思い出
そのあと、セレナさんから見たアンンドリュー殿下、すなわち私の父親評を聞いた。
今の皇帝陛下、すなわち兄とかなり仲が良く、また賢いお方であったので、皇帝の座を争わず、宰相になるか、田舎の領土に封じられて大人しく余生を過ごすか、みたいな話をされていたそうだ。そんな父から、貴族社会から逃げないか?と誘われた時はびっくりしたそうだ。お相手のことは誰にもバレていないと思っていたのに、セレナさんも逃げたがっているということをどうやってか察知して声をかけてきてくれたそうだ。
「たぶん私一人では逃げることも叶わず、一時の恋煩いだったとなっていたのでしょうね」
と淋しげに笑っておられた。父とはレニウムの近くにある小さな別の街で別れ、それ以来会わなかったということだ。どこに行かれたのかも聞いておらず誰が相手かも聞いていないので、捕まった時は知らないで通したらしい。魔法で嘘を言っていないかも調べられたけど、本当に知らなかったので回避できた、と。
「見たところリン様はハーフエルフに見えますが、皇家の血筋にエルフが入っているという話は聞いたことがありませんので、もしやリン様の御母上はエルフだったのですか?」
ハーフエルフはテオン様のように稀に人間同士からでも生まれることがあるけど、それは先祖にエルフがいたということらしい。チェンジリングという現象らしいけど、それが出てくるのはそういうことだと思われているそうだ。ということはそれが本当かどうかはまだ分かってないってことね。ハーフエルフはいるけどクォーターエルフはいないらしいし。
「はい、エルフでした。どこでどうやって父と知り合ったのかは聞いておりませんが」
「そうなのですね。純粋なエルフは途絶えたと聞いておりましたから。まだ生き残っていたのですね」
「エルフは愛した相手の特性を得て同化するらしいですから、見た目以外」
「そう、なのですね。お察しいたします。これもなにかの縁、商売のこともありますし、個人的にでもご協力させてください」
「本日は思いつきで来てしまって申し訳ありませんでした。父のことを少しでも知りたいと思ってしまったので。ありがとうございました」
急に来たのであまり時間を取らせるのもまずいと思ったので、ここらへ下がろうと思った。
「いえいえ、今の私があるのも、皇帝陛下とその弟君であるアンドリュー殿下のおかげですから。あの兄弟には頭が上がりません。受けた恩は陛下と、アンドリュー殿下の忘れ形見であるリン様に……。本当に似ておられますよ」
私には父アンドリューとの記憶はない。けどそのよく似ていると言われる父が良い方だったと思われていることは素直に嬉しく感じることが出来た。
「ありがとうございます。本日はこれでお暇いたします。またお話させてください」
「ええ、もちろんですわ」
セレナさんの執事がすっと出てきて、私を門まで送ってくれる。その際に今日出てきたお菓子の一部をつつんでグゲに渡してくれたようだ。いれたりつくせりとはこういうことか。
ふう、甘いものを食べれて元気は出たけど、今日はいろいろとあって疲れたかも。もう待つだけではあるし、帰ろうかな、とセレナさんの屋敷から少し離れたところまで歩いたところ、声をかけられた。
「リン様ではないですか。護衛一人で歩いておられるとは」




