使者
「これより数時間後、我ら神聖クテーヌス王国軍は、レザンヌ帝国領テルルへの攻撃を開始することを宣言する! 非戦闘民は避難せよ、その猶予を与える」
朝、北側から大音声でそんなことが聞こえてきた。どうも高速で突っ込んできたイエロードラゴンから発せられたらしい。防空部隊も使者だととらえ、迎撃はしなかったらしい。
おそらく魔法で拡張された声はテルルの全体にまで届いたようだ。けどもう事前に非戦闘民は避難した後なんだよなぁ。
それを見て取ったかどうかは分からないけど、その後イエロードラゴンは攻撃してくる素振りを見せず、くるりと一周回ったあと、帰っていったらしい。
わたしたちにはスクランブルがかかってて、すでに出撃準備も出来たところだったんだけど、結局出撃せずで終わった。
「ジェイムス、ドワイトには待機に戻るように言っておいて。わたしは魔力があるからこのまま偵察飛行に出ます」
数時間も前から動いていてはあの二人の魔力が戦闘前に尽きてしまいかねない。けどわたしならそれが出来る程度にはあるし、緊急回復手段もあるにはあるし。あんなのが飛んでくるんじゃ警戒したほうがいいかな、と。
そんな感じでまず07単騎で出撃した。
「ベフォセットはそのまま影の中で潜んでいてなるべく魔力抑えてて。もしかすると魔族の魔力を探知してくるかもしれないからさ」
すでにわたしの影に潜んでいるべフォセットが影から右手一本だけ出して了解したとの意なんだろう握りこぶしで親指だけ立てるポーズをして、そのまま沈んでいった。
(それ、わたしの元の世界じゃ別の意味になってしまいそうなんだけどなぁ)
まあそれはどうでもいい。とりあえずルオンによると空を飛ぶドラゴンもこちらに来る時は大半を歩いているらしい。翼の大きなイエローやグリーンも後ろ足はかなり大きかったからね。前足は小さかった気がするから地上は二本足で歩いているのかも。
こっちが近づいているのがバレていたら空中で迎撃されるかもだけど、近くまで飛んで行ってみる。こっちはかなり高く飛べるのが売りというか、寒くて空気が薄いレベルまで上に上がっているので、専用魔法を使っているぐらいだ。保温と水中呼吸の魔法を応用した薄い空気中でも普通に息が出来るようになる魔法だ。生身のわたしには危険な高度まで行けてしまうのでこれを使っていないと。普通に寒いしね。
超高高度には颶風竜というウィンドドラゴンの最上位がいるらしいんだけど、今の竜王国には颶風竜はいないらしいし。これは飛行型の売りになりそうだ。
重爆撃機や戦略爆撃機なんかが高高度を飛ぶらしいけど、ゴーレムの飛行型を爆撃機として使うつもりはないので、偵察用かなぁ、主には。
今日の天気は晴れ。なので今の高さからでも下が見えるし、下からも発見は容易いと思う。いつ襲われてもいいように警戒しながら、進軍してくるものを探す。
って探すまでもなかったか。山道は人間や馬が進んでいて、ドラゴンたちは超低空をゆっくり飛んで従軍しているものもいるようだ。
わたしの07には気づいているようだけど迎撃には来ない模様。それは助かる。ドラゴンは……運河を上っているブルーやウォーター以外は視認できた。数も多分聞いていた数と一致。人間や馬は多すぎて数えられないし、そもそもこの高度からじゃほぼ視認できない。飛んでいる大きなドラゴンでさえほぼ粒だからね。軍勢の後ろには何故か羊らしい動物の大群がついてきている。
無事高度から敵軍の動きを偵察して、だいたいの接敵時間の予想が出来たので急いで戻って、第一軍第二師団師団長であるセルウッドさんに伝えておいた。第二軍第三団のガーランドさんは一応第二師団の幕下に入るらしいから任せた。テルル自衛団やリン・ジュシュリにはわたしが直接言えばいいし。




