っていてくれたようだ。本来なら私が指揮してしかるべきだけど、ハームルさん率いる人間の兵士たちに戦わせたのだから、それなりの礼をしておかないといけないと思ったので。
そういえばガギは何もしなかったな。人間の兵士へ何処へ撃つべきか、ハームルさんに代わってお願いしていただけだ。いやそれもかなりの活躍になると思うけど、ガギにしては控えめだな、と。ハームルさん結構上の人みたいだし、よっぽどなのかな?




