灼熱
すれ違ったあとだから相対距離は今は離れている。この間に作戦を考えなければ。
「やつは長時間飛べるでしょうか? あの翼では魔力を使っているはずです。我らより長く飛べるとは思えません。慎重策でいくなら高度を上げて時間を稼ぐべきです」
たいへんガギらしい意見だ。けど自分で慎重策と言うってことは、あまり採用される気はないと見た。ベフォセットも悪くはないんだけど、ガギとは阿吽の呼吸だと思っている。ガギがどう思ってるかは知らないけど、悪くは思っていないと思いたい。
「慎重策はつまらないわね。殺されない、ということを信用して積極的に行きましょう!」
「では長期戦は不利かもしれませんね。あんなのに当たったら一撃でこちらはやられてしまう。その前にやらないと。幸いこちらにも必殺クラスのものがいくつかあります」
「そうね、じゃあまずはどれを使おう? 初手ドラゴン殺しはちょっとやりすぎな気もするし」
「まずは我らだけの力として特殊爆槍で行きましょう、幸いニ本ありますし、足りなければもう一本も出来ますし」
「それ採用。あっちもUターンしてきてるし、高速ですれ違うわ。わたしがフォースフィールドの維持をするから、特殊爆槍に集中して」
普段は疲れるからしないけど、わたし一人でも全部使うことは出来る。飛びながらフィールド維持してボルトを誘導する、とか攻撃魔法を使う、とかね。普段であればフィールドの展開、維持はコパイロットの役割だけど、ボルトより大きい特殊爆槍をすれ違いざま叩き込む、という高難易度の操作をするのだからできるだけ負担は減らしたい。それに魔力だけはわたしの方が優位だからフォースフィールドの維持もわたしの方が上だからね。
火竜はばっさばっさと大きく、体に対しては小さな翼を羽ばたかせていたけど、こちらに向かってくる時は滑空になっていた。姿勢も流線型になるよう、頭を突き出し、腕は脇を締めて揃え、足も風の抵抗を受けないようにしている。ドラゴンというだけあって、火竜であっても空を飛ぶのに不慣れってことはないようだ。……飛ばせてしまったのはミスだったかもしれない。
でももう仕方ない。やるしかない。あんな突進を受けるわけには行かない。けど大きく回避しても追ってくるだけだろうし、かといって近づきすぎると爪でやられそう……だし……。なにあれ?
火竜はこちらに突進しながらファイアブレスを吐いてきた。もちろんファイアブレスの速度は今の火竜の速度とそう変わらないので、自分の吐いた火で火竜自身が包まれている。
「突進技みたいね、あんなの食らったらフォースフィールドでも受けきれないわ。ミスったら一巻の終わりね」
「ミスらないでください。威力が上がっただけで回避はしやすくなったと思います。あの炎に当たらないぎりぎりを通過すれば良いのですから」
そうだろうけどさ。あんな炎の塊とか恐怖を感じるよね。まあそれが狙いなんだろうけどさ。
びびらず、速度をさらに上げて火竜に突っ込んでいく。フォースフィールドは全開にしつつ、正面衝突のすこし前で全力で曲がる。もちろん今の飛行先行量産型07ではそんなに簡単には曲がれない。故にぎりぎりですれ違う事自体には成功した。ただぎりぎり過ぎて、まとった炎の影響ですこしフォースフィールドが焼かれ魔力がごりっと減った。
不可視である周囲にも超高熱の範囲があったようだ。あんな速度で移動しているのにそんなものも維持していたのか。
まあともかく回避は成功。攻撃は?
後方マジックアイで見てみる。火竜はみるみる高度を下げているようだ。
「翼に当たりました。頭を狙ったのですがぎりぎりで回避され、熱で特殊爆槍が暴発したようで、威力はガタ落ちです。が、暴発した弾部分が翼に当たり大穴を開けたか折ったか、したようです」
ゴブグレで起爆する徹甲弾みたいなものだからなぁ。そのゴブグレが誘爆するほどの高熱だったのか。そりゃフォースフィールドがごりっと削られるわけだ。
「ただ当たりさえすれば有効であるとは分かりました。あれではもう飛べないでしょうし、とどめを刺すだけです」
さすがにそう簡単には行かないだろうけど、有利にはなったようだ。もうあんな危ない真似はしたくないものだ。




