無効化
火竜がいた辺りが白い霧に包まれ、その中で氷の嵐が吹き荒れた。
離れた距離からでもとんでもない嵐が吹き荒れているのが分かる。普通であればこれで終わるだろうけど、多分普通じゃないと思う。火竜だから苦手っぽい冷気を伴う攻撃をしたけど、どうなんだろう?
通常なら10秒も持続しない魔法のはずだけど、30秒ぐらい発動しっぱなしじゃない? ガギ、魔力大丈夫? とか思いながらも回避行動を織り込んだ機動で待っていたのだけど、それが正解だった。
さすがにそろそろ効果が切れるようで嵐が弱くなってきたなと思ったところで、内部から空中へこちらに向かってファイアブレスが飛んできたからだ。
さすがに放射線状の火炎ブレスではなく、火の玉然とした火球っぽいブレスだったけど。最初、確認したときには一つの大きな玉だったのに気づいたらそれが分裂していくつもの火の玉になってこちらに襲いかかってきた。
慌てて回避行動を取るも、二つぐらいかすめてしまった。かすめただけなので姿勢制御に影響はなかったけど、フォースフィールドが発動し、術者であるガギの、それなりの魔力が消費されてしまった。さすがに一発で気絶とかにはならなかったようだけど、もったいないことをさせてしまった。
嵐が止んだ。そこには真っ赤な火竜が鎮座していた。ダメージを与えたようには見えない。むしろ氷を溶かしたせいか水蒸気が吹き上がっているように見える。ゲームだと火属性の弱点は氷属性だったりするけど、まれに火属性に氷属性は逆に効果が薄い、ということもあった気がする。より強い火勢は冷気を打ち払う、っていうやつなのかも。レッドドラゴンには効いたんだけど、その上位の火竜には駄目みたいね。言うだけあってちょっと強いみたいね。
火竜が吠えた。だいぶと距離があったのに、こちらの魔力が一瞬打ち消された気がした。いや、たぶん一瞬だけど無効化された。一瞬だし、すぐに効果は戻ったけど、これは……。
持続魔法ですら一瞬停止するほどの力なら、魔力の伝播を阻止する力もあるかもしれない。無線型が前に出ていなかった理由はこれか。レッドドラゴンだったから効果は落ちるだろうけど、たぶん間違いない。火竜のそれは気をつけないと、魔法そのものを無効化される可能性すらあるね、これ。
「自分で喧嘩を売ってきて、手加減してやるみたいなことを言うだけはあるわね」
牽制射としてクロスボウボルトを6×2で誘導だけ乗せて攻撃する。
あの巨体で避けるかー。当たったのは3つで、刺さったのはそのうちの1つだけだった。当たりどころは良くないからほとんどダメージは入っていないと思う。
「刺さるだけ良かったです。全部弾かれたなら困るところでした」
それもそうね。固定武装はこれしかないんだから、これが一切通用しなかったら、持ってきた切り札だけで決着つけないといけないところだったわ。切り札は3種類4発のみ、あとは切り札に魔法を加えられるかどうか、だ。
「うわっ、飛んだ?!」
火竜はレッドドラゴンでは小さかったのに大きな翼を持っていたから飛ぶのだろうけど、体の大きさに比べるとすごく小さいから飛ぶまでは飛ぶとは思えなかった。けっこう機敏に飛ぶ。すれ違いざまに前足で引っ掻いてくる。まともに受けたらゴーレムの機体なんか簡単にひしゃげてしまいそうだ。もちろん避ける。避けざまにクロスボウボルトを食らわせる。近距離だからさすがに避けれまい。実際放った3×2は全部当たって全部刺さったけど、あんまりダメージにはなってなさげ。
こっちは一撃で致命傷になりかねないのに、あっちにはかすり傷しか与えられていない。これは不利だ。早々に切り札を切るしかなさそうだ。




