容量
「状況はどうなっています?」
01から降りてすぐ、今この工房にいる中で一番偉い【技工】のギグに聞いた。
「はい、事故発生の報を受け、さそり型回収機と救急馬車を出し、それに続いて、緊急編成したゴブリンの調査班を今しがた出しました。リン姫様以外のテスト班はまだ帰還しておりません」
「そう、わたしが帰って来るのが早すぎたようね。01の整備と、新しい事が起こったら逐次報告をお願い。わたしは自室で足休めとベフォセットと検証をしておくわ」
「了解いたしました」
そう言って、ギグはまず01の検証を行ってくれるようだ。わたしはそのまま自室へ向かう。
普段であれば誰か呼んで足の手入れの手助けをしてもらうのだけど、今回はそれをやりながらべフォセットと話をするつもりなので、誰も呼ばず、自分で水とタオルを2枚取ってきて自室へ運び込む。
自室で足を外す。まだ規定の時間は経っていないから蒸れたりダメージが入ったりはしていないが、かなり焦ったせいか汗をかいていた。せっかくの魔法金属部分もなんだか温まってしまっているかも知れない。この義足になってからこんなことになるのはテストで限界を調べようとした時以来だ。意外と精神の状態って重要なんだな、と。
ベフォセットは01のコパイ席から直接わたしの影に潜ったはずなので、出てきやすくするためにライトの魔法を使って大きくて濃い影を作る。
「どう思う? ベフォセット」
「どう、とは?」
「事故原因よ。ドワイトやジェイムスがあんな初歩的なへまをしたとは思えないわ」
「その件ですか。……我ら魔属に関して少し語ってよろしいでしょうか?」
「……え? まあ、関連があるのなら、どうぞ」
「ありがとうございます。我ら魔属は神話の時代、ごく限られた存在だったとされております。我ら魔将と我らの上位、魔王以上のものは属性というものを持っております。パサヒアス様などは【変異】ですね。他にも【裏切り】や【矛盾】などもその頃からいる代表的な魔王の属性とされております」
「ええ、パサヒアス様の属性なら聞いたことがあるわ」
「わたくしが属している魔将にも属性はあるのですが、それほど強いものではありません。魔王様以上からその容量を分けてもらうためのものとも言えます」
「ようりょう、って何?」
「まあ今回はあまり関係がありませんので、魔力みたいなもの、とお考えください」
話は長くなりそうなのでよりリラックス出来る姿勢に直した。
「大魔王が魔王を生み、魔王が魔将を生み、我ら魔将は眷属を生む可能性があります。その際に容量の他に記憶なども渡ってしまうことも多いのです。ですから正当なる血筋のものは、大きな世界のことを知っています。リン様に関わることであれば、異世界のことなどです。リン様がどの世界から来たかは予想しか出来ませんが、おそらくニャース、もしくはもしかすると根源世界、からかもしれません」
扉がノックされた。足を出して乾かしているところだったので
「そこでお願いします」
とだけ返した。
「はい、先程救急馬車が戻ってまいりました。あともうすぐにでもさそり型回収機が戻ってまいります」
「わかりました。ありがとう」
扉の前から気配は消えた。立ち去ったのだろう。
念の為足の接続部分を乾拭きし、義足のソケット部分に風を当てるように軽く振り回した後、再度足に装着させた。魔力は使ったけど、これで装着時間のリセットはある程度出来たと思う。延長ってレベルだと思うけど。
「べフォセット、続きは後でいい? すごく興味のある話だけど、今は」
「はい、では大雑把に。リン様ならご存知かもと思いましたが、空間識失調、という言葉を覚えておいてくださいませ。では私は適切な時まで影で休ませていただきます」




