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仮面を外す

「確かに協定はある。この地は我らに管理を任せる、とな。逆を言えばそれ以上のものはない」

ガギが補足してくれた。……そう言えば私の父だと思われる、アンドリューと友人だったとかガギが言っていたような気がするな。協定はあったけど報告の義務はない、ということかな。まあ報告しようにもどうやって、ってのもあるしね。

んー、そろそろ隠しておくのも限度があるかな。これ以上やると逆に怪しまれそうだし。


「ガギ、仮面を外していいかしら?」

傍らに立っているガギにゴブリン語でこそっと言う。

「何故でございますか?」

「知っていると思うけど、彼らを見ての通り、人間には顔を隠すという習慣はないのよ。むしろ逆で顔を隠していると信用されません。それに証明のためにも顔を出さないといけないと思います」


念の為ガギにしか聞こえないはずの小声で話を続ける。ハームルさんたちは辛抱強く待ってくれている。ガギはうなずいてハームルさんへ話しかけた。

「我らとしては例外的なことであるが、ここにいる我ら全員の仮面を取ることにする。そちらにはこれは特殊で特別なこと、そなたたちを信用するとの証明の行為であることは理解してほしい」

その後繰り返しで似たようなことをゴブリン語で説明した。ゴガがいればリンクで全員人間の言葉を分かるように出来るけど、それはあえてさせなかった。

ゲゴがピクリを動いた。けどそれだけで止められることはなかった。ちらりとガギの方を見ただけのような気がする。


「それはそれは……。当方としてはまったく名誉なことと思いますが、いったい何故?」

「それが一番わかりやすいと思ったからです」


「それは、どういう意味で……?!」


ハームルさんが言い終える前に仮面を外した。私の仮面の場合、外すというより取り去るだろうけど、とにかく顔が見えるようにした。

「ゴブリンでは、ない? エルフ?」


私とガギ、ゲゴ、ゴガが仮面を外したので、少し戸惑った後ギグとグゲも仮面を取った。ハームルさんの視線は私と五神官の顔を見比べている。


「リン様は我らの姫である。それを理解していただければよい」

ガギがそう宣言して、この場は任せてほしい、と言ってきた。顔出しだけでいいの?

「お任せください」

小声でガギに丸投げしてもいいとの返事。普段は姫として自分で決めろとうるさいガギにしては珍しいので、何かありそうだけど正直私には手に負えない気もするので任せられるなら任せたいので、そうすることにした。


「ではこれよりは、ガギの言葉は私の言葉として捉えてください。ガギに任せます」


「では人払いの術を解きます」

ガギが杖を回収して術を解いたた。周りにいるゴブリンたちから仮面を取っている私達が見えるようになって、多少ざわついた。しかしさすがこの場にいるゴブリンたちは忠誠心の高い、訓練されているゴブリンだから大きな混乱は起こらなかった。


いったん頭を深く下げて跪いていたハームルさんが立ち上がった。

「ご信用、ありがとうございます。いったん、下がってよろしいでしょうか? 部下に説明したいのと、しばらくここに私と何名かを駐留させていただきたいのですが。それ以外の者たちはさらに奥、避暑地だった別荘や森の奥の探索をさせますので」

私はガギの方を見る。ガギがうなずく。


「分かりました。ハームル様方は客人として迎えましょう。ただ、森の奥への探索はお勧めいたしません」


「理由を聞いても?」

「最近ひっきりなしにヒュージアントが森から出現しております。幸い我らジュシュリはやつらを退けてはおりますが、余計な苦労はなされないほうが良いかと思いましたので」


「ご忠告ありがとうございます。ですが森の探索も我らの役目と心得ておりますので、避けるわけに参りません。ご忠言通り慎重に探索させていただきます」


「そうですか、ハームル様はお客人です、無理にひきとめはしません」

偉そうに言ってから、ガギに訪ねます。

「客人用の建物などあるのですか?」


「はい、姫様。本来なら二棟あるのですが、今はそのうちの一棟は今は姫様のお住まいするところです。あれと同等のものがあります」

「ということらしいですので、ハームル様には専用の部屋が用意できそうです。ただ寝室までは全員の分は無理かと思います」


「いえ、格別のご配慮ありがたく思います。私とともに残るものは、私の話相手兼護衛みたいなものですので、お気になさらず」

ハームルさんたちをガギと一緒に下げました。さて、ここから面倒くさいぞ。


「姫様のおっしゃることですから従いましたが、なぜ仮面を?」

グゲが強い口調で問うてくる。まあ今までその習慣でずっと過ごしていて急に変えられたら、そりゃ戸惑うよね。それは分かる。分かるけどここは私も譲れない。


「私は皆を信用します。私は見てのとおりです。しかし皆様は今まで私をジュシュリの姫としてくれました。これはそれに対する小さな誠意だと思ってください。もし異があるなら言ってください」

口から出任せである。あ、いや、皆に対して感謝しているのは本当だけど、目的があるのだ。


「ギグ、忙しいでしょうけど一つ急ぎの仕事を頼んでもよろしいですか?」

「え? エルフ? 人間?! しかしガギが認める姫……。姫は賢い。我らに様々なものを与えてくださっている、我らの姫。はっ! なんなりと、リン姫様!」


「ありがとうギグ、貴方もまだ私を姫と呼んでくださるのですね。私は今後も仮面をつける気はありません。しかし今まであったものが急になくなるのは混乱の元になるかと思いますので、代わりのものを作ってもらいたいのです。具体的に言えば額飾りなんかどうでしょう? 皆の仮面にもついている石をあしらったものを、今後はその額飾りの石の大きさで判断できるようにしたいのです。この意味が分かりますよね。申し訳ないのですがなるべく早くにです」


「大変やりがいがありますな。姫の額飾りは貴金属で作らせてもらいます。五神官もそうですな。ただ貴金属を扱える職人は少ないため、ハイゴブリンには金属、ゴブリンには木製のものを用意しましょう。しばらくゴーレム関連は止めますが、よろしいですよね?」

「ええ、それでお願いします。石は仮面からの再利用を基本で考えてください。私の分はあとで寸法をお教えします。無茶を言ってごめんなさいね」

「いえ、職人としての血がたぎりますわ。姫様がこられてからいろんなものを作れて職人冥利に尽きております」


「姫様という風が我らジュシュリを変えようとされているのだと愚考します。ならば風が何で出来ていようと構わない、とわたしは思います。……生意気なこと言って申し訳ありませんが、これが偽らずのわたしゴガの本心でございます。ゴガの役目に新しきものをジュシュリに取り入れる、というものもございますので、わたしはリン姫様のお手伝いをさせていただきたく思います」


「俺としては姫の種族がなんであっても問題ない。姫は賢い。俺でもそれが分かるほどにな。そんな姫であるならガギ同様、俺をうまく使ってくれるだろう。俺はジュシュリの一本の剣、うまくふるってくれるなら、そして俺と同じ剣どもを大切に使ってくれるなら、俺は姫様についていこう」


「はぁ、皆はたいがいお人好しですね。五神官筆頭ガギからも、他の三名も異議を唱えないならわたくしがとなえても無駄ですわね。何者かと入れ替わったわけでなく確かに以前の姫にお変わりはないのですから。それが属性が違うと今分かったからといって姫そのものを否定するのは論理的に間違っているでしょう。感情は正直まだついていけておりませんが。……しかしながら、今後とも忠誠を捧げる事をゲゴの名において誓いましょう」


「よし、ではハームル殿、私が部屋に案内しましょう、ついてきてください」

ガギが五神官の様子を見て、安心したかのようにハームルさんの案内役をかってでた。……五神官の私への信頼の多くはガギへの信頼あってのものだったみたいだから、本当に助かる。

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