再びの襲撃
さて、ランク老との話とかでけっこう時間が経ったけど、まだガギは戻ってこない。今すぐガギに用事があるわけでもないし、ガギ配下のゴブリンたちはおとなしいので、そっちはそんなに混乱は起こっていないようだけど。まあ他の神官の配下たちもそこまでではないようだけど、念の為それぞれ説明しに行っている感じで、今私の周りには神官は誰もおらず、護衛と側仕えだけだ。正直大変珍しい。護衛も側仕えも混乱はなかった様子。まあもともと私の姿を見てるからね。今更人間でしたーでも問題はないのかも。ただデゥズには謝っておかないと。
「デゥズ、申し訳ありませんでした」
「……、いえ、今の混乱を見る限り、姫もガギ様も正しい判断をなされていたのだと思います。最初は騙していたのかもしれませんが、今までの姫様の働きと苦難を身近で知る私にどうして、姫を責められましょうか。どうか、お気になさらず、このまま私を使い続けください」
他の側仕えや護衛も、それに頷いている。むしろ料理人のゾダィは私が人間であったことを逆に喜んでいる節がある。
「だって考えてみてください。あっしにはハイゴブリンの料理はおいしくありません。けどそれを作っています。ハイゴブリンと人間は同じ味覚だと聞いていましたが、誰も保証も証明も出来ませんでした。ですから人間用のレシピそのまま作っているだけでした。間違っているのかいないのすら正確には分かりませんでした。ハイゴブリンからけなされたことはありませんでしたけどね。けど人間様が確かにここで、あっしの料理を食べ続けてくれていたのです。あっしが今までやってきたことは間違いではなかった、それが証明されたのです。それが嬉しいんです」
よく言ってることが分からないけど、職人のこだわりといったところなのだろうか。
ゴブリンの兵士が一人駆けて入ってきた。武装しているのでブゥボに止められる。
「伝令であります」
「そこで、大声で」
ブゥボが近づくなと体をはって止めました。普段はそんなことないんですが、警戒してくれているようです。
「ヒュージアントが出現しました! 正面入口付近です!」
「分かりました! 各神官へも報告お願いします。松葉杖を」
今は義足を付けているから歩けるけど、結構つけっぱなしなので無理はしないほうがいい、それに走れない義足よりも松葉杖でダッシュしたほうが早いというのもある。
「それからジーゼはプロトタイプを入り口まで回してきて。護衛の二人はついてきてください」
まだ私と同じ子供なジーゼは私の何倍も早く動けるので車を回してもらう感覚でプロトタイプ牛型ゴーレムを建物の入り口へ連れてくるように頼んだ。牛型とはいえ私の周りでは、プロトタイプ牛型ゴーレムを満足に動かせるのはハイゴブリンであるジーゼと、護衛のザービだけだから自然とジーゼに頼むことになる。
「たぶんまた足にダメージをおってくるのでデゥズは足を冷やす準備をしておいてもらえます? ゾダィは普段どおりにお願いします」
それぞれに指示を出してから、まずは工房へ向かう。生身の私が現場に今駆けつけてもあまり役に立てないしね。
工房につくと、すでに大型ゴーレムも出撃準備が整っていた。すでに立ち上がっていて魔導線も取り付けられている。
「姫様! すでに準備は整えております。わしもすぐに出ます」
「いえ、ギグがそのまま待機して工房を指揮してください。私が行きますのでギグはあとからで構いません。ゲゴももう出ているんですよね?」
一緒においてあるはずの二号機の姿がないので、そう思った。
「はい、すでに向かっております。ガギはまだですけどね」
「ガギはこないかもしれません。重要なお客様の相手をしていますので。ガギがいなくてもなんとかしなければなりません」
「そうですな。こちらのやること早くに終わらせて、向かわせていただきます」
「お願いしました」
プロトタイプ牛型ゴーレムから降りて大型ゴーレムの制御棒を持つ。普段は寝かせてあるはずの大型ゴーレムがすでに立っているので楽だ。こういう急ぎの時は助かる。ずっと立たせていてもいいんだけど、立っているだけで関節にはダメージが入るし、高い場所の整備がしにくくなるから、整備の時は寝かせるようにしている。牛型ぐらい単純な作りに出来るなら立ちっぱなしでもなんとか出来るんだけどね。正直まだ大型ゴーレムでそこまで気を回す余裕が設計にない。
アトラトルを持って正面門へ向かう。ジャベリンはすでに何本か背中に装備されていたので。
正面門まで来た。たくさんのヒュージアントが来ていた。しかし門として空いている空間にこだわっているのか、その周りから侵入してこようとしていないのは助かる。それぐらいの数が正面に殺到しようとしていた。しかし正面は複数の牛型ゴーレムでせき止めていたのでなんとかなっていたようだ。
下手に前に出たら数多くの蟻たちに囲まれてしまうので門の前で数匹ずつ相手にしておいて、その間後ろに詰まっている蟻たちにグゲの魔法や、ジャベリンや矢などをふらせている様子。しかしグゲの魔法は炎系の魔法は村に近すぎて使えず、かといって蟻に効果的な範囲攻撃魔法があまりないようで、苦慮してる感じだ。ゴブリンたちが投げるジャベリンはそれなりに効果があるようだけど矢は正直弾かれているものが多い。
すでに駆けつけていたグゲによって、少しづつ倒していってはいるんだけど、倒しても倒してもすぐにおわかりがくる感じなので、後ろにいるやつを倒していかないといけない。この状況なら私のゴーレムとジャベリンは効果的だと思う。
こちらも被害がないわけではない。直接対峙しているグゲは怪我一つおってないけど、すでに牛型ゴーレム一体が擱座してしまっている。すでに術者は後ろに下がってくれているようだし、擱座した機体がバリケード代わりになっているようなので、いいんだけど。
いくらグゲが目の前のヒュージアントを倒しても、その死骸を乗り越えてきたヒュージアントが死骸を後ろに下げてしまうので、一向に楽にならない。後ろに溜まっているヒュージアントを倒していってはいるんだけど、私の大型ゴーレムのジャベリンでないと一撃では倒せないようで、なかなか数を減らせない。
ジャベリンが切れた。ジャベリンは威力が高いからいいんだけど、やっぱ数持てないからなぁ。どうすべきか、即断できず、動きが止まってしまったところで声をかけられた。
「姫様! 追加のジャベリンを持ってきました!」
見ると、ゴガが自ら牛型ゴーレムを操作して、ジャベリンを持ってきてくれたようだ。
「後続にもあるだけ持ってくるよう、言ってあります。とりあえずは私がもってきたこれを」
と、丸太のように大きなジャベリンを、隣にまで来てくれた牛型ゴーレムの荷台から取り出し、アトラトルにつがえて、再び発射しはじめる。今の所百発百中だけど、私の腕がいいわけじゃない、それだけヒュージアントの数が多いってだけだ。
一向に数が減らない。ヒュージアントの数は確実に減っていってはいるはずなんだけど、そんなふうに見えない。村にダメージがあってもゲゴに炎の魔法を使ってもらおうかと思いだしたときに、別の援軍がやってきた。




