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さすリン

たぶんこの子にも言葉自体は分からないだろうけど、意思はある程度通じるはずなので話しかけながら近づく。


「大人しくしていれば悪いことにはしないわ。暴れないでね。近づくわよ」


そう宣言しながら慎重に近づく。ちょっと魔力がもったいないかもだけど念の為フォースフィールドをはってから。


「いい子ね。少し触るよ。痛くない、むしろ痛くなくなるはずだからね」


そう、他には聞こえない程度の小声で言う。


そういってブラックドラゴンの鼻先に触る。そこからゆっくりと癒やしの魔力を流す。対空タイプの特殊ボルトを何発か食らっているからね、この子。見ただけで傷ついているのが分かる程度に。


巨体だけど驚くほど素直に魔力が流れた。けっこうな怪我のはずだから完治は無理ね、この魔力の消費量じゃ。痛くない程度も厳しそうだから、せめてこれ以上消耗しないようにもう血が流れない程度に癒やす。


しばらく目をつぶって治療に専念する。内蔵とかは傷ついていないようだから良かったわ。


ある程度治療を終えて目を開けると、ブラックドラゴンが目をまん丸にしていた。いやもちろん比喩表現よ、けどそうとしか言えない奇妙な表情だわ。


「何をそんなに驚いているのかしら? でもまあわたしは敵だったけど、今も敵ではないわ。あなたが大人しくしている限りはね。だから本当に大人しくしておいてね。しばらくは帰れないと思うけど、さ」


ブラックドラゴンはわたしをずっとじっと見ている。すでにわたしはドラゴンスレイヤー、すなわちドラゴンを殺しているから、引け目を感じるわね。この子と同じブラックドラゴンもだし。意思疎通できる相手なら説得でなんとかしたいものだけど、あの時はドラゴンなんてただの怪物でしかなかったからね、わたしたちにとっては。

それにこっちもウォータードラゴンから相当の被害も受けているしね、イエローからも若干の被害も受けているし攻撃もされたからね。


まあブラックドラゴンも大人しくしてくれるようだ。なんか周りのゴブリンたちが「姫様すげー」とか言ってるけど、気にしないでおこう。


ふと振り向くとグリーンドラゴンがこっちの様子をちらちらと伺っていた。なんかブラックドラゴンに目で訴えかけてるようにも見える。そういうアイコンタクトみたいなのを犬同士で行っているのを見たことがある。まあ暴れないで従ってくれるならなんでもいいや。


他のゴブリンと一緒になって囲んで様子を見ていたハイゴブリンの一人に声をかけて、彼らが収まる場所がないか、上に聞いてきてと頼む。


わたし自らが行くのが一番いいのは確かだけど、今このドラゴンたちを置いて行くのも大きなリスクになるので。


頼まれたハイゴブリン、確かグゲの部下だったかしら、はさっそく五神官の誰かに聞きに行ってくれた。そこからならテルルへも働きかけられるだろうし、なんとかなるでしょう。


「二人共、もう伏せなくていいわ。身動ぎぐらいはいいけどあまり激しく動かないでね。すこしファゼンさんと話をしてくるわ。食べ物はそのあとでね。あ、水は出してもらおうかしら」


囲んでいるゴブリンにべフォセットと一緒に下っていったファゼンさんがいる場所への案内と、ドラゴンが飲めるように、大きなたらいなどに水を入れて出してあげてほしい、と頼んだ。


ゴブリンの一人が案内してくれた。どうもわたしの休憩室を使っているようだ。そりゃそうね。ここにはもちろん尋問室なんかないし、むしろ小さな個室はそこしかないし。


扉にノックして声をかけてから入る。


中にはファゼンさんとベフォセット、それに武装したハイゴブリンとゴーレム術者も一人ずつ立ち会っていた。


「おお、早いですな。さすがリン様、さすリンってところですかな?」


「茶化さないで。何か話はした?」


「早すぎてまだですな、まあ最初からリン様も同席のほうが良いと思っておりましたので」

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