会話
「ではベフォセットに命じます。二匹のドラゴンの世話とファゼンさんの監視を行う者たちの手配をしてきてください。すでにそれを頼んでいるハイゴブリンがいるはずなので、その流れで完遂させてきてください。それまではわたしがファゼンさんを見張っておきます」
この部屋で見張ってくれていた護衛のハイゴブリンを見ながら、そう言う。
ベフォセットは慇懃無礼風にわたしの方に頭を下げて、すっと出ていった。彼なら早いはず。その間、休みならファゼンさんと話をしておくつもりだ。
すぐに【戦技】のグゲがゼルンを伴ってやってきて、部屋にいたハイゴブリン二人と交代となった。
「少し横を向いていてもらえますか?」
ファゼンさんにお願いした。彼は素直に聞いてくれたので、ゼルンがわたしの右足を外して足のメンテナンスを始めてくれた。グゲも壁になってくれていたのだけど、そりゃこの距離だもの、察するよね。
「その足、義足だったのか?! あ、いや、失礼。直接は見ていない」
「もう構いませんよ。外す瞬間は見られたくないだけなので」
その瞬間だけは蒸れていたら嫌なので男性には見られたくない。まあ今の義足になってから蒸れるまではいったことないけどさ。
「傷口もないので大丈夫ですよ」
「あ、ああ。あまりに自然だったので気づかなかった。その体でゴーレムを動かして、戦っているのか」
「ええ、そうです。わたしが一番適任だったので仕方なくですけど。それにゴーレム技術の転用ですからね、この義足も。義手もありますよ、もちろんちゃんと手として機能する義手がね」
「そうなのか。テルルには変わった手足をした兵がいるとの報告は聞いていたが、義手義足だったのか」
ローガンとサーチェスのことね。本当に有名になっちゃって。まあそれは今はいい。
「十人隊長ってことだったけど、百人や千人隊長もいるってこと?」
「百人隊長はいる。千人はいない、隊長ではなく将軍となっている」
「千人将軍? ってわけないよね。そこまで規模が大きいわけではないだろうし、千人も部下がいたら将軍なのも納得ね」
「きみ、いや、あなたはリン・ジュシュリという組織の頭領だと聞いたのだが」
「ああ、わたしのことはリンでいいわ。様とかもいらないから。年齢差もあるしね」
「その、女性に聞いていいものなのか分からないが、リンはいくつなんだ?」
「正確なところは分からないけど、12歳ってことになってるわ」
「そこもジョージと同じなのか。けど12歳?! 悪いが正直な話そんな年齢には見えないな。継承した地位なのか?」
「わたしは、そうね。宰相みたいな人に担ぎ上げられただけのポッと出よ。年齢は、いろいろあってね。ジョージって誰?」
「先ほども言ったが、リンと同じハーフエルフの男だ。彼もポッと出で軍師にまで上り詰めていて、似ているな、とも」
「4年前に現れた、みたいなこと言ってたわね」
「ああ、4年前に召喚されたヒーローなのだそうだ。今も尊敬され続けている前大司教猊下が呼んだ方であるし、実際にゴーレムを開発したとされる人なので、ザダリオやゴア大司教とて邪険に出来ない相手だ」
「ありがとう、ゼルン。足は持っておくわ、できるだけ休ませておきたいから」
細々と世話をしてくれていたゼルンが手入れを終えたのでねぎらった。
それにしても4年前、ね。わたしがこっちに来たときと同じぐらいね、それにジョージ、か。まさかね。
「それでそのジョージって人は、今回こっちに来ているの?」
「ああ、ザダリオに言われて来ている。ヒーローであるなら邪悪な魔族も追っ払えるのだろう、とか言っていたらしい」
「よくそんな情報知っているわね」
「まあ敵だったものにぺらぺらと言うことでもないのだろう、とも思えるが言っておきたい、とも思っている。私は彼ジョージと友人であると思っている、あっちがどう思っているかは神ならぬ俺には分からないがな」
「もう俺でいいよ、そっちが素なのなら」
「そうか、リン。君はゴア大司教と違って、ずいぶんと話しやすい。とても12歳とは思えない」
「わたしとその人と比べるとか、その人とも共通点とかあります?」
「あ、いや、共通点はほぼない。同じ女性だぐらいか……」
「え? 女性なのですか?」
「そうだ、それにゴアは俺の幼馴染だ。その片鱗は大いにあったが偉くなってから態度が、な。そりゃ公衆の面前なら俺だって気を使ってた」
ああ、なんか溜め込んでそうだし、相手の大将の一人のはず、だから情報は得ていたほうがいいか。母国では話せそうにない内容っぽいし。




