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牛型ゴーレム

ガギが労働用のはずの牛型ゴーレムの頭部に角をつけて動かしてほしいとか言い出した。正直何故か理解できず問いただしてしまった。

「いえ、確かに労働用なだけでしたらその部分はなくてもいいのですが、職人は限られておりますので、戦闘用の実験もしたいのです」

おお? ということは牛型ゴーレムを戦闘にも使ってみたい、ということか。


「それは急いでやったほうがいいことなのですか?」

「出来ましたら。ヒュージアント出現の報告が入っておりますので、万一の際やつの動きを止めるためにも。生身の牛ではすぐに殺されてしまいますので」

ヒュージクラブに対してグゲがやっていたような正面のデコイ役か。確かにあんなのはグゲぐらい強いかゴーレムでないと無理だね。

「なるほど。ガギの言うことももっともですね。ギグ、手間が増えますがそれでよろしいですか?」


「はい、私にもガギの言うことは理解できました。ゴブリンではヒュージアントの足止めは出来ません」

「ではそれでお願いします。どれぐらいでできそうかしら?」

「リン姫様の義足を元に、となりますと足だけでも最低4日は欲しく思います。頭部の稼働も考えますと、一週間はいただきたいです」

「一週間ですか。思ったよりかかりますね。人手が足りてない?」

「正直足りておりません。今いるゴブリンたちは腕はたつのですが、数が足りていませんので」

ふむー、今後のことも考えると増員したほうが良さそうだなぁ。


「ではギグの苦労は増えますが、職人ゴブリンを増員する方向で動けませんか?」

「増員、ですか?」

「確か今ゴブリンたちが余っているんですよね。彼らを職人には出来ませんか?」

「余っているわけでもありませんが、そうですね。確かに増やしたくはあります。ガギ、それでよろしいか?」

「ああ、リン姫様のご関心はゴーレムにあるようだし、今後も忙しくなるだろう。今のうちに増やしておいたほうが良いかもしれん」


「では、後進の選抜および育成のため、もう少しお時間をいただきたいと思います。十日でなんとかします。その増えた時間は今後増員によりカバー出来るようになるかと思います」

「ええ、先のことを考えると今時間を惜しむより、時間をかけた方が良いでしょう。皆の技術力もあげていかないといけませんしね」

「はい、現在リン姫様の足を作れるのはゼルンぐらいです。ですが今後はそうもいかないでしょうし、今のゼルン程度は出来るようゴブリンたちを鍛えたいと思います。……正直今まではそんなに複雑なものを作ることがありませんでしたので」


「あら、ギグには作れませんの?」

煽ったつもりはないのだけれど、気になったので聞いてしまった。技術に関してはギグがトップだと思っていたので。

「はは、わしはどちらかというと鍛冶専門なところがありましてな。木工に関してはもうゼルンに追いつかれております」


父親であり師であるはずのギグがそこまで言うとはゼルンはとても優秀なようだ。確かにあの出来のものを短時間で仕上げてたしねぇ。

「分かりました。それでお願いします」

「すまんがよろしく頼む。職人ゴブリンを増やす算段には私も協力しよう」

「ガギが手伝ってくれるのは助かります。出来ましたら選抜したゴブリン達にリン姫様も一言声をかけてやってください。ゴブリンたちはリン姫様を畏れ敬っておりますので、士気が変わってきます」

ええ? わたし畏れられてるの? そんな怖いことした覚えないんだけど。

複雑な感じだけど士気が上がるのはありがたいのでもちろん承諾した。


工房から帰りながらゴーレムの上で考える。

十日もあれば何かできそうだけど、私個人で出来ることが限られすぎてる。自分でも何か作れればいいんだけど、今更手先を使った技術を覚える? うーん教師がいないと混乱を招くだけになりそうだ。かといって今工房の人を教師として使うわけにもいかない。人手が足りないって言ってるのにその人手、しかも教師になれる優秀な人を使うわけにはいかない。


「リン姫様にはゲゴと協力してゴーレムの呪文を洗練させてほしいです。リン姫様は呪文の設計に向いているように思えますので」

確かにそのへんはゲゴにも褒められたことがある。たぶん今までの知識や研究のための論理的思考のたまものだと思う。魔法だけど呪文の設計は科学に似たものを感じるし。


「分かりました。ガギはどうするのです?」

「私はヒュージアントに備えなくてはなりませんし、人員配置に頭を悩ませるかと思います」

あー、まーそうだよね。ジュシュリ全体を仕切ってるのはガギだからねぇ。私の無茶でだいぶ気苦労をかけてると思う。まあその無茶も今後のジュシュリの役に立つとは思ってるんだけどね。


「ありがとうございます。ガギがいなくては私だけでは何も出来ませんから」

「ありがたきお言葉。私もリン姫様のお考えがジュシュリのためになると思ってのことですので、どうかお任せください」

自分で担ぎ出した神輿なのにガギの私の扱いは極上である。ガギにもいろいろとあるのだろう。私も助かるし。


それから十日。ヒュージではなくジャイアントなクラブを狩りに一緒に行ったり、きのこに当たったりしたけど、特に変化も混乱もない日を過ごした。きのこに関しては料理人のゾダィの責任ではない。どうもゴブリンやハイゴブリンには問題ないけど人間には問題のあるきのこが混じっていたようなのだ。ゾダィは私が人間だと知らないし、知っていたとしても人間だけは駄目なきのこがあるとか思いも寄らないだろう。ガギの口伝にもそのきのこに関する知識はなかったようだし。

きのこは薬にもなるものだし、そういったことがあるのを予想しておくべきだったから、これは私の責任だ。まあ苦しんだもの私だけだから今後に活かそう。


牛型の素体は昨日できた。十日かかると言っていたのに一日早く仕上げるとは優秀である。彼らが昼夜を問わず作業をしていたのは知っているので作業時間に余裕を見て言ったのではないことも分かってるし。

ゴーレム化は出来たので今日は実地試験である。場所はさらに畑を拡大するために開墾した森の側の土地で、切り倒した木の切り株を引っこ抜く作業である。今までだと雄牛を使って、さらにゴブリンたちが事前準備を行ってなんとかだったらしいのでとても時間がかかっていたのが、事前準備なく一気に引き抜けるようになればと思ってのテストである。これが出来れば牛型ゴーレムは牛以上の力が出せるということになる。これが実用化すれば雄牛は楽になるだろう。そもそも雄牛の数も足りてない。餌の問題で増やせなかったらしい。今回の開墾で畑が増えれば家畜用の餌にも余裕が出てくるのでこの実験の成否は重要だ。


最初は私がゴーレムにしてみる。私の魔力が牛型に流れていく。牛型全体に魔力が溜まっていくが、魔力の光は主に関節部分に集まっていく。その流れは動かし始めると顕著だった。

切り株に巻きつけた鎖を牛型ゴーレムが引っ張る。しばらくすると切り株からメリメリと根が切れる音がした。しかしそれで止まり、牛型ゴーレムは足が滑るようになってしまった。結果としては失敗である。


たぶん木製なため重さが実際の牛より軽く、また石突のように鉄をかぶせただけの足では摩擦が足りなかったのもあると思う。しかし一番の問題はパワー不足のようだ。もっと魔力を込めればいけると思うんだけど、これはハイゴブリンでも使えるように魔力を絞ったバージョンのため、これ以上魔力を注ぐことは出来なかった。

そして実験を中止して牛型を調べて分かったことだけど、たった一回のテストで足の関節の一部がゆるくなっていた。魔力で無理に力をかけたため、一気に摩耗してしまったようだ。

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