戦闘の後始末
私は別の呪文を詠唱する。火の球は苦手だったけど、これならイメージしやすいという攻撃用の魔法があったのだ。
「ストーンバレット!」
近くの地面から石つぶてがヒュージアントの胴部分へ連続して発射される。普通のストーンバレットだと丸い石つぶてが一度に放射状に飛んでいく魔法らしいんだけど、私のはイメージがマシンガンなので、石つぶてが貫通力のある弾丸っぽい形に変形してまっすぐに連続して飛んでいく魔法になっている。普通のストーンバレットでは固い装甲を持ったヒュージアントには効果は薄いだろうけど、私のストーンバレットは特殊であり、装甲を撃ち抜いていく。頭を砕かれ、胴体を多数の弾丸で撃ち抜かれたヒュージアントBは次第にその動きを止めた。
すぐに駆け寄って落とした制御棒を取り戻し、大型に魔力を注ぐ。大型はヒュージアントBの死骸に押しつぶされる格好になっているのですぐに脱出できない。
そうこうしているうちに抑え込んでいた牛型がヒュージアントAに吹き飛ばされてしまった。
代わりにゼルンが連れてきた牛型ゴーレムがヒュージアントAに突っ込んでいって抑えてくれた。
再びストーンバレットを唱える。角度的に貫通しても味方への誤射にならないよう注意して放つ。
頭をかち割っていたわけじゃないのでトドメにはならなかったけど注意をひきつける役にはたったようだ。
ヒュージアントAが一瞬こちらの方へ向く。その隙をゴガは見逃さず首関節辺りに槍をねじ込んだ。そしてギグが持ってきていた槍をヒュージアントの牙のある口に突きこんだ。その一撃が致命傷になったようで、ヒュージアントAも沈んだ。
正直ヒュージアントAがこっちに振り返った時は死んだかと思った。大型ゴーレムは今やっとヒュージアントBの死骸をはねのけて起き上がったところだったし、ゼルンが牛型ゴーレムを突っ込ませてないと素早くこちらにきていたかもしれない。うかつだったかも。
まー結果オーライってことで。
大型ゴーレムを立ち上がらせ、斧を引っこ抜く。さっき増援が現れたのだからまた来ないとも限らない。幸いヒュージアントB以外の増援はなかったけど警戒は必要だ。
あと話には聞いてたけどゴガも強いのね。グゲほどではないにせよ、メジャーワーカーやハイゴブリンの戦士以上の力量を持っているようだった。仮面の下は可愛い女の子なのに。五神官ともなるとそういうものなのかもねぇ。特にゴガは言語を司ってるらしいから他の能力もいるのだろう。今のゴガには医療の心得もあるからここまで戦えるとは思ってなかったよ。
ゴブリンたちが集まってくる。ヒュージアントは強敵だし害悪だけど、良質の素材でもある。すでに倒されたのを見て、解体を始めた。すぐに撤去して畑をもとに戻さないといけないしね。ヒュージクラブみたいに食べれたらいいんだけどさすがに食べられる部分はないようだ。
遅れて駆けつけたガギがこの場を仕切ってくれる。ふー、また牛型のメンテナンスが複数入るし、この大型もチェックしないといけないし、工房としては被害甚大だわ。大型の腕に魔力が余分にかかってるみたいなので斧を振るった反動が出ているようだ。正直そのへんあまり考えてなかった気がするので実戦テストが出来て良かったと思うべきなんだろうな。あと部分がかけても魔力が漏れ出ないようにする仕組みがないと、完成してても戦闘でもげたりしたら、そこから魔力が漏れ出るってのは欠陥よねぇ。術式を検討しないと。
被害と課題が多く出たけど、見返りも大きかった、と思っておこう。幸い怪我人も軽くで済んだみたいだし。最初に抑え込んでいた牛型を操作していたハイゴブリンも無事だったみたいだし。
牛型はすでに何体も生産してフィードバックで改良してるのでさすがに頑丈にできているようだ。戦闘に使うと関節の摩耗が大きい程度でどこも壊れていないようだ。それに解体されたヒュージアントの装甲を運ぶのに役立った。盲点だったけど牛型なら輸送にも使えるよね。輸送用としても数を増やしていいかもしれない。発掘した鉱石とか伐採した木は今はゴブリンたちが運んでるし。
あー工房の生産力が足りない。足りないけどすぐには増やせない。これ以上食料生産や物資調達の人員を減らすことは出来ないから、そこを埋めるゴーレムが出来ないと。結局時間がかかるってことね。
ヒュージアントがジュシュリにとうとう現れたことで、対策が講じるために工房でギグと相談することにした。
とりあえず私の操作した人型の大型ゴーレムの威力は高く、ヒュージアントに対して有効と認められたので、とりあえず完成させてテストを急ぐことになった。運用してみないと詳しいことは分からないという経験を牛型で得てるから。すでに今の腕関節では自分が出した威力に耐えられず大きな負荷となっていることは分かった。その対策もしていかないといけない。
そこで私は前に考えていたもう一つの考えの応用を言ってみた。
「ゴーレム用のジャベリンとかどうでしょう?」
ジャベリンとは投げるために特化した短めの槍のことだ。
「なるほど。ゴーレム用となるともはやそれは丸太みたいなものになりそうですが、だからこそ良いかもしれません」
ヒュージアントの装甲には生半可な剣とかでは傷一つつきそうにない。だからゴブリンたちは関節部に滑り込ませるように槍を使っているし人型の大型ゴーレムには重量武器でもある斧をもたせた。
けど大型ゴーレムのパワーがあれば槍で装甲を貫くことも可能だと思った。私のストーンバレットででもいけたのだから。ストーンバレットは魔法だからいけたという可能性もなくはないけど、普通の、私が使ったものでないストーンバレットはヒュージアントどころかジャイアントアントに対しても有効ではないらしいから、たぶん貫通力の問題であるはず。
それに投槍なら投げたときの腕の負荷だけを考えるだけでよく、当てたときに伝わってくる衝撃を考えなくていいし。
「どうでしょうか? 作れますか」
「はい、もちろんです。ゴブリン用のジャベリンなら在庫があるぐらいですが、ゴーレムが投げる用となると多少お時間もらいますが、すぐに出来るかと。なんならアトラトルも作りましょうか?」
アトラトル? 聞いたことがない単語が出てきた。
「はいアトラトル、投槍器です。より遠くへ投げられるようになる小物ですね。近くのものに投げたとしたら威力が上がります。こちらもとても簡単な構造ですからゴーレム用としてもすぐに作れます」
「ならそれもお願いしていいかしら。今の状況のままだとヒュージアントが出るたびに腕を壊していては工房がたいへんだと思いますので」
「そうですね、大型ゴーレムで木を切り倒すのは考え直したほうがいいのかもしれません。ヒュージアントには投槍で対処できるようにしましょう」
私が前に考えた案というのは据え置き型の大型クロスボウといえるバリスタをゴーレム化することだ。だけどバリスタどころかクロウボウですらジュシュリでは見たことがないので、ならジャベリンを投げるのはどうだろう?と考えたのだ。
まだ生き物を模したもののゴーレムしか作ったことがないからバリスタをゴーレム化できるのかどうかにも疑問があったし、そのへんの試行錯誤をしている余裕は今の工房にはなさそうだったから。
ただこれが可能になればゴーレム駆動による機械が出来るのと同義なので是非とも挑戦してみたい。掘削機やチェーンソーとかをゴーレム化で作れたらずっともっと楽になると思うのだ。物質を動かしてあんなパワーを出せるのだからきっと出来ると信じている。




