商売
パサヒアス様からの依頼だったとはいえ、これは私達ライクーンにとってかなりの商機となりそうだ。
でもまずはパサヒアス様が望んでいるだろう、ミリシディア産の衣類の販売網を構築しないと、ね。
帝国やその周辺の多くの国では、衣類は全て個人が一から縫うもので完成品を売るという概念がないっぽい。貧乏人には古着を買う、ということもあるみたいだけど、あくまで古着であって新品を買うということはないらしい。
布はもちろん糸ですら貴重みたいだし、針子さんも大勢いるからそんなものなのかもしれない。けどこちらの新品衣類は数年分タダ働きでミシリディアの獣人たちが作りためたものを魔族が管理維持していたものだから、すごく品質もいい。
寝具も売りになるはずだし、これを安価ででも売ればミリシディアには嬉しい外貨が手に入るハズ。今のミリシディアには独自通貨すらないからね。
まずは概念から広めないといけないから、どうしても最初は安くしていかないといけないと思うけど、ものはいいはずなので徐々に価値を高めていかなくては。
そのためにも直営でやっていきたいけど、ライクーンにもそれほど人材はいないだろうし、このへんは皆と相談しながらね。
「ライクーンには売るものがたくさんあります。望まれているだろうゴーレムや特殊な家具はもちろんとして、ミリシディア産の衣類など、革命的なものもあります。テルルには帝国での文化の中心になっていただくかもしれないレベルで」
大げさに言っておく。言うだけならただだし、これらは現代人である私の価値観でのことなので、もしかすると多大に過ぎた評価をしてしまっているだけの可能性もある。けどその逆でその価値を評価しきれず過小評価している可能性もある。私は、どう転んでも宣伝はしておいた方が良い、と思った。
「ええ、戦争中ではありますが、それ以前に運河の出口としての港となった我がテルルは今未曾有の好景気でもありますので、ある程度は余裕があります。その衣類などにも興味がありますわ」
「残念ながら今はお貴族様がお召になられるような商品はないかもしれませんが、一般市民にとってはたいへん価値の高い衣服がかなりお安く手に入るような算段をしております。古着ではなく新品を安く売ろうかと」
「衣服の新品、ですか? ミリシディアには針子が大勢おられるのかしら?」
「似たようなものですが、寸法を測って一人ひとりに合わせた服ではありません。そうですね、古着販売みたいなもので、自分のサイズにあったものを探して買う、という形になります」
「まあ、私も一市民であったときがありますから解りますわ。下着などは作っていただきましたが、普段の服はあの人と一緒に古着を買いに行っておりましたわ」
トップの方が理解されているのは助かる。あとはテルルでの商売を行う者を決めて、その者に商売の許可を与えてもらって、店舗を作って、口コミで宣伝して、と商品を持ち込んで売る以外にもいろいろとしないといけない。
けどこれを私が指揮する時間はないだろうから、仕切りの委任を誰かにしないといけない。
……ぶっちゃけそんな人材に心当たりはない。から心当たりがありそうな信頼できる人から当たっていかないといけない。……ガギとラキウス、同じ人間だからラキウスだね。領主代行してもらってるし、そのへんの心当たりもあるに違いない。となると一度時間を作ってライクーンに戻らないといけないね。




