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魔導線

その事実が分かった時、仮面越しだけど呆然とギグと顔を見合わせてしまった。え? そんなことってあるの? みたいな感じで。

「ま、まあ、起こってしまったのは事実のようですから」

ギグがなんとかひねり出したという声で言う。


「これだと樹脂を使ってもあっという間ですな。どうしましょうか?」

「……仕方ありません。すごく手間はかかると思いますけど、金属で関節を作りましょう。いえ、いっそのこと牛型ゴーレムは重さを増やすため全部金属でも構わないかもしれません」

「金属で関節ですか……、正直今から気が滅入るぐらい調整に手間暇かかりそうですが、木に比べたら確かに摩耗は抑えられるかと思います。あと全体を金属にというのはさすがにもったいないので、せめて足だけということでどうですか? 胴体には鉄板をかぶせる程度で重さを稼ぎましょう」

重くなったらなったでまた摩耗しやすくなるだろうけど、いっそのこと関節だけを取り替えられるようにできないかな?

「足の関節ですが、関節部分のみ金属というのはできますか? 木でできた足との取り付けに手間がかかるとは思いますが、足まるごと作るよりは簡単に作れそうですが」

「そうですなぁ、関節と一体で作ったほうが丈夫さは保証できるんですが、関節がゆるくなるたびに足を取り替えるとなると、確かに関節だけを換装出来るようにしたほうがいいかもしれませんね」

ギグはあまり良い顔をしていないようだ。仮面でもちろん顔は見えないけど、声の調子でそんな気がした。


「なにか問題が?」

「ええ、換装となると接続部分があるというわけですが、その部分に負荷がかかると何かと問題が起こるでしょうから、多少の負荷にも耐えられるように作らないといけませんので」

ああ、そうか、そうだよね。私の足と義足のソケット部分と同じ問題が出てくるのか。となると吸着の魔法も仕込んだほうがいいのかな。あーけど魔法に頼ると魔力管理がさらに厳しくなるな。重さが増えるんだから使用魔力も増えるだろうし、本末転倒しているな。

「なるほど、それは大きな問題ですね。材料は多くかかりますが換装は諦めたほうが良さそうですね」

魔法と言えど、なかなか難しい。このへんは科学と同じなのかー。


結局この牛型は一度ばらして関節をメンテナンスすることになった。メンテナンスしたら再び使い物になるのかの実験も兼ねている。関節には樹脂を仕込み、耐久性は上がるはずだけど、摩擦を増やすことによるマイナスがどの程度響くのかの検証も行う。

この牛型では切り株引っこ抜きみたいな重労働は無理と分かったけど、他の作業、もうちょっと負荷の小さい、例えば畑を耕す鋤を引っ張るとかに使ってみよう。


また数日かけて作業を行っていく。私はゴーレムの素体を作成している間はゴーレム建造の呪文の最適化を行っていった。義足に使う呪文も日々アップデートしていっている。魔法に対する理解や経験が増えていけばいくほど改善点に気づけたためだ。


この半月あまりで工房のゴブリンは倍に増え、ハイゴブリンも増えた。その分、防衛や農耕に従事するゴブリンが減ってしまったが、そのへんはゴーレムで補う予定である。今不足している分は、ガギやゲゴ、それに私が作った従来どおりのゴーレムで補った。これらを将来的にはハイゴブリンが動かすゴーレムにしていきたい。工房で作りたいものはまだまだたくさんあるし。


その間に関節に使う予定の樹脂を取るために森深くに入っていくことがあった。無理をいってついて行ったのだけど、道中で魔樹に出会った。魔樹といってもそれに巻き付いているつるが本体らしいんだけど、こいつに巻き付かれた木はゴーレム化して動き出すのだ。そしてそのつるは動物に巻き付き、その魔力をすするんだそうだ。魔力が小さい動物は魔力を吸われてもちょっとした疲れになるだけだけど、ハイゴブリンなどの高い魔力を持つものが吸われ続けると気絶や体力の消耗からの死もありうるという怖いやつだった。


しかしグゲの敵ではなくあっさりとゴーレム化した木もろとも打ち倒された。

相手が悪かったね、と思いつつ説明を聞いて思いつくがことがあったので、切ったつると種子は回収してもらった。

この日は数匹の集団のジャイアントアントに遭遇しただけでヒュージアントは見かけなかった。しかしその痕跡はグゲが見つけたりしていた、たまたま出会わなかっただけでそれなりの数のヒュージアントが森を彷徨いているようだ。

目的の樹液も回収してすぐに引き上げた。


数日後のお昼過ぎ、一瞬やるべきことがなくなったので工房へ行くことにした。

ゴーレム化した義足は本当に便利だ。前のものより衝撃もゆるく出来ている。足へかかる衝撃の少ない歩き方を呪文に組み込んだのだ。AIのアップデートみたいなものね。おかげでつけていてよい時間は少し長くなった。代わりに余分に魔力を使うことになったけど使用魔力の軽減も合わせて見直しを行う予定なのでそれほど負担にはならないと思う。

その義足を付けて、側仕えに万一のために松葉杖を持ってきてもらって工房へ行く。


ギグとゼルンが揃って私を出迎えてくれる。私とのやり取りは休憩時間も兼ねている感じだ。この二人は特に夜も徹して作業を行ってくれているようなので、少しは休憩してもらわないとね。

「状況はどうですか?」

「はい、やはり金属で関節を作るための合わせ作業が気が遠くなりそうです。金属だと大雑把にしか形が作れず、かみ合わせをちゃんとする場合は少しずつ削って調整するしかありませんからな」

そうか、精密な作業が出来る機械があるわけじゃないし、そもそも金属を合わせるなんて作業は今までなかっただろうからノウハウから作っていかないといけないからか。んー、機械とは言わないけど何か役立つものは作れないかな。


それはそれとして。

「魔樹のつるからロープは作れましたか?」

「私から報告します。衣料担当のものに作らせましたが、意外と丈夫なものが出来たそうです。ただ魔樹のつる以外の繊維も使ったそうです。割合としては四割ほど魔樹以外の繊維でできています」

「魔樹のつるだけでは無理だった?」

「はい、どうしてもおかしくなったようです。ですから芯に巻き付かせるように魔樹のつるを使ったようです」

こちらがそれになります、と荷造り用紐みたいな細いロープが手渡された。

「お触りになると分かるかと思いますが、ロープになってもまだわずかですが魔力を吸ってきます。こんなものを一体何に使われるのですか?」


まだ魔力を吸ってくるのは計算外だったけど、なかなか良さそうだ。

「魔力を吸うぐらいなのですから魔力の通りが良いのですよね。これで術者とゴーレムを接続したらゴーレムの操作範囲が広くなるかと思いました」

現在のゴーレムでは素体ありでもなしでも術者はすぐ近くにいないとゴーレムとして維持ができない。魔力が距離があると減衰するからだ。空気中だと減衰するなら何かを通せばいいと考えた。有線で操作するものからの発想である。それが電気や燃料であるか魔力であるかの差だ。だから魔力を吸う紐状のものの存在を知って思いついたのだ。

普通のロープでも出来ないことはないだろうけど、どうせなら魔力の通りが良いと思われるものを使ったほうがいい。


「これを使ってゴーレムの遠隔操作、および遠隔維持のテストを行いたいと思います。実用化されれば今より多少便利になるかも」

ギグが食いついた。

「それはいいですね。牛型の時におっしゃっていたヒュージアントとの戦いのときなどは牛型があってもヒュージアントに近づかないといけなかったので術者が危険なのは変わりませんでしたからね。多少でも離れることが出来るなら護衛を用意できますし、画期的な発明になるかもしれません」

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